121、
時間帯なのか、車の通る音さえない。
今、聞こえる音は、しとしとと振り続ける雨と、私たちの歩く音だけだった。
ギターを庇うために、私自身半分近くが傘から外れている。
美晴がそんなこと気づくはずもなく、ただ、いつものように無表情に真っ直ぐを見ていた。
時折、水溜まりに足を入れると、ピシャッという音が鳴る。
本当に静かだ。
私たちだけの世界。
物語ならそう表現されるような、そんな感じだった。
意を決した。
「あのさ、美晴。ホントのこと言って欲しいんだ。あのね、カジ君とは中学からの仲なんだって? だけどさ、なんか今おかしいよね。虐められてたりするの?」
上手く言えなかった。
でも、聞きたいことは聞いている感じではある。
美晴は私に顔を向けて嫌な顔をした。
「虐められてたりなんかされてねぇよ。仕事なんだ。それだけだ」
軽く流された。
でも、やっぱり、気になる。
「じゃぁ、なんで私のために私と別れたの? いや、別れ話を切り出したの?」
彼はまた嫌な顔をする。
ごめん、でも気になるんだ。
「別に、飽きたからだよ」
「ーーーー嘘だよ。そんなの。なんで嘘なんかつくの!!」
つい声をあらげてしまった。
「ごめん」
驚いているというより、どう返そうか悩んでいるようだった。
もう、感情が制御できそうにない私に、彼はなんて言うのだろう。
冷静に解析しながら、あくまでも冷静に私も聞かなきゃ。
「嘘なんかじゃない。ホントに飽きた」
「知ってるよ? 美晴のもの、ほとんどカジくん取られちゃうって」
「……そんなことない。……誰からそんなことを?」
「皐月さんだよ」
「……あのバカ、」
吐き捨てるように呟くと、視線を進行方向に向けた。
「別に私はそれだったらそれでいい。そんな理由で別れて欲しいならそう言って欲しいの。ただ、別れて欲しいのなんて言われただけなんか納得できない!」
視線は変わらず真っ直ぐだった。
また、しとしとという音が聞こえ始めた。
とてつもなく静かな世界。
なにも答えてくれそうにない。
私はこれだけを教えて欲しいのに。
軽く諦めて、私も真っ直ぐ向いた。
いつの間にか駅に着くくらいだった。
結局、このもやもやは取れないのか。
「オレは、諦めない」
「ーーーーっえ?」
意味がわからなかった。
聞き逃しそうだった。
駅に着くまで、そのまま沈黙が制した。
「ありがとう」
「……どういたしまして」
大きな傘を閉じて、改札まで見送る。
彼は、後ろ手に手を上げると、そのままホームに入っていった。
それを意味ありげに見ていた。
「なによ。諦めないって。私も諦めないよ」
私以外その場にはいない。
本当に、誰もいなくなってしまったのだろうか……。
美晴さえ、いなくなってしまったらとふと考えたが、そんなこと直ぐに否定した。
「バカなのは誰よ、……バカっ」