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2-4 トリッキーな攻撃

 スピーカーから、狐火の弾んだ声が響く。


「あ、そうそう。僕のクイズに答えられたから、さっきのウイルスはセルフ・デストラクト(自己自壊)するように設定しておいたよ。

 証拠は残さない主義なんだ。

 さて……次は何をして遊ぶ?」


 誠司はモニターを凝視したまま、低く呟いた。


「とっとと撤退して欲しいものだがな」


「つれないねぇ。

 じゃあ、『アクションゲーム・ウイルス』なんてどう? と言うか、もう感染させたから。

 ……あ、もしかしてノーフェイスって、こういうの苦手?」


 モニターには、レトロなドット絵のカーチェイス画面が表示された。


 だが、これは単なる遊びではない。


 自車のダメージがサーバーの負荷に、スピード不足がデータの暗号化に直結する、凶悪なウイルスだ。


 誠司は一瞬で判断し、背後の男を呼んだ。


「プロメテウス――篤史、頼む。

 一人で処理するより効率がいい」


「任せろ。

 こういうのは俺の得意分野だ」


 篤史がコンソールボックスに陣取った。


 自動車運転のA級ライセンスを持ち、かつてFPSの大会でも名を馳せた彼の反射神経は、アジト随一だ。


「矢印キーがステアリングか。

 スペースが制動ブレーキだな」


 初見とは思えない手さばきで、篤史は電子のハイウェイを疾走する。


 狐火が繰り出す執拗なトラップを紙一重で回避し、ハイスコアを叩き出していく。


 だが、この数十分間こそが、誠司が待ち望んだ好機だった。


 彼は篤史の影、監視カメラの死角へと滑り込む。


「EMI、思考加速クロック・アップを……限界の6倍まで引き上げる。

 反撃用のワクチンと、追跡プログラムを編み上げるぞ」


『パパ、脳が焼き切れちゃうわよ!?……分かった、リミッター解除。

 サポートするわ!』


 誠司の視界から色が消え、周囲の音が数万倍に引き延ばされた静寂に変わる。


 物理的なキーボード操作では、加速した思考に指が追いつかない。


 彼はEMIの意識と直結し、頭の中でコードを「描く」ことで爆発的な速度のプログラミングを開始した。


「……またクリアされちゃった。

 って、あれ? ノーフェイスはどこへ行ったの?

  僕はまだ君と遊びたいんだ。

 出てきなよ、ノーフェイス!」


 狐火の声に、誠司は死角から悠然と姿を現し、篤史と席を替わった。


「それで、次は何をする気だ。

 遊びに付き合うのはもう御免だ」


「つれないなぁ。じゃあ、次を最後に……」


 その瞬間、狐火の通信が途絶えた。


 モニターは正常な画面に戻り、サーバルームにいつもの静寂が訪れる。


 だが、誠司の指先は、目にも止まらぬ速さでキーボードの上を踊り始めた。


「……散々遊んでくれたな。

 篤史が時間を稼いでくれた間に、対抗策は完成した。

 ここからは、こちらのターンだ」


 思考加速の副作用――「ゴーストタイプ(残像)」が残るほどの速度で、誠司は電子の海へダイブした。


「撤退する時間を与えると思ったか? 甘いな。

 もう尻尾は掴んだぞ、狐火」


 狐火は証拠を隠滅すべく、時間をかけてVPNを切断しようとしていた。


 いや、それは「時間をかけている」のではなく、誠司を自分のサーバーへと誘い込むための「釣り糸」だ。


 誠司は、その意図を看破した上で笑った。


「誘っているのか? ならば乗ってやる」


 戦場は、狐火の支配するホームサーバーへと移る。


 敵の懐に飛び込むのは自殺行為に近いが、今の誠司には、頼れるバックアップがいる。


「行くぞ、EMI、篤史!」


 誠司は躊躇なくEnterキーを叩いた。


 数々のトリッキーな罠が待ち受ける、狐火の迷宮サーバーへと飛び込むために。

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