105、
誰がいいのか……。
皐月さん?
土門さん?
ホントに誰でもいいのかも知れないけど、私は独りでデパートに入った。
入るなり相変わらず高貴な香りが鼻を曲げた。
女だけど、流石にこの混ざりに混ざった匂いは我慢しなければならないほどの異様な臭いだ。
足早に近くのエスカレーターに乗り、2階へ向かう。
エスカレーターを上がり、いつものように左に曲がると、テラコさんを確認できた。
今はどうやら40歳前後のおばさんに洋服をコーディネートしているようだった。
エスカレーター近くの椅子に座り、それが終わるのを待った。
なんで、あんなに怒ったのだろう。
わからない。
手を合わせて握り合い、それを見つめていたら、そこに影がかかった。
「どうしたの時雨ちゃん? 服でも買いに来たの?」
見上げると、いつの間にか目の前に来ていたテラコさんが心配そうに見ていた。
私は首を横に振り、用件を話す。
「美晴が新しい曲の歌詞を見せてくれたんですよ」
「あら、もうできたの。はやいわねぇ」
「それの、感想を聞かれたんで答えたんですよ」
「ふぅん。それで?」
「なんか、怒られちゃったぽいんですよ」
「あぁ、なるほど。どんなこと言ったの?」
どんなこと……。
なにか心当たりでもあるのか、顔色変えずに細かく聞いてきた。
「他の曲に比べて、あんまり変わりがないって」
「あぁ。禁句言っちゃったんだ」
禁句?
私は頭を横に倒した。
「美晴が文学部みたいなサークル入ってるの知ってるじゃん? なんでだか考えたことある?」
「前にアイツに聞いたとき、バンドもう既に入ってるんだから他でつくる必要ないだろって」
「それは、音楽系サークルに入らなかった理由よね。別に文系部みたいなの沢山あるじゃない。なんで、物書きに向かったと思う?」
なんで……。
考えたこともなかった。
「美晴、歌詞下手なのよ。日本語がね。それなのにあんなにいい歌詞書けちゃうから恨めしいわよ」
それだけで、怒る理由ではない気がしたらテラコさんは続けた。
「まぁ、それがあってか、最近、ネットでつまらないとか書かれてるの知ってる? いつも同じ。また同じかよ。もう飽きた。だいぶ気にしてるみたいでね、多分そこだと思うのよ」
なるほど。
ってことは、私かなり酷いこと言った?
怒らせたというより、自分に対しての怒りなのだろうか……。
「まぁ、自虐行為はしないから安心して。謝って、一緒に考えれば許してくれるよ」
そう言ってテラコさんは後方を気にした。
そっちの方では、何人かの女の人が怖い目でテラコさんを見ていた。
「まぁ、そんなところこかな? そろそろ戻らないと怒られちゃうから、またね」
駆け足で戻っていくテラコさん。
そんなことがあったのか。
まさかだった。
明日、謝ろう。