11、
帰宅したら弟が珍しくご飯を食べに居間にいた。
「どうしたの? そういうバイト?」
私を見ての第一声。
「ファッションよ、ファッション。今はこれが流行りなのよ」
「姉貴がファッションとか、」
ワラ、と言う字幕が見えたところで弟の頭を軽く殴った。
「ったく、引き篭りに言われたくないわ」
「はいはい」
私の言葉に立ち上がり、ごっそう様、と無愛想に呟いて自分の部屋に戻って行った。
はぁ、なんか今日は疲れるな。
私もご飯を食べようと椅子に座るとお母さんがご飯を出してくれた。
かぼちゃにブリの刺身。
味噌汁にはおふが入っていて、いよいよ冬が訪れるのだなと思わせる。
「いただきます」
お箸を持って先ず味噌汁を啜った。
するとお母さんは目の前に座り、何故かにやけながら私を見ていた。
「なによ」
味噌汁を置きご飯を一口。
「いや、可愛いわねって」
「でしょ」
「彼氏でもできたの?」
ご飯を飲みこもうとした時だったから、むせてしまった。
「違うわよ!!」
「あらまぁ、そうなの」
クスクスと笑う。
「違うわよ。学校で貧血で倒れた時に付き添ってくれたバカと今日スイパラ行って、そのあと寒いからって服買ってくれたのよ」
「男の子? 女の子?」
「……男」
「あら、イケメンじゃない」
「イケメンなんかじゃない。最低なんだから。エッチすることしか考えてないし、私のこと痩せ過ぎとか言うし、冷たい手で触ってくるし、平気で待たせるし……」
「確かに最低ね」
「……でもね、そのバカ、バンドやってて、曲作るらしいんだけど、すごくいいのよねぇ」
あれ、私何言ってるんだろ。
「へぇ、そうなんだ」
「うん。ずっと聞いてたいくらい」
なんだか、あの日の記憶が鮮明に湧き上がってきたきた。
ロック。
でも、クラシカルな転調。
弾むリズム。
奇抜なビート。
何より、歌詞。
全てが脳内で鳴り響く。
まるで目の前に、彼らがいるかのような。
「時雨、楽しそうね」
お母さんの言葉は私にとって理解できないものだった。
でも、確かに心が弾んでいた。
楽しいとは違う。
明日が待ち遠しい。
それだけだ。
「ねぇ、お金頂戴」
「服でも買うの?」
「なんでわかったの?」
「お母さんもね、そんな時があったのよ」
お母さんはその場から離れ、直ぐに戻って来たと思ったら三万を手にしていた。
「そんないらないよ」
「いや、ホテル代とかね」
「怒るよ」
「冗談よ、冗談」
三万を受け取った。
どんな服を買おう。
明日暇かな?
今日のお詫びとして付き合わさせよう。
うふ、
――――明日が楽しみだった。