8話
〈クロキ・シラカワ〉
17歳 Lv27
体力:102
筋力:102
魔力:36
精神:36
敏捷:239
器用さ:76
運:76
SP残量〈100〉
称号:魔剣との契約者
スキル:剣技【速撃型】、剣技上昇、瞬間加速
職業:魔剣士
装備:黒色のレザーコート
7800Gill
能力値は敏捷値がメキメキと成長し、SPも100だけ残してすべて敏捷値に注いだので、文字通り、けた違いだ。
スキルの方は『剣技上昇』と『瞬間加速』が増えた。これらもまた文字通りの効果で、『剣技上昇』は剣技の威力が増し、『瞬間加速』は瞬間的に本来の速度の数倍近く出せる。これらの詳しい解説は、登録した時のサポート機能が教えてくれた。
装備品の方には、ただの服は含まれないようで、防具屋で買った『黒色のレザーコート』には魔耐性上昇(小)が付いていたので、それだけが装備品に含まれたようだ。その他のシャツやズボンに、髪や目まで黒いので、全身まっ黒だ。
〈フルガイア・オンライン〉の中でもこんな配色の防具だった。
今もそれなりには似合っている…、と思いたい……。
俺はいつものようにギルドのカウンターに向かい、いつもの受付嬢に今日入ろうと思うダンジョンの情報を聞こうとすると………
「もうあなたが行くようなダンジョンはこの近くにはありません」
「…は?」
「ですから、もうあなたが行くようなダンジョンはこの近くにはありません。と言ったのです」
「え? なんで?」
「この近くにはもう初心者が行くような下級ダンジョンしかないので、あなたに合うダンジョンがないのです」
「そうか…」
「なので、これからは下級ダンジョンから最上級ダンジョンまでそろっている、王都に移ることをお薦めします」
「え? いきなりすぎない?」
「そんなことないです。中級者を超えただろうと思われる冒険者には、毎回お勧めしています」
「そうなのか…」
「で、行きますか?またの機会にしますか?もし行くなら王都ヘ、転送してくれる空間魔術師を呼びますが…」
「どうするんですか?マスター?」
「う~ん……」
悩むそぶりを少し見せるが、答えはもう決まっている。
「じゃあ、王都行くかな」
理由は簡単だ。今いるアカリナの近くのダンジョンの敵は確かに弱くて、張り合いがない。それに、王都のほうが何倍もおもしろそうだ。
「わかりました。今すぐでいいんですね?」
「おう」
「では………、シュドミナさ~ん」
受付嬢がギルドの奥の方を向いて呼びかけると、そこからローブを着て、杖を持ったいかにも魔法使いルックの、金髪メガネのなよっとした男が出てきた。
「はい? なんでしょうか?」
「こちらは、このギルドの専属空間魔術師のシュドミナさん。そしてこちらは冒険者のクロキさん、そしてそのメイドのフィレスさんです」
「よろしくっ」
「…………よろしくお願いします」
「え? あ、はい。よろしくお願いします」
俺が軽く手を上げてそう言うと、フィレスはしぶしぶといった感じで挨拶をする。そんなだと無愛想な奴だと思われるぞー。
対して相手、シュドミナは体を四十五度ピッタリに曲げ、頭を下げていた。
「それで、なんで僕は呼ばれたんですか?」
「えっと、クロキさんたちが、王都に移るということになったので、シュドミナさんに転送してもらおうと思いまして」
「あ、なるほどそれでしたか。では、早速始めましょう」
「え? ここでやるのか?」
今、俺たちとシュドミナは、ギルドのカウンターを挟んで向かい合っているのだが、いいのか? これで?
「ええ、僕が知っている座標でしたら、どこから、どこへでも転送できるので、あまり関係ないんです」
「そうなのか。それじゃあ頼む」
「はい」
シュドミナは短く答え、杖の先をこちら側に向けると、ブツブツと何かを唱えだす。
それが終わると同時に、俺とフィレスの上に淡く光る魔方陣が展開された。シュドミナはこちらを見て言う。
「では、いきます。転送!ラナバスタ!」
いつも感じている転移の感覚を覚えながら、俺はこんなことを考えていた。
(あ、そういえば今日、宿に一週間分の宿泊料払ったばっかりなのに、無駄になっちゃっ―――――――――)
そこで視界と思考が途切れ、俺とフィレスは王都へと飛ばされていった………。
ドスン!!
「げふっ……」
「きゃっ……」
いつもの転移だと立ったままの状態で転移するはずなのだが、今回は空中に放り出されたらしく、俺はすっ転んでいた。体の上に何か乗っかっている気がする。少し重い。
俺は、起き上がるべく手に力を入れようとするが――――――――――― むにゅっ
「…?」
何やら手元に弾力のある、柔らかな感触が伝わってきた。
良く分からないので二、三度、力を込める。すると………、
「あっ……」
「……え?」
「きゃ、きゃあああああああ!!」
そんな叫び声と一緒に体の上の重みが消える。
体を起こし、顔を上げると、顔を真っ赤にして手を胸の前で組み、こちらを見ているフィレスがそこにはいた。――――――――――――――――――――って胸!?
「す、すまん!」
「い、いえ、大丈夫です。大丈夫ですから………」
「いや、でもホントすまん!!」
「………でもさわるならさわるで、事前に言ってくれれば――――――――」
「? なんか言ったか?」
「いっいえ!なんにも!!」
「?」
顔を真っ赤にしながらそう言うフィレスは、満更でもないような顔をしていた気がしたが、気のせいだろう。好きでもない男に胸なんかさわられて、喜ぶはずがない。
自慢じゃないが、この世界に来る前は[彼女いない歴=年齢]だった人間だ。そんなことが起きるはずがない。………、これ悲しくなってくるな…。
「しかし、ここ、どこだ?」
俺があたりを見回すと、草木が生い茂る森が、目の前に広がっていた。何だこの既視感。
まさか魔剣ともう一度……、なんてことはないよな?
「たぶん、あのシュドミナさんとやらが空間の座標設定を誤ったのでしょう。全くなんて事をしてくれるんでしょうか……………ブツブツ」
「そ、そうか……なら誤差も小さいはずだし、歩いていれば王都…ラナバスタ、だっけか? そこに着くだろうしな」
「はい、いきましょうマスター」
俺とフィレスが歩き出そうとしたその時、
―――――――― きゃああああああああぁぁぁぁ ――――――――
「!?」
俺は遠くから悲鳴を聞き、止まる。いやな予感がする。
「フィレス!剣になってくれ!」
「はいっ」
そう短くフィレスが答えると、数瞬の間体が輝かせ、白銀の光をまとった剣になる。
俺はその剣を手に取ると、今の敏捷値が出せるだけの最高速度を出し、声のした方へ、駆ける。
走っていくと、少し開けた場所にたどり着く。
『グルォォォォオオオオオオ!!!』
魔物が、咆哮する。
ガキィン!! そんな音が聞こえ、魔物によって振るわれた大剣が、盾を持った少年を突き飛ばす。
その隣にいた爪の様な武器を装備した少年は、ギリギリのところで、回避する。が、あの軽装備では、魔物の持つあの大剣を防ぐのは無理だろう。
後ろの方にいる、魔法使い風の格好をした少女二人は、すっかり腰が抜けてしまっているようで、震えながら座り込んでいる。一人は気絶もしてしまっているようだ。
その少年少女達に、魔物が無慈悲にも大剣を振り下ろすべく、大剣を肩にかつぐ。
「くそっ………間に合えぇ―――――――っ!!」
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