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虐げられた末に復讐を終えた王女は、世界で一番幸せな王妃となる  作者: 桜城恋詠
2・敬愛していたお兄様、大嫌いな妹

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過去の最悪な思い出(1)

 この国は5男3女、合計8名の子宝に恵まれた。


「おぎゃあ! おぎゃあ!」


「陛下! 生まれました! 赤い瞳と黒い髪の、姫様です……!」


 次女のエクリーユは、7番目の子どもとして産声を上げた。


「おー。女が産まれんのは、スイル以来か?」


「わたくしが、紅一点ではなくなる時が来るなんて……」


「か、かわいい……っ」


「こら。触んなイトゥク!」


 当初は兄妹たちからも新たな家族の一員として歓迎され、慈しまれていた。

 まさか次女が、異能を発現できない無能として生まれてきたなど、想像できなかったからだ。


「嘘、だろ……?」


「あり得ない……!」


 だからこそ――王家の血を受け継ぐ人間であれば発現できるはずの異能が、5歳の誕生日を迎えても発動できなかったと知った家族の反応は、まるでこの世の終わりのようだった。


「わしの血を引いておらぬ子を産み、王家の子として偽るつもりだったのか!?」


「ご、誤解です! わたくしが肌を許したのは、陛下だけです……!」


「しかし、この娘はいつまで経っても異能を発現出来ぬではないか!」


「そ、それは……!」


「来い!」


「いやあ……! 旦那様! どうか、それだけは……! おやめください……っ!」


 誰もが事実を受け入れがたいと苦い顔をする中、怒り狂った王は嫌がる王妃を無理やり連れて行き、罰と称して彼女を寝台に連れ込んだ。


「おいおい。マジかよ。エクリーユって、王家の血を引いてねぇのかよ」


「誰にも似ていないと、思っていたが……」


「つまり、王城の中から黒髪と真紅の瞳の男を探し出せば、本当の父親が見つかるかもしれないってことか」


「そんな目立つ容姿の人なんて、いたかなぁ……?」


 家族全員が集まった場所で、両親が言い争いを繰り広げたのがよくなかったのだろう。

 兄たちは一斉に、妹へ向ける目の色を変えた。


(どうして……?)


 今まであんなにも慈しみ、日々を過ごしてくれたのに。

 事実が明らかになった途端、彼らはエクリーユに汚物を見るような視線を向ける。

 幼い少女にはその理由が、さっぱり理解できなかった。


「お兄様……」


「お前はオレたちの、妹なんかじゃねぇ」


「きゃ……っ」


 いつも通り兄に縋りつこうとしたら、引っ叩かれて床に叩きつけられた。

 ここに集まった兄妹全員が、こちらに蔑みの視線を向けている。

 それでも、エクリーユは助けを求めずにはいられない。


(お姉様なら、私のことを慰めてくださるはずだわ……!)


 何かと乱暴な兄たちを叱りつけ、大切に慈しんでくれた。

 大好きな姉に潤んだ瞳を向け、少女は助けを求める。


「お、お姉様……!」


「穢らわしい血を引くドブネズミを、今まで妹だと思い込んでいたなんて……。王家の汚点ですわ。どうにかして、存在を抹消しませんと……!」


 しかしスイルは、兄たちとまったく同じ反応をした。

 彼女は自分の元に伸びた小さな手を叩き落とすと、そのまま妹を足蹴にした。


「ひ……っ! い、痛いわ……っ。姉様……っ。止めて……!」


 どれほど泣き叫ぼうとも、姉はひたすら小さな身体を蹴り続ける。

 その様子を目にして腹をかかえて笑ったフォセティは少女の髪を引っ張り、苦悶の表情を浮かべる妹を脅し

 た。


「この程度で済むと、思うなよ。出自を偽ったてめぇに、居場所なんかねぇ」


「今日からあんたは、俺たちの玩具だ!」


「苛ついた時はこいつをいじめて、ストレス発散の捌け口にしようぜ!」


「まぁ、素敵。とっても素晴らしい提案ですわ。ねぇ? ワンス兄様?」


 スイルに問いかけられた長男は、騎士団で副団長をしている。

 曲がったことが大嫌いで、正義感溢れる男だ。

 そんな人が、妹を虐げようと目論む弟の提案を呑むはずがない。


「わ、ワンス兄、様……っ」


 エクリーユはガタガタと全身を震わせ、一縷の望みをかけて彼の名を呼ぶ。


(みんなが大好きで、信頼しているワンスお兄様なら……! この提案を断固として拒否してくださるはずだわ……!)


 しかし――。


 スイルから同意を求められた長男は、次女の思い通りに行動してはくれなかった。

 彼は腰元に収めた剣を引き抜くと、妹の首筋に切っ先を突きつけて選択を迫る。


「選べ。ここで死ぬか。俺たちの慰み者になるか――」


 ――この日に戻れるのなら。


 エクリーユは考えることなく、即座に前者を選び取るだろう。

 しかし、純粋無垢な少女はこれから自分の身に待ち受ける恐ろしい出来事を想像もできず――。

 死よりも恐ろしいことは何もないと考えた結果、後者を選択してしまった。


「い、いや……っ。死ぬのは……っ。なんでもします……! だから……っ」


「ツゥエン」


「ほんとにいいの? 兄上」


「ああ。好きにしろ」


「やった。フォセティ! 一緒にやろうぜ!」


 真紅の瞳から涙を流して懇願する妹の姿を冷めた目で見つめた長男は、剣を鞘に収めてその場を立ち去った。

 彼に名を呼ばれた次男は嬉々として三男を呼び寄せ、そこからエクリーユの永遠に終わらぬ悪夢が始まる。


(なんでもするなんて、言わなければよかったのに……)


 命さえ助かれば、いつかは幸せになれる。

 そんな言い伝えは、無意味な幻想だ。


 そう思い知らされたエクリーユの心は、彼らから暴行を受けるたびにどんどん荒んでいく。


「ねぇ、見て。あれ……」


「第7子……」


「違うでしょ? 不義の子なんだから……」


「血で汚れたドレスを、纏って歩くなんて……」


「赤い瞳と道化して、不気味だわ……」


 あの日を境にエクリーユは余所者や不義の子として見られ、使用人よりも最下層の扱いを受ける羽目になった。

 己の血に寄って汚れたドレスを身に着けて廊下を歩くたびに、下女の心ない言葉に晒される。


(私は、生まれてきてはいけなかったの?)


 底の見えない奈落に叩き落とされたエクリーユは、何度も自問自答を繰り返す。

 どれほど兄姉たちに愛される姫に戻ろうと勇気を振り絞ったとしても、無意味だった。


 姉や兄は傍若無人に振る舞い、自分に酷いことばかりをする。

 面と向かっての暴言だけなら、まだいい。


 突き飛ばされたり、お茶会の最中に紅茶を勢いよくぶち撒けられたりと、身の危険を感じるようなことばかりをされては堪らない。


(不義の子。余所者。無能女……。どうしてみんな、そんな酷い名で私を呼ぶの……?)


 彼らの口から聞こえてくるのは、侮蔑の視線と心ない呼び方ばかり。

 いつしか、誰も自分の名を呼んでくれなくなった。


 それを嘆いていれば、目の前に影ができた。


「ひ……っ!」


 また兄妹の誰かがやってきて、傷つけられる。

 そんな恐怖に引き攣った悲鳴を上げ、膝を抱えて丸まったエクリーユの小さな身体を優しく抱きしめてくれたのは、意外な人物だった。


「姫様。異能が開花するまでの辛抱ですよ。苦しい時は、一瞬で終わります。もう少しだけ、頑張りましょうね」


「テラマ……!」


 少女の境遇を不憫に思って優しい言葉をかけてくれた乳母の名は、テラマ。

 エクリーユが唯一心を許し、母親のように甘えられる存在だった。


(どんなに苦しくても、悲しいことがあったとしても……。テラマが私を抱きしめてくれるから、耐えられる……)


 彼女のぬくもりを堪能しながら年相応の子どものようにわんわんと泣き叫んで疲れて眠る生活は、長く続かなかった。


「奥様にそっくりな白髪の姫様が、生まれましたよ!」


「あ、あ……っ。よかった……陛下の、赤ちゃん……。無事、に……」


 ――エクリーユが、末姫ではなくなったせいだ。


 少女が不義の子だと疑われてから怒り狂った国王が、王妃と営んだ結果生まれた愛の結晶だった。


 母は「今度こそ失敗はできない」と産まれたばかりのリシーロに並々ならぬ思いをいだいているのは、ひと目見ただけでもよくわかった。


「テラマ! 今日この場を持って、無能の乳母を解任とする!」


「へ、陛下……!?」


「本日づけで、貴様は第3王女リシーロの乳母だ!」


「お、お待ちください! その命には、従えません……!」


 王はそんな王妃の願いを叶えるかのように、乳母とエクリーユを引き裂く無惨な命令を下す。


 当然テラマも黙ってそれに従えるはずもなく、異を唱えたが――。

 立場の弱い彼女の主張が受け入れられるはずもない。


「ならば出ていけ!」

「い、嫌です! 姫様を、お1人にするわけには……!」

「テラマ……!」

「姫様……っ!」


 双方の伸ばした手が、再び触れ合うことなく離れていく。

 王命によって、姫と乳母は引き裂かれ――テラマは王城を追われてしまった。

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