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しぐれぐむ  作者: kazuha
カジとヨシと……
121/200

121、




 時間帯なのか、車の通る音さえない。



 今、聞こえる音は、しとしとと振り続ける雨と、私たちの歩く音だけだった。



 ギターを庇うために、私自身半分近くが傘から外れている。



 美晴がそんなこと気づくはずもなく、ただ、いつものように無表情に真っ直ぐを見ていた。



 時折、水溜まりに足を入れると、ピシャッという音が鳴る。



 本当に静かだ。


 私たちだけの世界。


 物語ならそう表現されるような、そんな感じだった。





 意を決した。


「あのさ、美晴。ホントのこと言って欲しいんだ。あのね、カジ君とは中学からの仲なんだって? だけどさ、なんか今おかしいよね。虐められてたりするの?」



 上手く言えなかった。


 でも、聞きたいことは聞いている感じではある。



 美晴は私に顔を向けて嫌な顔をした。



「虐められてたりなんかされてねぇよ。仕事なんだ。それだけだ」



 軽く流された。


 でも、やっぱり、気になる。



「じゃぁ、なんで私のために私と別れたの? いや、別れ話を切り出したの?」



 彼はまた嫌な顔をする。



 ごめん、でも気になるんだ。



「別に、飽きたからだよ」












「ーーーー嘘だよ。そんなの。なんで嘘なんかつくの!!」



 つい声をあらげてしまった。


「ごめん」



 驚いているというより、どう返そうか悩んでいるようだった。



 もう、感情が制御できそうにない私に、彼はなんて言うのだろう。



 冷静に解析しながら、あくまでも冷静に私も聞かなきゃ。



「嘘なんかじゃない。ホントに飽きた」



「知ってるよ? 美晴のもの、ほとんどカジくん取られちゃうって」


「……そんなことない。……誰からそんなことを?」



「皐月さんだよ」



「……あのバカ、」



 吐き捨てるように呟くと、視線を進行方向に向けた。



「別に私はそれだったらそれでいい。そんな理由で別れて欲しいならそう言って欲しいの。ただ、別れて欲しいのなんて言われただけなんか納得できない!」



 視線は変わらず真っ直ぐだった。


 また、しとしとという音が聞こえ始めた。




 とてつもなく静かな世界。


 


 なにも答えてくれそうにない。


 私はこれだけを教えて欲しいのに。



 軽く諦めて、私も真っ直ぐ向いた。



 いつの間にか駅に着くくらいだった。



 結局、このもやもやは取れないのか。




「オレは、諦めない」



「ーーーーっえ?」




 意味がわからなかった。


 聞き逃しそうだった。 




 駅に着くまで、そのまま沈黙が制した。




「ありがとう」


「……どういたしまして」



 大きな傘を閉じて、改札まで見送る。



 彼は、後ろ手に手を上げると、そのままホームに入っていった。



 それを意味ありげに見ていた。




「なによ。諦めないって。私も諦めないよ」



 私以外その場にはいない。



 本当に、誰もいなくなってしまったのだろうか……。



 美晴さえ、いなくなってしまったらとふと考えたが、そんなこと直ぐに否定した。



「バカなのは誰よ、……バカっ」









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