125、
駅周辺を探し回り、あれやこれやと見ていくうちに、結局いつもの場所にたどり着いた。
「なんでここに来ちゃうんだろうねぇ」
「さぁ、ねぇ」
「まぁ僕はここのパフェが1番好きだからいいんだけどね」
星空くんが先行してドアを開けると軽い音より先に土門さんの怒鳴り声が飛んできた。
「だから、違うっつってんだろうが!」
「あたしはこれがいいの! こっちのほうがかわええやん!」
「アホか! そんなんホイップの無駄だ! タダでさえ高いのに更に高くするつもりか!」
遅れてベルの軽い音の余韻が耳に入った。
「なんかいつもタイミング悪いなぁ、僕」
溜め息にも近い言葉を吐いて、店内に入っていく。
いつものようにカウンター席に座り、いい加減に痺れを切らした星空くんは手を上げた。
「土門! パフェ!」
びっくりしたような音、フライパンが落ちるような音がして、厨房から土門さんが出てきた。
「なんだ。来てたのか」
「もうかれこれ2時間近く待ってるんだけど」
「あぁ、すまねぇ。っで何食うんだ?」
「さっきのパフェ。僕と時雨ちゃんに頂戴」
今度は厨房からフライパンが踏まれて回る様な音がした。
「おっし! あたしに任せときぃ!」
「ダメに決まってんだろ! あんなん出せねぇよ!」
「ええやん! あの方がええって! 絶対!」
「だから! 単価もあるっつってんだっつうの!」
「あの! 私それでいいです!」
睨みあって怒鳴りあってる2人の間に入るかの如く、私も声を大にして叫んだ。
「あ、あの。もうパフェ我慢できないんです。パフェりたいんです!」
パフェりたい……。
私何言ってるんだろ。
私が性にもなく声をあらげたからなのか、みんな私を驚いた表情で見ている。
「あ、あの、はやくパフェください」
「お、おう。だってよ」
皐月さんを横目で見て何かを促す土門さん。
「よっしゃ! ありがとな! 時雨ちゃん!」
そう言うなりすぐに厨房に戻り、さっきまで作っていたパフェをもって出てきた。
「ほら、これやで!」
それは、この店のパフェとは打って変わって、確かに可愛くなっていた。
ホイップを盛り込んだストロベリーパフェ。
ファミレスで食べたものより大きく、それでいて、苺が大量に乗っていた。
ぱっと見、これだけで胃がもたれそうだと思われるが、意外と量はなく、すらっといけてしまった。
「美味しいです!」
「せやろ! ほらどうや?」
「だから、コストだって……」
確かにホイップと苺の量が増えてコスト自体高くなっているだろう。
ただ、今の値段より高くなると、早々手につけられないものになってしまう。
「元なんて取らんでもなんとかなるって。そもそもの価格設定高すぎなんよ。だからそのままの値段でええやん」
「ダメだ」
「このわからずや!」
苦笑いしか出ない。
でも、このパフェはこの店の色を一瞬だけ取り戻した気がした。
なんか、ここは本当にセピア色の場所なのかもしれない。
土門さんと美月さんの、昔の記憶が飾られているだけの場所。
だから、土門さん自体が、それを忘れたくなくて、なにもかもそのままにしているのかもしれない。
そう、思ってしまった。