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虐げられた末に復讐を終えた王女は、世界で一番幸せな王妃となる  作者: 桜城恋詠
1・虐げられた末姫は、復讐を始める

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家族みんな、大嫌い

(大嫌い、大嫌い。皆々、消えてしまえ……!)


 闇夜を想起させる漆黒の髪に、真っ赤に燃える紅蓮の瞳へ憎悪の感情を宿らせたエクリーユ・アベティーラは、王家の血を引く8人の子どもたちの中で唯一異能を発現できなかった、7番目の子どもだ。


『王家の血を引いていたら、5歳の誕生日までには必ず異能が発現する……』


『それがないってことは、お姉様はきっと、お父様の子ではないのよ!』


『どこの馬の骨かもわからぬ血を引く娘を俺たちと同じように育てるなんて、父さんも太っ腹だな』


『お父様の恩情に感謝して、わたしたちに尽くしなさい! その命の灯火が、消え失せる時までね。あははは……!』


 王妃と浮気相手との間に出来た子どもに違いないと断定づけられたエクリーユは、あとから生まれた妹にさえも蔑まれ、「無能」と呼ばれて虐げられた。


 汚物を見るような目で、こちらを見つめる父親。

 兄妹に寄って集って暴行されている姿を目撃しても、無言で立ち去る母親。

 ストレス発散の捌け口としか思っていない5人の兄たち。

 いびり倒してくる姉と妹――。


 少女は口にするのも憚られるほどの酷い目に遭ったとしても、けして生きるのを諦めなかった。


 18歳のエクリーユは己を虐げる家族たちに対する憎悪を原動力にし、この日初めて異能を発現した。


「ば、化物……!」


 父親は全身を小刻みに震わせながら腰を抜かし、怯えた様子で叫ぶ。


 それは怒りに共鳴し、エクリーユの身体が轟々と燃え盛る炎に包まれたからだろう。


「今まで、無能と馬鹿にしてごめんなさい……! わ、悪かったわ……!」


 母親は真っ先に反省した様子を見せ、涙を流して命乞いをする。

 しかし――その程度の謝罪を受けて全てを許せれば、エクリーユは一生異能を開花できなかっただろう。


 彼女の姿をきょとんと見つめた少女は、心底不思議で堪らないと言わんばかりに、こてりと小首を傾げた。


「どうして、そんなに怯えているの? 私、無能じゃないわ。ちゃんとお父様の血を引く、王家の娘だったのよ! だからこうやって、異能を発現できたのに……」


「ち、違う……っ。こんなの、ありえん……! 貴様は、私の娘などでは……!」


 母親が再び声を発する前に、真実を認められぬ父親が声を荒らげた。


「そうよね……。お父様が現実から目を背けようとするのも、無理もないわ」


「わかってくれるか!?」


「ええ。もちろんよ」


「ならば……」


 彼はこのまま命を落とすよりも、国民からの支持率が落ち、玉座を引き摺り落とされるほうが嫌なようだ。

 この期に及んでもまだ、その椅子から退くつもりはないらしい。


(哀れな人ね……)


 エクリーユは心の中で父親に対して軽蔑の眼差しを向けながら、歌うように声を発した。


「王家の子どもたちは、誰よりも尊重されるべきなのに……。あなたの勘違いによって、8年間も虐げ続けたんですもの。こんな醜聞を国民たちに知られたら、王様ではいられなくなってしまうものね?」


 己の発言を耳にした人々は、誰もが露骨にたじろいだ。


(無理もないわ……)


 ――王家の血を引く直系の子どもたちは、エクリーユになんらかの危害を加えていた。

 父親が王座から転がり落ちたところで、清廉潔白な状態で空いた椅子に座れる人間は限られている。


 それが誰なのかについては、国王もすぐに理解できたようだ。

 彼はすぐさま、憎しみの籠もった視線とともに息子の名を口にした。


「貴様……っ。ムガルバイトを王にするため、無能と偽り続けていたのか……!?」


「嫌だわ、お父様ったら。私がそんな器用なこと、できるわけがないでしょう?」


「わ、私は! 王座から降りる気は……!」


「それを決めるのは、私ではなく国民よ」


 5人の子どもたちは大なり小なりエクリーユを加害したが、2人の兄は例外だった。

 1人は己の身かわいさで、エクリーユが傷めつけられる姿に見て見ぬふりを続けた。

 そして、もう1人は――自分を守ろうとしてくれた。


 それが、先程父親が口にした名前の男。

 第5子として生まれた4男のムガルバイトだった。


 この場に彼の姿があれば、国王の怒りは兄に向いていただろうが――残念ながら、ここにあの人はいない。


 懇意にしている隣国の友人へ、会いに行ったからだ。


(お兄様を巻き込むわけには、いかないもの……)


 己は最高のタイミングで異能に目覚めた。

 それを喜べば、少女の周りに揺蕩う炎の勢いが強まった。


「お、落ち着け! 力を鎮めるんだ!」


「お父様ったら……。何をそんなに、恐れる必要があるの? 私はまだ異能に目覚めたばかりのひよっこ。家族みんなで力を合わせて襲いかかれば、一溜りもないのに……」


 口元に歪な三日月を浮かべたエクリーユは、挑発するように周りを見渡した。


(どうしてみんな、怯えているのかしら? 幼い声から異能に目覚め、私を虐げるためだけに特別な力を奮ってきたくせに……)


 普段は喧嘩っ早い兄たちまでもが青ざめた表情で直立不動になっている姿が、おかしくて仕方がない。


(ワンスお兄様は、騎士団の副団長として名を馳せたはず……。周りの兄妹と同じような反応をしているようでは、全然駄目ね)


 所詮は真実に気づけず、実の妹を無能呼ばわりした集団の一味だ。


(どれほど他者から賞賛を受けようとも、所詮は猿山の大将。大したことのない小物だわ……)


 エクリーユは、一回り違う兄に向けて軽蔑の眼差しを向けた。


「黙って聞いていれば……! 父上を、どこまで愚弄すれば気が済むんだ!」


 1番目の兄は、自分よりも立場の弱い人間からそのような目で見られるのが我慢ならなかったのだろう。

 彼は腰元の剣を引き抜き、妹に襲いかかった。


(鋭利な刃物を使って私を無効化しようとした時点で、ワンス兄様の負けは確定したも同然だわ……)


 エクリーユは己の周りに浮遊する炎で彼の武器を燃やし尽くすと、炎の鳥籠に兄を捕らえた。


(まずは、1人……)


 微笑みを深めた少女は、次の標的に狙いを定める。

 2番目の兄、ツゥエンだ。


「よ、よくも兄ちゃんを……!」


 この男は、長男がいなければ何もできない。

 腰巾着のような人物であり、単体であれば恐れる必要など何もなかった。


(2人……)


 兄を助けようとした次男を炎の牢獄に閉じ込めたエクリーユは、微笑みを消して長女を見つめる。


「今の私を見て、どう思う?」


「ひ、ぃ……っ!」


「酷いわ。あなたが私を、修羅に生まれ変わらせたのに」


「ち、違いますわ! わたくしは、リシーロに命じられて……!」


「妹に責任を擦りつけるなんて、最低ね」


「許して! エクリーユ……!」


 わんわんと泣き叫ぶ3番目に生まれた姉が、耳障りで仕方がない。


(惨めに命乞いをするくらいなら、あんなことをしなければよかったのに……)


 少女はうんざりとした様子でその様子を見つめ、長女が何度も見せびらかしてきた美しく光り輝く金色の髪に狙いを定める。


「あなたが一番大事にしているものを、奪ってあげる」


 チリチリと音を立て、毛先から肩越しまで炎がもの凄い勢いで上昇していく。

 スイルは身の危険を感じ、絶叫した。

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