10、
テラコさんが仕事に戻ってから20分が過ぎたろう頃だろう。
私はまだひとりでお茶を飲んでいた。
いい加減に暇だったので携帯をいじり始める。
「よー。お、可愛いじゃん」
急に現れて私の隣に座った。
「あぁ、だりぃ。聞いてくれよ。他のバンドから曲作ってくれって言われてよぉ。まじ自分達の曲とかに自身ないのかねぇ。まじ腐ってるよ」
私にはわからないことだったが、そんなことどうでもよかった。
「かなり待ったんですけど」
ブスっとして柘植くんを睨んだ。
彼は無愛想に私をちらっと見て視線を戻した。
「……ごめん」
多少拍子抜けだった。
まさか謝られるとは思っていなかった。
「いや、別に……」
つい口を出てしまった。
自分の言っていることがめちゃくちゃだった。
謝って欲しかったのに、何故か私が申し訳ない気持ちになった。
「ホント、すまん。俺仕事になると時間忘れちまうからさ」
頷くだけで私は少し泣きそうだった。
「私こそごめんなさい。買って貰ったのに」
「……、あぁいやぁ、いいよ別に。前のお詫びにさ」
「前?」
「あぁ。なんか怒らせちまったからさ」
あの時は確かにガチで怒りました。
「ん? 値札ついてんぞ」
柘植くんは私の首筋に手を回し、プチんという音が耳付近で鳴った。
「ったく、テラコはこういうの適当だよな」
一気に心拍数が上がった。
一瞬、首筋を触られた。
「ん? どうした? 耳赤いぞ?」
「な、なんでもない!」
と言ってフードを被った。
「まぁ、なんでもいいけど。さぁ帰るか。仕事増えちまったし」
彼は立ち上がり私に手を差し出した。
私はその手を取って立ち上がる。
「そうそう、時雨は彼氏いるの?」
いきなりそう切り出された。
どういう意味ですかそれは??
「い、いないけど」
「今までずっと?」
「そうよ。なにか?」
「いや。気になってさ」
柘植くんは手をポケットに入れて歩きだした。
ほんっと意味わからない。
なんで、そんなこと聞くのさ!
「あ、それと、俺のことくん付けしないで。そして美晴の方がありがたい。柘植って嫌いなんだ」
「え? あ? はぁ?」
「わかったな」
「うん」
そのままスタスタ歩いていく彼を私は少し後ろから着いて行く。
横にまで出ると顔が赤いのがバレそうで嫌だったから。