1-5 復讐劇の始まり
その日、記者会見の会場は異常な熱気に包まれていた。
ひしめき合うマスコミ、壁際に立つ警官、そして壇上に並ぶMMKの重役たちと、高満、明美。
傍らには、誠司の両親と明美の両親も顔を揃えていた。
壇上の端では、婦人警官に付き添われた娘の絵美が、静かにその時を待っていた。
会見が始まると、高満が神妙な面持ちでマイクを握った。
「……神宮誠司は、私の最も信頼していた部下でした。
まさか彼が裏で反社勢力と繋がり、情報を売っていたとは。
管理責任を痛感しております」
続いて社長が遺憾の意を表明し、明美はハンカチで目元を拭った。
「誠司さんがそんなことをしていたなんて、今でも信じられません。
彼は変わってしまったんです。
お金のために、私や娘さえも裏切って……」
一斉に焚かれるフラッシュ。
高満は「本人は罪の意識から自殺したようですが」と、偽りの慈悲さえ見せていた。
順調に進む記者会見。
質問の矛先は死者に向けられ、誠司を断罪する言葉が会場を埋め尽くす。
だが、最後の一人が立ち上がった時、空気が変わった。
「東都新聞の佐藤です。
高満課長、今の『反社に情報を売った』という点についてですが……この画像をご覧ください」
会場の大型スクリーンが切り替わった。
そこに映し出されたのは、高満が慣れた手つきで不正アクセスを行っているログと、その横で笑いながらワインを飲む明美の隠し撮り写真だった。
「な、なんだこれは!? 出所不明の捏造だ! 警備員、この記者をつまみ出せ!」
高満が叫ぶが、警備員は微動だにしない。
スピーカーからは、二人の生々しい密談が流れ出した。
『……あの真面目くさった男を陥れるのに、いい案はない?』
『……ネットに落ちていたツールを奴のPCに仕込む。
あとは反社から前金を受け取るだけだ』
『……誠司を警察に突き出したら、その金で遊んで暮らせるわね』
会場は凍り付いたような静寂に包まれた。
「映像を止めろ! これはAIによる生成動画だ!」
高満と明美が狂ったように叫ぶ。
だが、係員の声が絶望を告げた。
「映像を止められません! 何者かにハッキングされています!」
「馬鹿な、うちの最新セキュリティを突破できる奴なんて、神宮以外に……っ」
高満が口を噤んだが、もう遅い。
社長の冷徹な視線が彼を貫いた。
「ほう。
死んだはずの男を、君は今、誰よりも恐れているようだな」
無情にも動画は垂れ流され続ける。
逃げ場を失った二人の醜態を、全世界が見つめていた。
マスコミのカメラはもはや一人も逃さない。
動画の音声が、決定的な一言を放つ。
『……邪魔な絵美は両親に。
懐かないなら、少し殴ってやれば出ていくだろうさ』
その時、絵美がゆっくりと前に歩み出た。
彼女の口角は、わずかに、だが確かに吊り上がっていた。
「この動画は、本物です。
その証拠を見せます」
絵美はワンピースの袖を引きちぎった。
おびただしい数の痣が、白く細い腕に刻まれていた。
「体中にあります。
信じられないなら、ここで服を脱いでもいい」
婦人警官が慌てて彼女を抱きとめる。
「……そこまでしなくていいのよ。
病院へ行きましょう」
絵美は、跪き震える明美たちを冷たく見下ろしたまま、会場を後にしようとした。
――その時だった。
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