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虐げられた末に復讐を終えた王女は、世界で一番幸せな王妃となる  作者: 桜城恋詠
4・悲しみに暮れて

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14/15

迷路で密会

 ――レべラゼム王国にやってきてから、1か月が経過した。


(そろそろ、いいわよね……?)


 エクリーユはこれまで、寝室で大人しく過ごしていた。

 だが、のんびりと暮らしている余裕など今の自分にはない。


(母国との手紙のやり取りは、どんなに早くとも一往復かかるわ……。そろそろ行動に移さないと、大事な時に陛下へ恩返しができなくなってしまうもの……)


 これもすべて、己の望みを叶えるためだ。

 一念発起した少女は、乳母にある提案をする。


「テラマ。今日は、動きやすい服装を用意してくださる?」


 彼女は自分がなぜそんな提案をしてくるのか、さっぱり理解できないようだ。

 エクリーユは再び口を開き、己の主張をはっきりと伝えた。


「走り込みがしたいの」


「ひ、姫様が、ですか!?」


「ええ。最近、体力づくりの一環で始めたのよ」


 第2王女が走り込みを始めたのは、1年前の出来事だ。

 妹が生まれてすぐに少女と別れた乳母が驚くのも、無理はなかった。


「お部屋に閉じこもりだった姫様が、お外で元気に走り回るなど……。テラマ、感無量にございます……」


「それは、その光景を見てから言ってくださる?」


 彼女は瞳に涙を浮かべて、王女の成長を喜んだ。

 そんな侍女の姿を前にしたエクリーユは、呆れたように肩を竦める。


「申し訳ございません……。姫様が活発な女性に成長しているなど想定しておらず、外出着はすべて踝丈のものしかなく……」


「なら、夜着のままでいいわ」


「ひ、姫様!? なりません! そのような薄着で外に出るなど……!」


 テラマから申し訳なさそうにそう告げられた少女は、薄布1枚で外に出ると言い出した。

 今のエクリーユはアティール王国の第2王女でもあり、レべラゼム王国の国王として君臨するリドディエの婚約者だ。


 彼女がそんなはしたない格好で歩き回るなんてどうかしていると真っ青な顔で異を唱えるのは当然なのだが……。


「自国では、ずっとこんな感じだったわよ? それに、酷く薄汚れてみすぼらしい姿よりは……ずっといいでしょう?」


 エクリーユにとってこの格好はアティール王国で暮らしていた時よりはよっぽどまともで、人前に出ても恥ずかしくない格好だった。


 だから「まったく問題ない」と胸を張るが、テラマにとって己の主張は到底受け入れがたいものであったらしい。


「し、しかし……!」


 彼女が難色を示すのならば、同意を得るのは諦めるべきだ。

 エクリーユは乳母から足元へ視線を移し、獣に向かってある提案をした。


「黒猫さん。一緒にお外で、かけっこをしましょうか」


「なぁん」


「姫様!」


 黒猫は「喜んで」と言うように鳴くと、のそのそと小さな足を動かして外に出る。

 エクリーユは宣言通り、かろうじて秘部を覆い隠している膝上10cmのワンピースを纏ったまま、その後ろ姿を追いかけた。


「こんな格好を許したと、陛下に知られたら……!」


 テラマはよほど不都合があるらしく、ガタガタと震えている。


(リドディエ様は、この程度の行いで怒り狂うほどに恐ろしい方なのかしら……?)


 自分に対してはいつだって優しい姿を見せてくれるからこそ、その反応が不思議で堪らなかった。


「黒猫さん。案内してくれて、どうもありがとう」


「なぁん」


 エクリーユは初めて、王城の外に出た。

 獣が少女を案内してくれたのは比較的安全と思われる庭園で、迷路のように入り組んでいるようだ。


「これは、楽しめそうね……」


 第2王女はニンマリと口元に放物線を描くと、片っ端から歩き回って全貌を明らかにしようと試みる。


「私、この迷路を隅々まで歩いてくるわ!」


「き、危険です!」


「大丈夫! テラマはここで、休んでいて! 迷子になったら、大変だもの!」


「姫様……!」


「黒猫さん! 行きましょう!」


「なぁん」


 静止する乳母の声を無視した少女は、勢いよく迷路の中へ飛び込んだ。


「なるほど……。こういう感じになっているのね……」


 入り組んだ迷路は手が込んでおり、2択を外すと行き止まりに遭遇してしまう。


 道を間違えた時は引き返し、最奥を目指して歩くのはかなりの運動になる。


(黒猫さんには、とっても素敵な場所を教えてもらったわ! これなら人目につかず、体力づくりができそうね……!)


 エクリーユはキラキラと瞳を輝かせながら、黒猫と一緒に花壇迷路を楽しむ。


「にゃあ」


「黒猫さん? どうしたの?」


「にゃっ」


 小動物は花壇迷路が不自然に切断され、花壁の外が見える場所で立ち止まった。


 それを不思議に思った少女が獣に問いかけると、「声を出さないで」と言うかのように鳴いた猫は第2王女の口元を肉球で塞ぐ。


(一体、何が……?)


 少女は困惑しながらも、ソロリとその隙間から外の光景を覗き見た。


(イトゥク兄様……?)


 エクリーユはすぐさま、それを後悔する。


 己の身体に殴る蹴るの暴行こそ加えぬものの、痛ましそうな目で自分が虐げられるのをずっと見ていた傍観者――。


 引っ込み思案で大人しい性格の5男が、視線を下に向けてオドオドとした様子を見せながら、誰かと会話をしている姿を目撃してしまったからだ。


(どうして、ここに……?)


 気の強い兄たちに命じられるままに行動しかしていなかったのだから、単独で面と向かって顔を合わせたところで危害を加えられることはないとわかっている。


 ――それでも。

 見て見ぬふりをされた怒りが、悲しみが、どす黒い憎悪となってエクリーユの心に渦を巻く。

 少女はそれを必死に己の内側に押し留めながら、耳をそば立てた。


「万が一にも、エクリーユと顔を合わせた時の配慮か。あの男の考えそうなことだ」


「よ、用事はもう、済みました……っ。まだ、何か……?」


「いいのか。本当に」


「え?」


「彼女が姿を消した今、王族の中で一番発言権がないのは、君だろう」


 聞き覚えのある声を耳にした瞬間、第2王女は真紅の瞳を大きく見開く。


 姿を見なくたって、すぐにわかった。

 5男と話している相手がリドディエだと、気づいたからだ。


(どうして……? なぜ、こんなところで……)


 花壇迷路の近く、人気のない場所で国王と隣国の王太子が会話をするなど、おかしな話だ。


(まるで誰かに見られるのを、嫌がっているような……)


 黒猫を抱きあげたり少女がガタガタと全身を震わせてその場から動けないでいる間にも、彼らの会話が聞こえてくる。

 エクリーユは呆然と、その話を右から左へと聞き流す。


「ストレス発散の、捌け口にされるぞ」


「し、心配には……。及びません……。彼が王となった今、あの子だって……。きっと……」


「エクリーユは僕の、妻となる女性だ。もう二度と、あの地は踏ませない」


「ですが……っ。彼女が彼を愛していたのは、誰の目から見ても明らかで……!」


「黙れ」


「ひ……っ」


 自分の名前が出てきたことに驚いた少女は、いつの間にか恐怖で後ずさりしてしまっていた。


 薔薇の花壁に棘があることをすっかり忘れていたエクリーユは、背中に鈍い痛みが走り、思わず悲鳴を上げてその場にしゃがみ込む。


「んなぁ」


「は、ぐ……っ。う、ぅ……っ。痛、い……っ」


 心配そうな鳴き声を上げる黒猫に、「大丈夫よ」と笑いかける余裕もない。

 背中に突き刺さった棘をどうにかするため、エクリーユは己の異能を使って花壁を燃やし尽くす。


「エクリーユ……?」


「近づくな!」


 女性の悲鳴や苦しそうな呻き声が聞こえてきた瞬間、花壇迷路の中で火柱が上がったのだ。


 異変に気づいた5男がこちらに向かって一歩を踏み出そうとした直後、それを牽制するようなリドディエの怒鳴り声が聞こえてくる。


(今すぐここから、立ち去らなくては……!)


「んにゃあ……?」

「は……っ。う、ぅ……っ」


 自分がなぜこれほどまでに痛みを感じているかすらもわからぬまま、ふらふらと立ち上がって踵を返す。

 その間にも国王の怒りを押し殺した、冷たく低い声音が響き渡った。


「貴様に恩情をかけた、僕が馬鹿だった」


「ま、待ってください! まだ、話は――!」


「急用ができた。帰ってくれ」


「陛下……!」


 後方ではイトゥクの縋るような声と、それを牽制するリドディエの吐き捨てる言葉が聞こえてくる。

 しかし、エクリーユにはそれを気にしている余裕などなかった。


「はぁ……っ。は……っ。はぁ……!」


 走って、走って、走って、走って――。


 どうにか迷路の中から抜け出した少女は、黒猫を抱きかかえて涙でぐちゃぐちゃになった第2王女の姿を目にして驚く乳母の胸に縋りつく。


「姫様!? どうされたのですか!?」


「うわぁあああん!」


 彼女に事情を説明する余裕など、今の自分にはなかった。

 テラマに抱きついて涙を流した少女は、そのまま疲れて意識を失った。

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