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一枚の童話集  作者: 端役
13/13

左手のないゾンビ

 ゾンビなので内臓とかそんな表現があります。コミカルに流し読んでください。



 ある夜にゾンビが生まれました。

 そこは墓場だったので、もちろんお墓の下から生まれて、もそもそと地上に這い出しました。

 生まれたゾンビの左手はありませんでしたが、気にすることはない程度でした。

 ゾンビは痛くないのですから。


 ゾンビがふらふらしていると、犬がやってきました。

 どうもここに住み着いている番犬らしい犬です。

 ゾンビは犬に襲い掛かりましたが、負けました。

 惨敗でした。

 おなかの骨を一本とられて、半泣きで追いかけてやっとのことで返してもらいました。

 ナワバリあらそいにまけたゾンビは、犬の手下になりました。


 ゾンビはなんとなく人間を襲おうとしました。すると必ず、犬が足の骨をとりあげてきて怒るので、三回くらいで襲うのをやめました。

 あしの骨には犬の歯型がしっかり残ってしまい、ゾンビは少しはずかしかったです。


 犬は番犬で、墓場を守る犬でした。

 手下のゾンビには、犬にはない、そこそこ器用に動く右手がありましたので。

 墓を掃除したり、犬の頭をかいてやったりで大変役に立ちました。

 そんなゾンビは犬に遊んでもらい、大満足です。

 投げては取ってきてもらい、また投げる肋骨に犬の歯型がしっかりついてしまいましたが、まあ誰が見ることもないのでいいかなと思い出しました。前向きです。

 生まれた墓場のせいか、なんだか心地良いものでした。


 今日はおひさまのもとで犬とひなたぼっこです。

 自分がちょっとへんなゾンビなことを、ゾンビは感謝しました。



 春がすぎ、冬がすぎ、また春の頃。

 ゾンビが転びました。

 そのひょうしにのうみそが転がり出て、あわてて詰めなおした所で思い出しました。

 あの犬の名前は「ラヴ」

 自分の大事な友人で、ペットの犬でした。

 ゾンビはあわててラヴを呼びました。

 う゛ぁ~、と、音がでました。ゾンビになって、そういえば初めてしゃべる気がします。

 だめなかんじです。

 犬は、またなにかしているな、と呆れた目でゾンビを見ていました。

 すっかり地位のさがりきったゾンビはとりあえず自分のことを伝えようと考えました。

 地面に文字や絵をかいても、ラヴは犬ですしわかりません。

 立ち上がって自分を指差してみても、ゾンビはゾンビです。

 かわいらしく花でハートマークをつくってラヴだと指差してみましたが、ラヴがすべてくわえてお墓においてきてしまいました。

 ゾンビがうんうん悩んでいると、ラヴがおとしものの目玉を届けてくれました。

 そういえば、いつのまにか落としてしまったらしいです。

 自分が死んでからずいぶんとしっかりしたものです。

 ゾンビが呼びかけるとぼえっとした音が出ました。


 ラヴを呼べないまま、冬になりました。

 冬の日、ゾンビは急に歩けなくなりました。

 墓の前で困ってしまったラヴとゾンビ。

 はいずって動こうとすると、目玉や足が取れてしまいそうでできませんでした。

 ゾンビはなんとなく、しぬんじゃないかなあと、感じていました。

 もう死体なので恐怖はありませんでしたが、ラヴのことがひどく心配になりました。

 ラヴももう、高齢のはず。

 けれど、ゾンビはしっかりものになった友人を信頼してもおりましたので、あえて言わないことにしました。

 かわりにあまった時間で、ラヴの名前を今度こそ呼んでやろう、と繰り返しました。


 だんだんなれてきたと思う頃に、ラヴが一声ワンと吠えました。

     「ラヴ」

 ゾンビはちゃんと名前をよべました。


 嬉しそうに動くラヴのしっぽを見ながら、動かなくなりました。

 ゾンビは幸福なゾンビでした。


 ラヴはもう番犬ではなくなりましたが、その後もずっと墓場に居続けました。

 ラヴも幸福な犬でした。



 これは一匹と一人の話でした。




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