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しぐれぐむ  作者: kazuha
カジとヨシと……
110/200

110、




「あぁ、美晴! 時雨ちゃん、俺のな」



 ピキッ。


 なにかが裂けるような音がした。


 美晴も私もなんのことかわからなかったが、美晴がなにか気付いたのか口を開いたら。



「なんで!」



「なんで? そんなんお前が1番わかってるだろ?」



 美晴がくっと息を呑む。


「ほら、後アレスとの久々の共演だけなんだよ。早く準備しろ」


 相変わらずマイク越しの命令に、私にしか聞こえない舌打ちをする。



「待ってろ。今ギター温めてくるから」



 美晴は私に2つの弁当を押し付けるように渡し直ぐにステージ横の扉に入っていった。



 カジ君以外のメンバーは堪えていた笑いを爆発させる。


 ライブハウスには笑い声が鳴り響く。



「よし、ってことで時雨ちゃん、今日は飲みに行くよ」

「いえ、あの……」

「あ、ごめんね」


 よかった。


 一瞬だけ解放された気分になる。


 ごめんねの後に、流石に忙しいか、と繋がると予想していたから。



「拒否権ないから」



 一気に絶望感が襲った。



 いきなり過ぎてまだ良くわかってない。



ーーーー美晴に売られた?



 そんなことさえ思った。


 あいつがそんなことするはずがない。





 そう、アイツが、そんなことするはずがない。



「いいな、逃げるなよ」



 足が震えていた。


 怖い?


 いや、見捨てられた感じからの怒りか?



 とにかく、目頭が熱くなってきて、そろそろ泣き出してもおかしくない程だった。



「あらぁ、カジ。ゴメンネ。今日はあたしが先に予約してんねや。終わったらスイーツ食べるんやで」



 ふっと私の前に出てきたのは、短い茶髪がやけに色を濃くしたような色の女性だった。



「それに、拒否権はあるで。あたしがそれを受け付けた」



「ちっ!」



 面白くなさそうな顔。


 目の前の皐月さんは、私を隠すように少しだけ背伸びをしていた。



「そうかい。相変わらずうるせぇなぁ、皐月はよ!」



「ありがとさん。褒め言葉として受け取っておくわ」


 皐月さんは振り返って私の顔を覗き、ニコッと笑ってから、お弁当ありがとう、と呟いてライブハウスの外に出た。





 春の暖かい香りがする夕焼け時の風は嫌に虚しく、空しく、むなしく……。



 隣にいる皐月さんの大丈夫か? という言葉に急に緊張が取れ、我慢していた涙が一気に流れた。



 それとともに全身の力が抜け、お弁当を落とし、その場で座り込んでしまった。




 もう、わからなかった。


 もう、信じられなくなった。


 もう、立ち直れなくなった。




 やっと信じられる人が出来たと思ったのに、そしたら裏切られた。


 裏切られた。


 今までファンだったダンドリオンも急激に嫌いになった。


 売られた。


 そんな感じにしか感じられない。



 美晴は怒ってた。


 違う。


 演技だ。


 絶対に演技だ!



 私を騙すための、演技!


 絶対に!







 絶対に……。



 



 気が付いたら、私は家にいた。

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