103、
暗い空見上げると、そこには無邪気に光る幾億の星。
君は見て綺麗だと、笑い手を上げ指差す。
そうやって終わるこの曲は、なんだか虚しく、オルゴールの様なピアノで最後を締める。
途中から熱が篭もりすぎて目を瞑ってしまったらしい。
いや、現実を見たくないこともあるのだけど。
そんなこと言ったって、このままじゃ家にも帰れない。
終わってから1分近くなんの反応もないのがとてつもなく怖かった。
どんな顔をしてるんだろう。
訝しげな顔だろうか。
あぁ、目を開けたくない。
けど、いい加減に閉じてるのが辛いので、そっと、片目だけ開ける。
みんなの顔は予想を大きく外していた。
少なからず、上手いみたいな顔か、下手みたいな顔か、どっちかだと思っていた。
その、驚いた顔って、どっちの意味なんでしょうか……。
「あら、時雨ちゃん、上手じゃない」
立ち上がってピアノを片付け始めたテラコさんがとても嬉しいことを言ってくれた。
「いやぁ、そんなことないですよ」
「少なからず、美晴よりかは上手い」
土門さんが断言する。
私は美晴が歌った所を聞いたことないからなんとも言えない。
「ま、まぁ、特技だなんてもんじゃありませんよね」
「いや……、才能だろ」
……。
はい!?
「なんで、そんなに……」
ブツブツ言い始めた。
なんだろう。
気になる。
「もお、ヨシくん。時雨ちゃんが困っとるで」
「無理もないよ。こんなに上手いと彼ならああなるよ」
テラコさんが私の肩をぽんと叩き、出来上がった炒飯のある席へ向かった。
私も定位置の場所に座る。
未だに美晴は明後日の方向を見ていた。
それに誰も触れないのはいつものことだからなのか?
今更になって恥ずかしくなってきた。
私は軽く顔を隠す。
なんだろう、この感じ。
全体的にいつも賑やかなのに、皐月さんまでも黙ってしまった。
やっぱり、下手だったのかなぁ。
テラコさんは炒飯を食べ終わって水を一気に飲んだ。
「私帰るわ。明日も仕事だし」
「おうよ。530円」
「はいはい」
お金を払って直ぐに出ていった。
その流れで時計を見るとそろそろ7時だった。
「私も帰る」
「ん。じゃぁ送ってく」
うん。
私もお茶代だけ出して帰宅する。
上着も春仕様になり、多少変質者ではなくなった彼は車窓を眺めている。
無表情なのだが、少しだけ難しそうな顔。
「なに考えてるの?」
「ん? あ、あぁ。ちょっとな」
目を私に向けるだけでただそれだけ呟くとまた何かを考えるように車窓を眺める。
見慣れた風景。
特に目新しさなんてなかった。
隠し事。
私に言えないことがあるみたいで嫌だった。
言って欲しい。
ただ、嫉妬だけが今私を犯していた。