表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虐げられた末に復讐を終えた王女は、世界で一番幸せな王妃となる  作者: 桜城恋詠
1・虐げられた末姫は、復讐を始める

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/17

苛烈な復讐(1)

「いやぁああ!」


 大嫌いな姉の叫びを聞き、エクリーユはようやく炎を発現させるのを止める。

 自慢のロングヘアは、いつの間にかベリーショートと呼ぶべき短さなってしまっている。


「わ、わたくしの髪が……!」


 それに絶望した長女は、そう言った直後にあっさりと意識を失った。


(次……)


 エクリーユは、4番目に生まれた男を視界に捉える。

 悲鳴こそ上げなかったが、「自分は潔白だ」と言わんばかりの態度に苛立って仕方がない。


(この期に及んでも、反省の色を見せないなんて……)


 3人の兄姉とは比べ物にならぬほどの、地獄を見せてやるべきだろう。

 エクリーユはどこか悲しげに、声を発した。


「フォセティ兄様。あなたは誰よりも暴力的で、私の身体に山ほど消えない傷を残してくださったわね……」


「だ、だからなんだよ!?」


「あなたにも、一生消えない傷を刻み込んであげる」


 ドレスで隠れる場所であれば、どれほど傷つけても構わない。

 そんな謎の持論を展開して殴る蹴るの暴行を続けた男には、ご自慢のベビーフェイスを使って女性たちを取っ替え引っ替えしないように顔を焼き、人前に出られないほどの火傷跡を作って生涯苦しませるのが一番だ。


「ぎゃああ……!」


 3男は焼け爛れた頬を抑え、その場に倒れ伏す。

 血を分けた兄弟たちの断末魔は、復讐が順調に進んでいる証拠だった。


(いい気味……)


 エクリーユは胸がスッとするような錯覚に陥りながら、6番目に生まれた5男に注目する。


「あ、あ……っ。や、止めて、くれ……! もう……!」


 イトゥクは他の兄妹に比べたら、わりかしまともと言える分類だった。

 おどおどとした性格で、いつも加害性の高い兄や妹に怯えている。


 自分が標的になりたくないから命じられたらエクリーユを加害し、己が虐げられる姿を痛ましそうに見つめることはあっても、助けを求める手を掴みはしない。


「ねぇ、イトゥク兄様。見て見ぬふりが重罪だって、あなたは知っていたかしら?」


「し、仕方ないじゃないか……! だって、そうしなきゃ……!」


「私に同情する気持ちが1ミリでもあったなら、ムガルバイト兄様のように手を差し伸べるべきだったのよ。そうすれば、こんな目に遭わなくて済んだのにね……?」


「え、エクリーユ……っ!」


「私の名前を呼ばないで」


 今まで散々無能呼ばわりしてきた人間に、都合のいい時だけ自分の名を口にされるのが不愉快で堪らない。

 少女は険しい表情でピシャリと言い放つと、5男を炎の牢獄へ放り投げた。


(あとは……)


 邪魔な兄たちは、全員無効化した。

 残されたのは、この期に及んでもまだこちらを睨みつける元気がある妹と――真っ青な顔で怯える両親だ。


「こ、こんなことをして、ただで済むと思っているのか!?」


「もちろん。許されるべきではないと、よく理解しているわ」


「なら……!」


「すべてが終わったら、私はここを出ていく。そのためには――どうすればいいか、わかるでしょう?」


 エクリーユは己の持てる力をすべて披露し、この場を完全に掌握した。

 娘に畏怖を抱く父親に怯える次女の姿は、ここにはない。


(息子たちのようにみっともなく頭を垂れ、己の罪を認めなさい)


 少女は王が行動に移すまで、静かに待ち続ける。


「く……っ」


 彼はしばらく逡巡する様子を見せたが、最終的には観念したようだ。

 王座から腰を上げると、床の上に力なく崩れ落ちた。


「あ、あなた……!」


 頭を下げた夫に「そんなことをする必要はない」と言わんばかりに寄り添う妻が滑稽だ。


(こうして、夫ではなく……。私に寄り添ってくれたらよかったのに……)


 エクリーユは叶わぬ願いを胸にいだきながら、彼らを冷たい瞳で見下した。


「す、すまなかった……! これもすべて、私が君の出自を疑ったせいだ……!」


「あら、お父様。やっと罪を認める気になったの? 今まで散々、私だけではなく――お母様にすらも他の男に股を開いた雌豚と、心ない言葉をぶつけていたくせに?」


 エクリーユが冷たく言い放った直後、国王の瞳が大きく見開かれた。

 彼はどうやら自分で口にした心ない言葉を、すっかり忘れてようだ。


「な……っ! 違う! 私は、口汚く妻を罵った覚えはない!」


 娘に現実を突きつけられた男は、何度も首を振って否定する。


 だが――。

 この期に及んでも責任逃れをしようと目論む父親を、怒りの炎を背中に纏わせている娘が許すはずなどなかった。


「どんなに謝罪をしても、一度口にした言葉は元には戻らないわ。私は絶対に忘れない。あなたたちにされてきたこと。その苦しみの数々を――」

「う、ぅう……っ。ううう……!」


 父親はようやく観念した様子で四肢を投げ出し、その場へ惨めに膝をつく。

 その後、周りを気にする様子もなく、泣きじゃくり始めた。


(情けない男……)


 身の危険を感じてようやく保身に入るなど、どうかしている。

 エクリーユは真紅の瞳を綻ばせると、妖艶な笑みを浮かべて告げた。


「どれほど泣き叫んだところで、あなたたちは私を許してくれなかった。だから、こちらもあなたたちに救いの手を差し伸べる気はないの。ごめんなさいね?」


「エクリーユ! 一体、何を……!」


 母親の静止を聞くことなく、次女は2人に向かって火を放つ。


「フォセティ兄様のように、顔を焼くだけじゃ足りないわ。地獄の業火に全身を焼かれ、苦みなさい……!」


「ぎゃあああ……!」


 一瞬で炎に塗れた国王は無様に床の上でのたうち回り、炎を消そうと必死になる。

 そんな姿を目にしたエクリーユは、興味を無くしたように彼らから目を背けた。


(あとは……)


 ――殺してしまいたいほど憎いと感じる。


 最後の1人が、まだ残っていたからだ。


「ば、化物……!」


 こちらを睨みつけながら鬼の形相で叫ぶ少女の名は、リシーロ。

 白百合のような白髪と可憐な桃色の瞳が印象的で、末姫として兄妹から大層可愛がられて育った。

 羨ましくて、妬ましくて、目障りで、大嫌いな妹だ。


『私のほうがあとから生まれたのに、先に生まれた姉様が無能と呼ばれているなんて……。本当にかわいそう!』


 彼女はエクリーユに同情しながら、長女と協力して散々自分をいたぶった。

 肉体的な被害はフォセティ、精神的な攻撃はリシーロが中心となり、散々煮え湯を飲まされてきたのだ。


「あなただけは、生かしておけない……!」


 彼女へ復讐をする、絶好の機会。

 それを逃すわけにはいかなかった。


「あ、あたしは! あんたが無能だって言うから、痛めつけてやっただけ! ちゃんと異能を発現出来ていたら、姉様のように慕ってあげたのに……!」


 彼女はこちらに責任転嫁をしながら、恐怖と怒りが入り混じった表情で自分を見ている。


(その姿が、ずっと見たかった……)


 エクリーユは興奮を隠しきれない様子で、嗜虐的な笑みを浮かべた。


(もっと苦しみ、絶望しなさい。私の受けた痛みや悲しみは、この程度の怯えをいだいた程度では足下にも及ばないわ……!)


 己の身に纏わりつく炎の勢いが、さらに増す。


「あなたにも、永遠に消えない傷を刻み込んであげる……」


 黒髪を逆立たせて怒りに打ち震えた少女は、大嫌いな妹を両親たちと同じように焼き殺さんばかりの勢いで、痛めつけようと試みる。


「いや……っ。やめて……!」


 彼女は炎から身を守るため、異能を発現させた。

 どこからともなく出現した百合の花がリシーロの小さな身体に纏わりついて、大輪の花を咲かせる。

 それが、憎たらしくて仕方がない。


(あの子を象徴する、百合の花……)


 世間では純潔の百合姫なんて2つ名で呼ばれているが、その性根は腐りきっていた。


 家族だけではなく、国民たちから一心に愛されてきた。

 そんな彼女の本性を人々が知れば、もう二度とリシーロが称賛を受けることなどない。


(美しく可憐に、気高く咲く百合の花を無惨に手折る……。それが私の、使命なのだから……)


 憎悪に支配されたエクリーユは妹を守る植物たちごと燃やし尽すため、炎を放った。


(塵すら残さず、消えて!)


 しかし――。

 こちらの思惑通り、彼女が無様な姿を晒すことはなかった。


「エクリーユ……!」


 ――ここにいるはずがない人物の声が聞こえてきたからだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ