みちたびご
たくさんいる傭兵の中に、彼女はいます。
水に濡れた華のような美貌を持つ彼女は傭兵をして日々を食べていました。
天使と人の間に生まれたかのような彼女は、神様も感心するくらいに美しく、そして困るくらいに強く育ちました。
ただ物事を考えるのはとても苦手でした。
よくわからない極端な思考のまま生きていました。
なので、傭兵として戦場を駆け巡っていました。
破壊の天使だの、惨殺の王女だのと騒がれていましたが、彼女は気にかけませんでした。
ただ、もらえる金額が上がったを少し嬉しく思いました。
ある戦場で、彼女は生きている子供を見つけました。震えていましたが、子供です。
死に子かと見間違いましたが、生きていました。
彼女はその子供を見つけて少し考えました。
こんな所に放り出されているということは、この子はきっと一人です。
自分が手にかけなくても、どうやって生きていくのでしょう。
とても疲れているようです。
泣いていました。
彼女はふと、自分には家族がいたような記憶を思い出しました。
しかしぼやけた記憶ばかりで、なんだか寂しくなりました。
彼女は子供の手引いて宿に帰りました。
子供はおとなしく、たいそう賢い子でした。
子供は始終彼女について周り、彼女が戦場へゆく時のみ宿に留まりました。
本から読み書きを覚え、さらに本から知を学び、すくすくと育ちます。
彼女は子供の成長を楽しみにするようになりました。
子はいつの間にか彼女の代わりに文字を書くようになり、彼女を姉と呼ぶようになりました。
彼女は子、と呼び返すようになりました。
彼らの日は厄もなく、害もなく、続いてゆきます。
やがて国が平和になり傭兵たちを雇うのをやめると、彼女は子を連れて国を出ました。
腰に武具を繋ぎ、子と手をつないでゆっくりと街道を歩きました。
川や海や深い森にさしかかるたびに子供が、景色が綺麗だ色が綺麗だと騒ぐものですから、旅は遅々としたものになります。
目的も無い旅でしたので、彼女は文句も無く子のわがままに付き合いました。
緑が染める森を彼らが歩いていると、それは唐突に現れました。
「おお長く探しました、精霊さま」
彼女は武器に手をかけましたが、現われたものはおかまいなしに続けます。
「お迎えに参りました」
銀色を宿した女官のようなものは言います。
子は静かに彼女の服をつかみました。
「はぐれ子となった精霊を、長くの間よく育ててくれました、ありがとう」
どうやら、女官は子供を迎えに来たようでした。
彼女は不服だと返すと、女官はゆったりとした口調で言いました。
「お礼に、願い事を叶えてあげましょう」
何でもいいのですよ、という女官の言葉に彼女は頷きました。
子と手を繋いだまま彼女は言いました。
「この子は私の子なので、連れて行かないでもらいたい」
長く一緒にいたせいか、彼女は子供を拾ってきたことを忘れていました。
かみ合わない討論の末に、彼女は勝ちました。
女官は折れて子のことを大層心配しながらどこかへ帰ってゆきます。
子は何も言いませんでしたが、その日はずっと手を繋いでいました。
子が育ち、成人となる頃に彼女は悩んでいた事を告げました。
「私たちには家族がいない。長い間探しているのだが、もう見つからないかもしれない」
こんなに遠くまで探しても見つからないのだ、と彼女は肩を落として言いました。
子は呆れました。
「姉の目の前にいますし、私の目の前にもいます」
よくわかっていない顔を見てさらに呆れました。
「私たちは家族でしょう」
子が小言のように説明をすると、姉は首をかしげました。
三回ほど同じことを説明すると姉はようやくわかったようでした。
姉は嬉しそうに笑い、これからよろしくと告げました。