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第4話

 それからもラックは聖板を使って進軍した。

 森を抜け、荒野(こうや)を越え、魔王軍の(とりで)をいくつも突破した。


 だが魔王城に近づくにつれ『異変』は増えていった。

 

「くっ、この村も間に合わなかったか……」


(……昨日、魔王軍を撃退したはずなのに)


 聖板がラックの意図せぬところで度々不気味に震え、時間が巻き戻された。

 まるで『x』がラックの侵入を拒み、世界を「より凄惨(せいさん)な結末」へ導こうと、引き戻しているかのように。


「急がねばなりませんね」

「……うむ」


 だが、それでもラックは引き返すことができず――

 一行はついに、禍々(まがまが)しい雲に覆われた魔王城へと到着した。



 ◇ ◇ ◇



「……なぜだ、あまり魔物がいない」


 魔王城は不気味なほど静かだった。

 強大な邪悪の気配だけは漂うものの、魔物の姿はほとんど無い。


 ただ点々と血痕(けっこん)が残る廊下を奥へと進むと、やがて巨大な石扉(いしど)の前に出た。

 この先に魔王がいる。そう直感したラックたちは、作戦を確認した後、リシアを先頭にその重い(とびら)を押し開けた。


「うっ……!」


 (けもの)の血の臭いが鼻を突く。

 食い散らかされたような魔物の死骸(しがい)

 その奥の玉座(ぎょくざ)で、漆黒(しっこく)(よろい)(まと)った魔王が鎮座(ちんざ)し、まるで(かじ)りかけのりんごかのように、もぎ取った魔物の頭を(もてあそ)んでいた。


「な、なぜ仲間を……」

「仲間……? ふ。目覚めたばかりで腹が減っている、ただそれだけのことだ」


 魔王は復活直後の()えを満たすためだけに、自らの配下を(すす)っていた。

 その圧倒的な捕食者(ほしょくしゃ)の気配に、ラックの心臓は早鐘(はやがね)を打った。


「――行くぞ!」

 ラックはその恐怖を振り払うように手を振り指揮を執った。

 それを合図に、バルドとエルマーが足下に魔法陣を描く。

 リシアは、剣を握り直した。


「勇者殿、この魔法陣は魔法を増幅・反射させる諸刃(もろは)の剣です。忘れないでください……!」


(やるしかない……!)


 ラックが震える手で聖板を握る中、魔王が玉座から立ち上がった。


「来るぞ!」


 リシアが叫んだ瞬間――

 大剣が振り下ろされ、衝撃波が走った。


「ぐおっ……!」


「バルド!」


 バルドが倒れた。

 ラックは即座に聖板を操作した。


『Revision 238 にrollbackしますか? はい/いいえ』


 世界に光が射していく。

 


 ◇



 視界が、音が、身体が消えていき、

 消えかけた世界のすべてが急速に再構築され――

 

 魔王が、玉座から立ち上がった。


「来るぞ!」


 リシアが叫ぶと同時に、再び魔王が大剣を振り下ろす。


「バルド、左だ!」

「ぬうっ!」


 ラックが一早くバルドに指示を出し、バルドが身をかわす。


「ふん」

「ぐあっ……っ!」

「エルマー!」


 だが魔王は軌道を変え、エルマーの腕を打ち砕いた。


(ダメだ、また……)


 ラックは再びロールバックを試みる。

 世界が一度歪み――再構築される。


「む」


 3度目の試行。

 そこで初めて、ラックたちは魔王の一振りをかわした。


「いまだっ!」

 リシアが石床を()った。

「援護します!」

 後ろからエルマーが防御魔法でリシアをサポートする。


 バルドが追撃に備え、氷結魔法の充填(じゅうてん)を始める中、

 リシアが魔王の背に回り込み、剣を振り抜こうとした。


「リシア、そこだ!」

「喰らえ!」


 だがリシアの剣が魔王の背に届きかけた、その時。


 ――ぐにゃり。

 

 光が射し、世界が歪んだ。



 ◇


 

(――ハッ……!)


(な、なんで……!)


 気づけば、ラックは初めにいた『石扉の前』へと引き戻されていた。


 魔王が玉座から立ち上がる。

 手元の聖板がブン、と震えた。


『Revision 238 にrollbackされました』


「……ロールバック? なんで、まさか……!」




「――残念だったな、『ruck』」




 名を呼ばれたラックはハッとして魔王を見上げた。

 黒い瘴気しょうきのようなものを纏ったその手の中には、見覚えのある板が握られていた。


「『神』は一人でいい。私が貴様をほふり、その死をこの世界で『確定』してやろう」


「お、お前が……!」


 聖板の履歴に浮かぶ『x』――。

 ラックはすべてを悟った。



 ◇



(だめだ、戻せ……!)


 ――時間を戻す。石扉の前へ。


『Revision 238 にrollbackしました』


 だが何度繰り返しても結果は同じだった。

 天井が崩落(ほうらく)し、瓦礫(がれき)と魔物の死骸が転がる中、逃げまどうばかり。


 魔王との力の差は歴然で、やがて策の尽きたラックの、聖板を動かす手は止まった。


「勇者殿、どうしますか……!」

「どうした、ラック……ぐうっ!」

「サンダー――!! ぐはっ」

「リシア! バルド!」

「――来ます!」


 魔王の大剣が振り下ろされ、ラックたちは散り散りに()けた。


「ぐあっ!」

「ハッ! エルマー!」


 魔法陣を外れ出たエルマーが魔王の漆黒魔法の餌食(えじき)となった。


 ――ブン。

 ラックの聖板が震える。


『Revision 239 が commitされました』

 エルマーの死が確定された。


「……ぐふっ!」


 バルドの腹が魔王の大剣に切り裂かれた。


 ――ブン。


『Revision 240 が commitされました』

 ――バルドの死も確定された。


「……そんな……!」


 魔王はラックの仲間を屠るたび、その歴史を確定した。

 そのたびラックの聖板は震え、ラックは追い詰められていった。


「――ラック、前を見ろ! ――っうっ……!!」


「ぐはっ!」


 背後から突き飛ばされ、ラックは石床を転がった。


「――ハッ! リシア……!」


 顔を上げるラック。そこには胸を(つらぬ)かれたリシアが立っていた。

 彼女は血を吐きながら無理やりに笑うと、最期の声を振り絞った。


「ふ……やはり……甘かったようだな……もっと、鍛錬(たんれん)…………」


「リ、リシア……!」


 すぐにでも時間を戻したかった。

 だがラックは突き飛ばされた拍子に聖板をその手から離してしまっていた。


「ふん……!」


 魔王がリシアの身体ごと大剣を振り払う。

 剣から抜けたリシアの身体は無惨(むざん)な音を立てて壁に打ち付けられ、瓦礫と魔物の死骸の上に崩れ落ちた。


「魔王、貴様……!」


「ふ」


 怒りに打ち震えるラックの前で、魔王は(あざけ)るように己の板を操作する。


 ――ブン。


 瓦礫の下に入り込んだラックの聖板が振動した。


 その絶望の音に打ちひしがれるラック。

 だが直後、その音の聞こえた場所を思い出し、ラックは目を見開いた。

 その目に、消えかけていた光が灯っていく――。


「……そこか。不愉快なガラクタだ、消えろ」

 魔王が聖板へ向けて(てのひら)をかざした。


 その瞬間を、ラックは剣を握りしめ、待ち構えた。

 ()けだった。魔王がラックの聖板を破壊しようとすることは予想できた。

 ――自分と聖板、どちらを先に破壊するか。

 そして、瓦礫に埋もれた魔法陣を忘れて、魔法を放つかどうか!


 魔王が破壊魔法を放った刹那(せつな)

 漆黒の雷撃が魔法陣で何倍にも増幅して跳ね返り、魔王自身を貫いた。


「なっ……がああああっ!?」



 ――ズァバンッ!



 無防備に(ひざ)をついた魔王のその首を、ラックは斬り落とした。


「……がはっ……貴様ごときが…………!」


 魔王は断末魔すら上げられず、やがて絶命した。




「はーっ、はーっ、……くっ……!」


 嵐が去ったような静寂(せいじゃく)

 ラックはよろよろと歩み寄ると、瓦礫の下から聖板を拾い上げた。


『Revision 242 を commitしました』


 ラックは魔王の死を確定し、魔王討伐の任務を完遂(かんすい)させた。


 履歴(りれき)の最上部に『ruck』の文字が積まれた。

 だがその下には、3人の仲間たちの犠牲(ぎせい)が痛々しく刻まれていた。


 ――――――――――――

 rev.242 : ruck――0.102

 rev.241 : x――239.32

 rev.240 : x――239.32

 rev.239 : x――239.32

 rev.238 : ruck――0.78

  …

 ――――――――――――


(いいのか? これで……)


(なんで、みんな死んだ……?)


(俺が、強くなろうと、しなかったからだ……!)


 ラックは皆の亡骸(なきがら)の前で両膝をつき、泣き叫んだ。


 そしてラックは聖板を握りしめた。

 履歴を一番下までスクロールする。


「……やり直すんだ。今度は……俺が、皆を守り抜く……!」


 ――ブン。


 聖板が震える。

 世界が白い光に包まれた。



 ◇ ◇ ◇



 世界が光に包まれ、音が消えた。

 

 視界が、音が、身体が。

 消えかけた世界のすべてが急速に再構築されていく。

 やがて森が、(しげ)みが、風音が作られ――

 

「……リシア……!」


 ラックの目の前に、()りし日のリシアが立っていた。


「……おいラック、行くぞ。ノロノロするな」


 (あき)れたように剣を肩に乗せ、声をかける彼女。

 その奥にはバルドと、エルマー。


 まったく同じ光景。

 まったく同じ声。

 まったく同じ時間。


(また戻ってきたんだ……ここに……! ハッ!)


「!! ラック、後ろだ!」


 リシアが叫んだ。

 ラックは間一髪、身を(ひるが)していた。

 襲いかかる一角獣を避け、剣を振り下ろす!


 その一太刀は、以前よりも鋭く。

 ラックは一角獣の首を両断していた。


「なっ……?!」

「なんと……! こりゃ見事じゃ!」

「勇者殿、やるではありませんか!」


「はーっ、はーっ……くっ……!」


 ラックは目元を(ぬぐ)った。汗ではなかった。

 顔を上げて、みんなに笑ってみせる。

 

「当たり前だろ、俺は勇者だぜ? ……でも、いまはまだ……弱いんだ。だから……!」


 ラックは剣を握りしめた。

 真剣な面持ちをリシアに向け、叫んだ。


「リシア頼む、俺を鍛えてくれ……!」


「……」


 みんな、黙った。

 だが、誰も、茶化(ちゃか)しはしなかった。


 エルマーは眼鏡の奥で優しく目を細めた。

 バルドはとんがり帽子を被り直すと(ほほ)をゆるめた。

 リシアは剣を下ろした。

 手首を回し、その剣をぐるりと一回転させる。


 ――ジャキ。

 リシアは剣先をラックの眼前に構えると、ニヤリと笑ってみせた。


「……いいだろう、一人前の勇者にしてやる。覚悟しろよ、ラック!」


(……ああ。今度こそ……!)



 二人の打ち鳴らす剣の音が、懐かしき薫風(くんぷう)に乗り高く舞う。


 ようやく『本当の一歩』を歩み出したラックの(ふところ)で、勇者の(あかし)が小さく震えた。


 ―――――――――――

 rev.3 : ruck――1.0

 rev.2 : ruck――0.2

 rev.1

 ―――――――――――

 

 END


お読みくださりありがとうございました。

ラストの「1.0」、ニヤッとしていただけたら幸いです。

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