119、
土曜に授業を入れてないため、今日は1日家にいるつもりだった。
なんせ、美晴もいつ来るか知らないために、ずっと張ってる必要がある。
とかなんとか難しいことを考えながら、おせんべいとお茶を用意して、それらを食しながらテレビを見ていた。
急に階段でドタドタと駆け下りる音を聞くと、とうとうやって来たと思うが、私は動かない。
ガチャっと扉が開く音がして直ぐにお邪魔しますと美晴の声が飛んできた。
そのまま2階に上がっていく2つの足音がする。
まだ動かない。
今はまだ動くところじゃない。
上でベンベンとギターを弾く音がする。
相変わらずアンプには繋がないようで、ひ弱な音がここまで流れてくるくらいだった。
こう聞くと、大智も上手くなったもんだった。
コードも安定して弾けるようだし、そろそろ曲にでも移るのではないだろうか。
そんなこと考えていたら、ギターの音がやんだ。
なんだ?
もう終わりなのか?
まだ始まって30分程度しか経っていない。
いつもなら2、3時間は教え込むから少し焦った。
すると、音もなく居間の扉が開いた。
それは美晴で、大きな紙袋を片手に顔と手だけを隙間から出した。
「なぁ、ここにケーキ入ってるから取り分けて持ってきてくんね? 3つ入ってるから、好きなの食っていいし」
あぁ、そういうこと。
私はそれを受取に行き、紙袋を受け取ると、一言呟く。
「ばか」
そして、挟むかのごとく扉を押し閉める。
残念ながら手も首もはさめなかったけど。
紙袋の中には確かにケーキの入った箱が入っていた。
何故こんな大きな袋に入っているのかは意味がわからないが、箱を取り出し、開ける。
三種類のケーキが鮮やかに入っている。
ショートケーキ。
モンブラン。
チーズケーキ。
私は迷わずチーズケーキを取り、お皿に乗っけた。
「私の分っ」
いやぁ、好きなんですよチーズケーキ。
他のケーキもそれぞれお皿に乗っけて、ついでに紅茶も作り、持っていった。
真剣に練習している中、ノックもせずに入り、ケーキと紅茶だけ置いて退散した。
私も新しく紅茶を入れ、小さいフォークでチーズケーキを食べる。
甘さが口の中でとろけて広がり、クッキー生地のスポンジもいいアクセントになってる。
あぁ、幸せ。
食べ終わる頃には、テレビ番組が1つ終わっていた。
軽く1時間が経ったのだろう。
既にぬるくなった紅茶を飲み干し、チャンネルを回すが面白そうな番組はやっていそうでなかった。
仕方なく……仕方なく、大智の部屋に入る。
ケーキも紅茶もすっからかんになったこの空間に、楽譜を見て真剣に弾いている大智がいた。
美晴はそれを見ながら、しっかりとここがダメ、そこがダメと指導している。
変な光景だ。
私が来た辺りで丁度一通り終わったのか、始めから弾き始める。
それは、サチレと初めて出会った時に聞いた曲だった。
私は思わず口ずさんでしまった。