うさぎとりゅう
あるところ、りゅうがいました。
そのりゅうは白い大きな体をしていて、嫌われ者の赤い目をしていました。
卵の時からのけ卵にされていて、卵から出てものけ竜にされて育っていたので、ずっと首を垂らしたままの臆病なりゅうでした。
他の竜たちと離れて生きていたりゅうはある夜に小さなものと会いました。
暗くてよくわかりませんが、りゅうの鼻先で、もこもことしていました。
他の竜たちなら目にも入らないようなそれはウサギと名乗ります。
首を垂らして、地面に目が近かったおかげでりゅうは彼女に気づいたのです。
「どうしてあなたは一人なの?」
「卵から一人だよ。だからずっと一人さ、仕方ないんだ」
ウサギがふりふりと尻尾をふりながら言うので、りゅうは答えました。
「どうして首が下を向いているの?」
「今までこうだったから、仕方ないんだ」
長い耳をぴくぴくと揺らしながらウサギがまた言うので、りゅうは答えました。
「その首は上を向かないの?」
「もう折れ曲がって戻らないよ」
根性なし、とウサギは怒りだしました。
りゅうの首はますます垂れて地面についてしまいました。
理不尽なことなんてなれっこですが、やはり理不尽と思いながらウサギに怒られました。
「わたしが君を強くしてあげるわ!」
ウサギはそういうと、特訓だと鼻息荒くりゅうの背中に飛び乗りました。
くすぐったくてりゅうは背中を揺すりましたが、ウサギがさあさあ行くぞというので仕方なく言われた方へ飛びました。
りゅうには翼があり、それは飛べるようになっていますのですいすいと空を泳ぐように進みます。
りゅうは滝に打たれたり、石の上で難しくてへんてこな格好をさせられたりしました。
ウサギはいつまでも鼻息荒くりゅうを特訓しました。
やがてりゅうは色んなことをうまくできるようになりましたが、特訓はおわりませんでした。
ウサギのしてくれる特訓が不思議でおもしろくて、りゅうは時々わざと失敗して長く特訓をしました。
ある朝、唐突にウサギが動かなくなりました。
どうしようもない程のびっくりがりゅうに降ってきました。
ウサギにたくさんの言葉をかけて、かけて、かけました。最後には怒ってもいいから動いてもらおうと思いましたが返事がありません。
唐突にりゅうは知りました。そうです、竜の手のひらほどしかないウサギが、同じ寿命であるはずがないのです。
りゅうは目玉がおちるほどに泣いて、悲しみをウサギに伝えました。
白いウサギは小さく丸まっていてふかふかでした。
何度目かの朝になっても泣いていると、森からキツネが現れました。
「何故泣いているんだい」
「ウサギが死んでしまったんだ」
「それは哀しいね。でも、泣くのはおやめ」
小さな水たまりの中で泣いているりゅうに向かってキツネは言いました。
「ウサギを穴にいれて土をかぶせておやり。そして木の実を一つ、その上に植えておやり」
ウサギが育ててくれるだろうとキツネは言いました。
りゅうは涙と鼻水をすすりながら頷き、わかりましたと言いました。
「いいから泣くのをおやめ。あたしの子供が怖がるんだよ」
よくみれば、キツネの尻尾にかくれて小さなキツネがいました。
りゅうはなんとか泣くのをやめました。
りゅうはウサギより少し大きな穴を掘り、そこにウサギをそっと寝かせて土の布団をかぶせました。
森で拾ってきた木の実を一つ布団のすきまに入れて、そっと隣に座りました。
土に隠れたそれじっと、ウサギを見失わないようにじっと見つめました。
その夜、雨が降りました。
晴れました。
いつのまにか曇って、りゅうの鼻先に雨がふってきました。
そこそこの日がたった時に、土から何かの芽が出ました。
びゅうびゅうと風がふいた日があって、りゅうは必死に芽の風よけになりました。
かんかん照り付ける太陽の日には水を運んできました。
雪が降るほどになった頃、芽は木に育っていました。
さらにすくすくと育ちます。
りゅうは木を守り、育ち続けて大樹となるのをずっと見ていました。
ある日、足元から声がしたのでしばらくぶりに下を見ました。
キツネによく似ていて、そうなのかと聞いてみましたが違いました。
「それは僕のバアちゃんだよ!」
長い長い時間がたっていました。
「ねえりゅう、何をしているの?」
「上を向く特訓なんだ」
「いつ終わるの?」
りゅうはすっかり上に伸びた首で答えました。
「もう終わっているけれど、ウサギと一緒にいたいからまだ終わらないよ」
そう言って見上げるほどになった大樹を見ていました。