112、
泣きやんだ。
自分でそう思うのに4日かかった。
それでも、自分の部屋から出られない。
立てる。
歩ける。
ドアも開けられる。
ただ、あと1歩が出せない。
気持ち悪くなるとか、そういうのじゃなくて、結界が張られているように、その先に進めないのだ。
またベットに戻り携帯を開く。
光らない携帯。
電源を消していた。
きっと、つければ何通かメールが入っているだろう。
それが誰であれ見たくなかった。
また、傷をえぐられたら、それこそ立ち直れなくなる。
携帯を閉じる。
こんな状態でも日記を書き続けている。
昨日は、泣き疲れた。
一昨日は、声が枯れてきた。
その前は、涙が止まらない。
短いながらそう、書いていた。
これを書き続けていないと、今にでも首を吊って死んでしまいそうだった。
それぐらい、私の今の状態は不安定だった。
既に美晴の顔なんて涙とともに流れて思い出せない。
だから、その単語を聞いても、なんとも思わない。
今日はなんて書こう。
やっと泣きやめたとでも書こうか。
そんなことを考えてる時だった。
扉を2回ノックする音が聞こえた。
誰だろう。
振り返り、名乗るのを待った。
「時雨ちゃん? ごめんあたしやけど、入ってええか?」
女性の、比較的低めな声だった。
エセ関西弁のような中途半端ななまり方をしている。
誰だっけ?
名前は……。
知ってる気がする。
「……入って下さい」
枯れた声。
酷いもんだ。
もう、一生こんな声なのだろうか。
まぁその方が、誰にも好かれないで済むから、楽だろうな。
扉がゆっくりと開いた。
そこには、相変わらずの顔があった。
「皐月さん、どうしたんですか?」
ゆっくりと入ってくる彼女に、以前のような頼もしさが微塵も感じられなかった。
おどおどしている。
「あんな? あたし、よくわかってへんけど、最近学校に来てないやん? それが心配でな」
扉が勝手に閉まる音が丁度よく合間を繋いだ。
「まだ、死んでないんで、大丈夫です」
一瞬驚いたような反応をした。
なにかを悟ったのかな?
「もう、学校もやめようかなって、思ってるんです」
「……っ!」
なにか言いたげだった。
口をパクパクさせて、それでも言葉が見つけられないで視線があちこち向いていた。
「それがいいと思いません? 誰にも迷惑かけないし」
「あたしは、それじゃダメやと思う……」
何がですか?
そう聞く前に言葉を繋げる。
「一応言っておく。ヨシが絶対に言って無いだろうし、言わないだろうから、言っておく。よく聞いててや時雨ちゃん。あたし、よくわからないけど、きっと……」
唇を噛んだ。
悲しそうな顔をする皐月さんのその顔の意味がわからなかった。
「単刀直入に言うと、ヨシは嘘をついてる。時雨ちゃんのこと大好きやし、離したくないとも思っとる。だから、別れ話を切り出したんやないかなって。メールで別れ話切り出されたやろ?」
言い当てられて正直驚いた。
確かになにも知らないはずなのに。
「ええか? それだけは絶対に忘れないで聞いてや。これから、教えるから。ゆっくり、納得できるまで。時雨ちゃんにはその権利あると思うんねん。あたしが知っている限りの、ヨシくんの過去を……」
過去?
なんでそんなこと話すんだろう。
それはすぐにわかった。




