123、
4月も後半なのだが、特にこれと言った出来事もない。
美晴との交際がうやむやのまま、結局のところ破局、のような感じなのだから遊ぶ暇もない。
最近どうやらダンドリオンと一緒にやることが多いらしく、現在はダンドリオンと全国のライブの真っ最中らしい。
今頃名古屋なんだろうなぁ。
そんなこと考えたって近くに彼が来る訳でもないのだからせっせと荷物をまとめていた。
とりあえず、あそこに向かおう。
っと、その前に、CDショップに行かなきゃ。
たまには漁りたい時もある。
あそことはほぼ真反対にあるCDショップに行き、いつものように面白そうな曲を聞いては、棚に戻すことを繰り返していた。
そういえば、最早始まりはここからだっけか。
美晴とダンドリオンの新CDを取り合った時だったなぁ。
確か、この付近だと思う。
今は期待の新人アーティストのCDが大量に置かれているこの場所。
なんでCDなんか買おうとしたんだろう?
カジくんに言えば1枚くらいくれそうなのに。
くれはしないか。
でも、金と引換にはなるよなぁ。
なんで、買おうとしたんだろう。
なんか、嫌な予感がした。
私、大変な勘違いをしているんじゃないのか。
ーーーー美晴が、私を見てくれない理由がそこにある気がする。
しかしながら、曖昧すぎて、単なる空想なようでもあった。
そんなことはない。
そうだ。
きっと、私の思い違いに決まっている。
今日は1枚も買わずに出ていった。
もう、ダンドリオンの新曲が収録されたCDなんて買いたくなかったし。
あそこはいつもとは違い、入るなり異様な雰囲気が流れていた。
星空くんがだけがカウンターに座っていて、心配そうに厨房の方を眺めていた。
「あ、時雨ちゃん? なにがあったの? 皐月さんが厨房で料理してるんだけど……」
なにも知らされてない?
私に気づいた星空君は目だけを向けて私を確認すると直ぐに厨房に視線を戻した。
話す前に私も座り、前の時の流れを説明した。
「あぁ、なるほど。それで皐月さん必死なのか」
厨房では会話は聞こえないが、じゅっという美味しそうな音だけが聞こえる。
何を作っているかわからないけど、その本気がこっちまで伝わってくるようだった。
「なんか、パフェでも頼もうかと思ってきたけど頼みづらいなぁ」
確かに。
かなり頼みづらい。
「ダメだ。炒めすぎ。焦げ臭いだろ」
「えぇ! たった30秒やんか!!」
「ダメなものはダメだ」
「なんでやぁ」
もはや悲鳴のような声がこっちまで飛んでくる。
やはりかなり厳しいようだ。
私は星空くんと目を合わせて苦笑した。
こりゃぁ、当分無理だろうな。
皐月さんの本気が伝わるけど、小腹が空いた私たちに気づいて欲しい気はしていた。