表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/4

1-2 秘密結社のスカウト

 一ヶ月。


 それが、俺が取調室で過ごした時間だった。


 昼も夜も曖昧なまま、同じ質問を、同じ声色で、何度も繰り返される。


「本当に、やっていないのか?」


 俺は、そのたびに答えた。


「やっていません」


 言葉は、少しずつ擦り切れていった。


 自分が誰で、何のために耐えているのかも、時々、分からなくなる。


 それでも、思い出す。


 ――明美と、絵美。


 あの二人の顔を思い浮かべることで、

 俺は、かろうじて“自分”でいられた。


 ◆


 その夜。


 いつもの刑事たちが去った後、入れ替わるように、一人の男が入ってきた。


 スーツは地味で、表情は、驚くほど平坦だった。


 年齢は、四十前後だろう。


 だが――

 空気が、違った。


 男は、書類も出さず、椅子に腰を下ろすと、俺をじっと見た。


 まるで、「取り調べ」ではなく、「品定め」をしているかのように。


「……神宮 誠司君」


 名前を呼ばれた瞬間、

 なぜか、背筋が伸びた。


「君の無実を証明するものは、確かに何もない」


 淡々とした声だった。


 慰めでも、脅しでもない。


「だが、その腕を、このまま腐らせるのは惜しい」


「……何の話ですか」


「世界最大級のハッカー大会――

『DEF CON』で、入賞経験がある」


 心臓が、一拍遅れた。


「履歴書に書いた覚えは?」


「ありません」


「だろうね」


 男は、初めて口角をわずかに上げた。


「君は、優秀だ。

 そして――運が、悪かった」


 その言い方が、妙に引っかかった。


 まるで、俺が罪を着せられた理由を、すべて知った上で言っているようだった。


 ◆


「……それで?」


 俺は、疲れ切った声で言った。


「自白を勧めに来たなら、無駄ですよ」


「いや」


 男は、即答した。


「君を、救いに来た」


 反射的に、笑いそうになった。


「冗談を言う場所じゃない」


「冗談ではない」


 男は、静かに言った。


「君は――

 一度、死ぬことになる」


 その言葉が、

 取調室の空気を切り裂いた。


「そして、真実を、君自身の手で暴く機会を与える」


 沈黙が落ちる。


 俺は、目を逸らさなかった。


「……あなたは、警察じゃない」


「察しがいい」


「なら、何者だ」


 男は、少しだけ間を置いてから答えた。


「私は、秘密結社『八咫烏』のエージェントだ。

 位階は――大天使アークエンジェル


 荒唐無稽な言葉だった。


 だが、不思議と、笑えなかった。


 ◆


「どうする、神宮君」


 男は、問いかける。


「このまま、無実を証明できないまま朽ちるか」


「それとも――

 世界の裏側へ、足を踏み入れるか」


 俺の脳裏に、絵美の顔が浮かんだ。


 お守りを握らせてきた、

 あの小さな手。


「……無実を証明できるんですね」


「ああ」


「家族は?」


「守る」


 短い答えだった。


 だが、嘘には聞こえなかった。


「なら」


 俺は、息を吐いて言った。


「協力します」


 男は、満足そうに頷いた。


「歓迎しよう。

 神宮 誠司」


 こうして俺は、

 表向きには――

 “死ぬ”ことになった。

 もし「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、下記の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援をいただけると、執筆の大きな励みになります!


 皆様の応援が、物語を完結まで導く力になります。

  よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ