5話
そう、俺の目の前にはとても美しい剣があった。
〈フルガイア・オンライン〉の中にあった片手用直剣のようだが、それよりやや細身の刀身は、彼女の髪の色と同じく銀色の輝きを放っている。その輝きは淡く、それでいてどこか力強かった。
「キレイだな」
「え!?キ、キレイだなんでそんな……」
「いや、キレイなものはキレイだし、それに、それ以外の言葉じゃ俺は目の前の状況を表わせない」
謙遜するフィレスに俺はきっぱり言い切る。するとフィレスから放たれる銀色の輝きが、かすかに揺らいだ気がした。
「と、とにかくスライム倒しましょう、マスター」
「お、そういえば忘れてたな」
フィレスのとこばかり見ていたらスライムのことなどすっかり忘れてしまっていた。
俺はスライムの方へと近づき、改めてその姿を確認する。体長は50cmほどで、その炎のように赤く透き通った体は幻想的だが、スライムならではのドロドロ感が、台無しにしてしまっている。
しかし、初めての敵はスライム、と相場で決まっているのだろうか? いろんなものでもスライム雑魚魔物として出てきている気がする。哀れだ。
そんなスライムに俺は先制攻撃として、背後?(目がないのでよくわからない)から横薙ぎにフィレスを振るう。
「クペッ!?」
スライムは何処にあるのかわからない口から奇妙な悲鳴の声を上げた。そうすると、体全体が煙となって周囲に散り、もうそこには何も残ってなかった。
「ふむ、さすがLv1だな。一撃とは」
「さすがですマスター。この調子でどんどん行きましょう」
「おう」
俺は短く返事をすると、ダンジョンの奥へと歩き出していった。
【ともし火の迷宮】第五層
結局Lvが上がっただけのスライムしかいなかった第1~4層を軽く突破し、第5層に差し掛かったところで、やっとこ新たな魔物が出てきた。良く見ようと目を凝らすと頭に(トクチLv7)と情報が浮かんでくる。見た目はスライムより一回りほど大きな蛾で、翅の末端部に少し炎を宿していた。
Lv7は今のとこ出てきた中で、一番高いLvだ。そろそろ一撃で死んでしまうの以外が出てこないものだろうか?
そんなことを考えていると、トクチが空中に真っ赤な魔方陣を展開した。するとそこからオレンジ色をした火球が飛んでくる。
「おお、魔法か」
そんな言葉をつぶやくと同時に、迫ってくる火球をフィレスを使って切り裂く。そのままトクチとの間合いを詰め、フィレスを縦に振りおろす。するとスライムと同じように、煙となって散って行った。
コイツも一撃だった。命の危険がないのはいいが、少しつまらない。
不謹慎にもそんなことを思っていると、煙の中に赤い翅のようなものが見えた。目を凝らすと(トクチの翅)と頭に浮かんでくる。たぶんこういうのを売ってお金を稼ぐのだろう。
俺はトクチの翅を拾うと、腰に付けたポーチにしまう。これは冒険者の登録が終わった時にもらったもので、空間魔法を利用した特殊なポーチだそうで『いくらでも物が入り、ポーチの中に手を入れ、取り出したいものを念じるでけで取り出せる』という、なんとも便利なポーチだった。
こんなに便利なものなら高いんじゃないかと思って聞いてみたが、受付嬢曰く、『空間魔法士と布のポーチさえあればいくらでも作れるので、無料も同然なんです』とのことだ。こんなに貴重そうな物もらえてラッキー。と最初は思ったが、そうでもないようだった。
「しかし、魔法って剣で斬れるんだな」
〈フルガイア・オンライン〉では、魔法には魔法でしか対応できなく、非常にめんどくさい仕様だったので、〈フィルガイア〉での『魔法は剣で切れる』というのは少し嬉しかった。
「ええ、しかし普通の剣などでは斬ることなどできません」
「ん?そうなのか?」
「魔法を斬ることできるのは、同じく魔力を持ったもの、つまり魔剣などでしか魔法は斬れないのです」
「なるほど……、そうだったのか」
魔力には魔力でしか対抗できない、という根本はこの世界でも同じようだった。そうするとこっちに来てすぐフィレスと契約できた俺は相当ついてるってことか。
そんなことを考えながら俺は再度ダンジョンの中を歩きだした……。
【ともし火の迷宮】第十層
結局少しLvの上がったトクチとスライムしか出てこず、なんともつまらない戦闘を終えた末、俺は第十層まで降りてきた。
「ん?ここは何か今までと雰囲気が違うな……」
そう言って俺は少し開けた空間を見回す。
「どうやらボスが出てくるようです、マスター」
「ボス?」
そんなやり取りをしていると、上空から何かが飛んでくる。良く見ようと目を凝らすと、(The.チューチLv15)という情報が浮かんでくる。
チュ―チの見た目はトクチのような蛾だが、トクチの数倍の大きさをしていて、体全体が真っ赤だった。
『The』というのが付くのボスの証なのだろう。
チューチはこれまたトクチと同じように、真っ赤な魔方陣を展開し、これだけはトクチとは違い、三つの火球を同時に放ってきた。
「はッ」
俺は掛け声とともに迫ってくる三つの火球を両断する。懲りずに、もう一度魔方陣を展開しようとするチューチに向かって俺は跳び上がり、その勢いを使って真下から一撃、そのまま真上からフィレスを思い切り振りおろす。
するとチュ―チは「キィィィィッ!!」と、耳障りな悲鳴を上げ、煙となって散っていった。
「ボス………だよな? コイツ、二撃だったぞ、大丈夫かこれ?」
なんか自分の攻撃力のあまりの高さに呆れつつそうつぶやく俺だった。
どうでしたでしょうか、
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