9話
「くそっ………間に合えぇ―――――――っ!!」
このままただ走っただけじゃ間に合わない、そう判断した俺は〈瞬間加速〉を使う。すると、ほんの一時の間、世界が止まる。俺はそのすきに風のごとき速さで魔物と少年少女たちの前に割り込む。
ズシャァァァァァァ!!
豪快なその音とともに出た激しい火花があたりに散る。
俺は魔物の大剣を剣の腹の上で滑らせ、やり過ごす。そのとてつもない衝撃に、俺は吹き飛ばされそうになる。
改めて魔物を見上げる。
そこには、歪な形をした王冠を頭に乗せた、3m以上はある巨大なトカゲ男がそこには、いた。というかこちらを見降ろし、睨んでいた。(The.キングリザードマン Lv62)
(なんでこんなところにこんなLvのボスが!?)
頭にそんな疑問が浮かぶが、そんなことを考えている余裕は俺にはなかった。
(くそっ、どうする!?)
俺のすぐ裏には例の少年少女たちがいる。このままじゃ引くに引けない。
(まず距離を取らないと!)
俺はキングリザードマンの注意を引きながら横へと10m近く移動する。よし、ついて来た。
今更ながら、死ぬかもしれない。そんな考えが俺を襲う。俺はなんとかその恐怖を押さえつけ、動き出す。
キングリザードマンの大剣が繰り出す斬撃を避けて、避けて、避けまくる。たぶん、一撃でも当たると俺は負ける。だからすべて避けなくてはならない。
その間に、硬直時間の短い単発技の下位剣技を次々と、幾度も、途切れさせないように、発動する。
『ディスラッシュ』右から左へ回るように、斬る。『ウォーストライク』右手を引き絞り、突く。キングリザードマンの大剣をギリギリでかわす。『サクティス』左上から右下へ、斬る。避ける。避ける。『セイフェクト』真上から真下へ、振り下ろす。『ウォーストライク』右手を引き絞り、突く。『スプラッシェト』真下から真上へ、振り上げる。『サクティス』左上から左下へ、斬る。避けて、避けて、避ける。『ディスラッシュ』、『サクティス』、『ウォーストライク』、『スプラッッシェト』、『ディスラッシュ』、『セイフェクト』…………俺は、続けて技を繰り出していく。
サポート機能が、ついこの間習得したばかりの技を、何年も練習したもののように完成したものにしていってくれる。
すると、キングリザードマンに数瞬の、しかし俺にしては十分すぎるほどの隙が生まれた。そこに俺は、少しだけ習得できている最上位剣技の中で一番威力のある一つを叩き込む。
「『アストラル・ヴェイン』ッ!!」
放たれた俺の剣が、キングリザードマンのたくましく盛り上がった胸辺りを1m程の四角形に切り裂く。これで、四連撃。今度は1m程のひし型に切り裂く。これで、八連撃。その中心に最後の突きを放つべく、右手を引き絞る。
(これはおまけだぁっ!)
さらに引き絞った右手にだけ、〈瞬間加速〉を発動させる。
「嗚呼ぁぁぁぁああああああ!!!」
俺は叫びながら最後の一撃を放つ。締めてこれで九連撃。これが、【速撃型】の剣技の中で二番目に連撃数の多い最上位剣技の一つ、『アストラル・ヴェイン』だ。
最後の〈瞬間加速〉を付けた突きが、その凄まじく速い剣速から、衝撃波が起きる。それが俺の剣…フィレスに渦巻く白銀の魔力と融合し、キングリザードマンの胸辺りを深々と穿ち、貫く。
「ガァァァァアアアアアア!!!」
いつしか叫んでいるのは、俺ではなくキングリザードマンの方になっていた。
「…はあ……はあ……はあ………」
後ろの方に顔を向け、状況を確認する。例の少年少女たちは、四人とも無事なようだった。
「……はあ………よかっ……た……」
そこで俺の張り詰めていた緊張の糸が途切れたのか、体から力が抜け、俺の意識が闇へと消えていった………
――――― ユーリside ―――――
それは突然だった。
私たちは、今年で15歳になり、ラバナスタ王都学園を卒業してから半年がたっていた。その半年で私たちは、パーティー内の平均Lvを42まで上げた。これで安全圏に入ったので、今日は初めての中級ダンジョンに挑戦しようと、タンタラの森を進んでいた時、それは起きた。
森の開けた場所に出ると、禍々しく輝く巨大な魔方陣が私たちを待っていたかの様に展開された。
「なんだ?これ?」
「さあ?」
「誰か知らねぇのか?」
「わたくしは知りませんわ」
そんなこと言ってる間に、その巨大な魔方陣から私たちの身長の二倍はありそうな何かが出てきた。
「な、なんだよこいつは!?」
「し、知りませんわ!」
「なんでこんなところにボスが!?しかもLv62!?」
「よくわかんねぇけど、とっと逃げるぞ!」
そこで魔物(The.キングリザードマン Lv62)が、手に持った大剣を振るう。
「きゃぁぁぁぁぁあああああああ!!」
ガキィン!!
「ぐあ…っ」
とっさに盾を構えた『騎士』のアインスが、キングリザードマンによって振るわれた大剣により、吹き飛ばされる。
『拳闘士』のラルゴは、その素早さから間一髪で回避する。が、彼の装備するクローや防具では、あの大剣を防げない。
私の腰にしがみついて離れないアインスの双子の妹で、『魔術師』のアイナはいつの間にか気絶している。
それに私もすっかり腰を抜かして立つことができない。これではとてもじゃないけど、『治療術師』としての役割は果たせそうにない。
そこでキングリザードマンが、無慈悲にも大剣を肩にかつぎ、振り下ろそうと力を込め始めた。
(ああ、私の人生はここで終わりなのかな………)
そんな諦めの考えが心を満たしていこうとした時、不意にその声は聞こえた。
「くそっ……間に合えぇ―――――――っ!!」
私は声のした方に振り向こうとしたけど、それよりも速く、漆黒の人影が私たちとキングリザードマンの間に割り込んだ。
ズシャァァァァァァ!!
とてつもない轟音と、火花を散らしながら、キングリザードマンの大剣を防いでいた。
そこで漆黒の人影の姿を確認することができた。しかし確認してからさらに驚いた。その人は、私たちとさほど変わらない(多分二、三歳くらい年上の)男だったから。
そしてその男は私たちからキングリザードマンを引き離し、戦闘に入った。
男はキングリザードマンの放つ攻撃をすべて紙一重でかわし、わずかながら生まれた、ほんの小さな隙をつき、自分の攻撃を繰り出していった。
それはとても綺麗だった。
キングリザードマンの攻撃を、それはまさに風のごとくかわして見せ、放たれる斬撃は白銀の光を帯び、とても幻想的だった。
「『アストラル・ヴェイン』ッ!!」
そう言って、男が叫んでからの出来事は一瞬だった。
「嗚呼ぁぁぁぁあああああ!!!」
八回に及ぶ白銀の斬撃は、キングリザードマンの胸辺りを深く斬り裂き、最後のはなった突きは、早すぎて光が突きだされたようにしか見えなかった。
「ガァァァァアアアアアア!!!」
キングリザードマンは悲鳴を上げ、その歪な王冠と、2mはありそうな大剣を残し、煙となって消えていった。
「…はあ……はあ……はあ………」
男はちらり、とこちらに顔を向けた。
「……はあ………よかっ……た……」
と、言い終えるとまるで糸の切れてしまった人形のように倒れ………ることはなかった。なぜなら、どこからかわからないが、突然出てきたメイドさんが体を支えたからだ。
私は、まだ腰にしがみついたまま気絶しているアイナを少し強引に離し、その男とメイドさんのもとへと走っていった。
………私が初めて恋してしまった男性のもとへ。
頑張って更新はしているんですが、
中々難しいです(苦笑)
と、ここで突然ですがユーリ達の外見を簡単に紹介!
ユーリ…腰までまっすぐに伸ばした黒髪に、オパール色の目。出るとこが出てる美少女。
アインス…短くそろえた明るい茶色の髪に、碧眼。がっちりとした体、どちらかというと美少年?
アイナ…肩まである明るい茶色の髪に、碧眼。こっちはペッタンコな美少女。
ラルゴ…手入れをしていない様なくすんだ金髪に、こちらも少しくすんだ碧眼。ほっそりとした体、こちらもどちらかも言うと美少年?
とまぁ、こんな感じです。
もし指摘や感想があったら、是非ください!