109、
そんな願いも叶ったのか、美晴からダンドリオンの受付をお願いされた。
土曜日の午後3時からスタンバイだそうだ。
2度目とは言え、流石にバイトは緊張する。
土曜は午前授業があり、そのあとはご飯を食べてから向かえば丁度いいくらいだ。
午前の授業を終えて、学校のホールで美晴と待ち合わせしていた。
ホールに向かい、どうせ黒いだろうアイツを探していた。
階段を降り、ホールの自動販売機近くの相変わらずな場所に相変わらず携帯をいじっているのを見つけた。
ただ、見た目が変わりすぎていて、一瞬美晴と認識できなかった。
「よ、」
「だれ?」
「え? オレだよ」
「本気で美晴?」
「……ええええ!」
なんで真っ赤なんだろうか。
服じゃなくて髪の毛。
「これだろ? まぁ、察して……」
髪をいじくりながら私から視線を反らす。
その姿はなんだか恥ずかしそうだった。
まぁ、真っ赤な髪の毛をさせて授業受けるとか恥ずかしくて死ねる。
「う、うん。わかった」
うん。
今日アルスとしてやるんだなとは思うよ。
だけど、一緒に歩きたくないかな。
「さ、行くか。今日は飯用意しているらしいから、このまんまライブハウス行こうぜ」
赤い髪がさらに近くになると、いい匂いが鼻をくすぶった。
女性的な香り。
なんだろう?
嗅いだだけで急に落ち着いた。
「いくか」
息を吐いて、まだ赤い彼の顔を見て笑顔で頷いた。
2人で電車を乗り継ぎ、いつも通りのライブハウスに入っていく。
中に入ると、スタッフの様な人達がせかせかと準備をしていた。
その中、ダンドリオンメンバーはリハーサルを行っていた。
「取り敢えず、裏で弁当貰って来るから、少し待ってて」
そういうなり美晴が奥の方に向かっていった。
と言うことなので、私はダンドリオンのリハーサルを見ることにした。
立ち位置からマイクの置き場所、スピーカーの音量から照明。
挙句の果てにはエフェクターとかも少しづつ変えている。
やっぱり、上手い。
実力がサチレとは雲泥の差があると言ってもおかしくないかもしれない。
唯一、美晴が対等かも知れないと思うくらいだ。
1曲が終わりリハーサル自体は終わりのようだった。
「あ、君が時雨ちゃんかな?」
聞き惚れていたら、カジ君がマイク越しに言う。
私は慌てて、はい、と叫ぶ。
「そうかそうか」
そんな時に美晴がお弁当を2つ持って戻ってきた。
「ああ、美晴! 時雨ちゃん、俺のな」
ーーーーいきなり、なんのことかと思った。
これが、美晴と私と、そして美月さんを結ぶきっかけになるなんて、誰が予想したか。