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チェスとか将棋とかやり方はわからないけど、地道に相手を攻めていく勝負というのはなかなか根気と知識、さらに直感が必要だ。
最終的に、王の行き場をなくして勝負あり、所謂チェックメイトや王手と言われるやつは爽快かつ快感であろう。
それができるのは、余裕がある方のみだ。
王のみで、まだ無傷の相手に挑むのなんて無理だ。
すぐに詰められて潰されてしまう。
そんな状態なのだろうか、今は。
お風呂に入りながら、上の空だった。
いや、詳しくはそんなこと考えていたのだが。
この閉鎖された空間に溜め息の音だけが響いた。
あれこれ考えてなんとか美晴に会えないかと思ったが、星空くんが言ってたように、拮抗的な状態下で緊張した糸を1つ切るようなことをすれば全てが崩れるに違いない。
あぁ、なんとかならないか……。
会って話がしたい。
私の知っていることは、全て本当なのかどうなのか、知りたい。
そろそろお風呂に入って1時間半がすぎる頃だろうか。
指がしわしわになっていた。
いい加減出よう。
お風呂から出て体を拭き、寝間着を着て髪を乾かす。
見たいテレビがあったので、そのまま今に行くとそこには母と弟がいた。
みんな見たいテレビは一緒のようで、チャンネルは私の見たい所と一緒だった。
ポットに沸かされていたお湯を、紅茶のパックを入れておいたカップに注ぎ、私の席に座った。
晩御飯の残りがおつまみとして置かれていて、そのおつまみを食べながらテレビに釘付けだった大智がテレビがCMになると急に私を見た。
「あ、明後日美晴が教えに来てくれるから、今度は邪魔するなよ」
ーーーーこれは、思ってもみなかったチャンスだ。
「ホントに!」
どんと机を叩いて立ち上がった。
「お、おう」
「ホントなのね!」
「だから、そうだって言ってるじゃん……。ねぇちゃんキモイ」
ドカっと座り紅茶を飲んだ。
意外とチャンスは転がって来るみたいだ。
その日までに、しっかりと自分の意見を固めて置かなければ。
無理がない、みんなが納得するような、そんな状態になればいい。
最悪、金輪際会えなくなっても、私はその選択を間違ってなかったって言えるくらいに、強くでなければ。
もう、泣いてなんかいられない。
私が元凶なら、私がなんとかするのが筋だろうから。
テレビが始まった。
音楽番組。
誰もが知っているアーティストが出てきて場を賑やかにさせる。
ダンドリオンもサチレも出ないけれど、それでも私は音楽が好きだった。
それでも、私は……。