12話
「あ―――――――――――――っ!!!」
その声がした方へ振り向くと、脱兎のごとくこちらに駆けてくる黒髪巨乳の美少女が目に入った。いや、別に逃げてるわけじゃないと思うけど。むしろ向かってきているのだけど。
その美少女は俺の目の前に来ると、おれの肩を掴み、なぜかこちらに詰め寄ってきた。
「か、体は!?昨日はずっと寝込んでましたけど、体は大丈夫なんですか!?」
「あ、ああ。体は大丈夫だけど…… 別に、ただ疲れて寝ていただけだし」
「そ、そうなんですかぁ……」
心の底から安堵した様子の美少女。
どこの誰だかは良く分からないが、どうやら俺のことを心配してくれたらしい。それは素直にうれしい、嬉しいんだけど………
「えっと、そろそろ離れてくれるかな……?」
目の前に美少女の顔があっては話が進みそうにない。それに、その………胸が当たってる。それ自体は嫌なわけじゃないが、困る。
「………!」
俺の言葉を聞いて今の自分の状態を知ったらしい美少女が、ボッと頬を染め、見事なバックステップ。そのあとはもじもじと俯いてしまった。
「えっと君は?」
「あ、えっと、私ユーリ・クライノといいます。あの………私のこと覚えてませんか? タンタラの森で助けてもらったんですけど………」
タンタラの森?タンタラの森ってことはまさか……
「もしかして、あのボスの時の?」
「はい!そうです!あの時はありがとうございました! えっと……?」
「ああ、俺はクロキ、クロキ・シラカワ。で、こっちはメイドのフィレスだ。よろしく」
そう言ってフィレスの方を指さす。フィレスはギルドマスターの時のようにペコリ、と無言で一礼。……した後、なぜか目を細め、何かを見定めるようにこちらを見てくる。いや、なんで?
「あ、はい。よろしくお願いします。あの、メイドさんがいるって事はもしかして貴族の方なんですか?」
「ああ、フィレスが居るのには色々と事情があってさ。とにかく俺は貴族じゃないよ」
やっぱりというか、どこにでもいるんだな、貴族。典型的なバカ貴族みたいのと遭わないといいけど……
「そういえば、タンタラの森では後三人くらいいた気がしたけど、今日はいないのか?」
そこにべストタイミング(?)な感じで、女の子の声が割り込んできた。
「ちょっと、ユーリ。急に走ってどうしましたの? ………あ、この方は………」
その声とともに、明るい茶色をした髪を肩まで伸ばした碧眼の美少女がこちらに歩いてくる。
その後ろからは、同じく明るい茶色の髪を短く揃えた碧眼のガッチリとした体を持つ少年が歩いてくる。髪や目が同じ色だから兄弟だろうか? その隣には『あんまり手入れはしていない』と言った感じのくすんだ金髪の少年がいる。……………なぜか少年二人は俺のことを軽く睨みながら。なぜだ?
「俺はクロキ・シラカワ。こっちがメイドのフィレスだ」
「わたくしはアイナ・ローレル・シェルキナです。昨日はありがとうございました」
「僕はアインス・ローリエ・シェルキナです。先日のことは感謝しています」
「おれはラルゴ・バサンダ。この前は助かった」
「気にしないでくれ。こっちが好きだやったことなんだ」
自己紹介の後三人を見渡すが、皆美少年に美少女といった感じだ。これ俺だけ浮いてないか?
しかもアインスとラルゴはまだこっちを睨んでるし………
「あの、メイドを連れているということはもしかして貴族なのですか? その割には見たこともありませんが」
と、アイナが聞いてくる。やはり〈メイド連れている=貴族〉なのだろうか? それなら、これから一々「貴族か?」なんて聞かれると面倒だし、フィレスには違う格好をしてもらうべきだろうか?
「ああ、俺は貴族じゃない。こいつも実は本当のメイドってわけじゃ「私はマスターのものです」って何言ってんだお前は!?」
ここに来て初めて口を開いたかと思ったらとんでもない発言をしてくれる。やめてくれ、本当に。
「も、もの? 貴方はメイドにどんなことをさせてますの?」
「もしかして、もう私入る隙間もないの………?」
「……何をしたんですか、あなたは」
「……なんでユーリはこんなヤツのことを………」
「違う!断じてそういうんじゃない!」
「本当ですの?」
「嘘言ってどうする!」
どこか腑に落ちないといった感じの少年少女たち。勘弁してくれ。
「と、とにかく、俺は宿探さなくちゃならない、だからもう行く。じゃあな」
そう言って立ち去ろうとギルドの出口へと体を向けると。
「あ、あの!」
突然ユーリが大きな声を出すので振り返る。
「も、もし良かったら、私の親がやってる宿に来ませんか?」
「え?」
「あ、い、嫌だったらいいんです!」
「いや、ありがとう。お言葉に甘えさせてもらうよ」
「ほ、本当ですか!?」
「こっちこそ本当にいいのか?」
「はい!是非!」
満面の笑みになるユーリ。これは………相当可愛い。たぶんすごくモテることだろう。
「ふーん。意外ね、あのユーリがこんな大胆なことするなんて。そんなに気になっていますの?」
「ア、アイナ!違うってば!」
とにかくラッキーだ。町で聞きこみでもして宿を探そうと思っていたんだか、宿の方からやってきてくれるとは。
「と、とにかく、今日のダンジョンの攻略は休むから。みんなごめんね!」
そういうとユーリは俺の手を握り、先立って歩き出した。フィレス、アインス、ラルゴからもの凄い視線が集まる。だから、なんでだ?
「ちょっと待ってください!」
そこでアインスが声を張り上げ、こちらに歩いてきた。
「クロキさん、僕と一回決闘してくれませんか? もちろん手加減などは抜きで」
「かまわないが、なんでいきなり?」
「そうでないと、諦めがつかないのです」
「諦め? 何に対してだ?」
「全てです」
全てって何だそれ。俺が何をしたっていうんだ?
「待ってくれ、おれもそこに入れろ」
と、ラルゴまで入ってくる始末。だからどうした? 急に。
「このままじゃおれも諦め切れねぇ。だから、戦え」
「まあ、良いけど……… だがどこで戦うんだ? さすがに今ここでって訳にはいかないだろ?」
「それなら、決闘場に行きましょう。あそこは決闘するためにあるんです。今の状況にちょうどいい」
「わかった。それなら行くか」
そう言うと俺たちは、オロオロしたユーリと、心底愉快そうに笑っているアイナ、それに俺の横に立っているフィレスを引き連れて、決闘場へと向かって行った。
なんでこう俺は、厄介な感じの出来事に巻き込まれてるんだ? このチート能力のせいか? はぁ………
どうだったでしょうか?
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