1.遺跡
真夜中、雨風に晒され朽ちて苔むした石畳が月明かりに照らされ、独特の寂しさと心細さを感じさせている。いつもは夜道を目を凝らして歩む旅人の行先を優しく照らしてくれる月明かりも、シダが生い茂ったこの旧世代の遺跡の中を照らしては陰鬱とした雰囲気を漂わせて敵わなかった。
トン…トン…トン…トン
そんな数百年の時を経てかつての栄華を微塵も窺い知ることが叶わなくなった古代遺跡の中に響く足音が一つ。無論、俺である。
ここは悠久の昔、今はもう無き王国の領地の一角を収めていたとある領主の住んでいた屋敷だそうだ。周囲の被支配階級民の住居は土台の跡を残して消えてしまっているが、それでもこの屋敷だけは健在である辺り当時の建築技術の高さが窺い知れる。
「ほぉ〜、マジであるんだな」
俺の目の前にあるのは、ひどく朽ち果ててはいるが、なんか球体が中に入っているランタンを掲げた如何にも女神と言った感じの表情だとか格好をした女性の彫像。球体が収められたランタンは異端宗教の共通のモチーフの一つとされている。聞けばこの屋敷の家主は女神からの天啓を受けてこの彫像を彫らせ、これを象徴として異端信仰を広めたのだそうだ。
なぜ俺がこの遺跡に足を運んだのか。ここまできて気づかない者ももはやいるまい。そう、次なる兵器を開発するためだ。厄災の力を利用した、兵器を!最っ高にロマンだと思わんかね!?わからんか!?貴ッ様に美しさの何がわかる!!(理不尽)
はい、そんなわけで厄災兵器開発RTAはっじまっるよぉ〜。
…まあ、嘘なんですけどね。
そんなわけでこの遺跡内をぐるぐると回っているのだけれども、時々この世界基準で禍々しい(異端信仰の象徴的な意味で)物品が転がっていたり、異端信仰者や盗賊、野生のおじさんが現れるだけで今のところ特に目ぼしいものは何もない。
…失礼、野生のおじさんは流石に嘘だ。
「・・・あー…うん、そっかぁ」
調査は振り出しに戻った。いや、これまで怪しい人としか遭遇してないから振り出しから状況は動いていないと言った方が正しいか…?その謎を解明するため、我々調査隊はアマゾンの奥地へと向かった。ほら、とりあえずアマゾン行っときゃなんかあんだろ。(n敗)
と言うことで、なんとなく避けていた中庭の草むらの中に歩を進める我々調査隊(1人)。インドア派に虫は鬼門って?…それ一番言われてるから。
ちょっと草が生い茂りすぎて足元がよく見えないな…。俺の兵器を使おうにも大抵がプラズマかエネルギー兵器だから使ったら遺跡もろとも全焼するだろうし…。
あ、いや燃やすんじゃなくて枯らせばいけるか…?
「脚部ブースター、限定的にアクティベート」
<<承認、制限レベル3に緩和し脚部ブースターを起動します>>
ダッダン!
一度足踏みをして跳躍補助プログラムを実行させ、ブースターの高エネルギーを周囲に伝播させるように地面を踏みしめる。すると円状に赤い光が現れ中庭の隅まで広がり、壁にぶつかると消えた。足元に熱を感じてしっかり空気が熱されているのがわかる。
しばらくすると青々としていた雑草がだんだんと色を失い、やがて茶色や小麦色になって萎れて、地に伏し赤く発光して灰になっていく。これが噂の焼畑農業ですか(?)
あっという間に生い茂っていた雑草は除去されて、多少煙臭くはあっても足元が見えるようになったのでまあいいか。というか枯らして視界を確保するつもりが結局水分が蒸発したせいか燃やせてしまったな…
周囲を注視すると、なんと中庭の一角に地下へと続く階段が現れたではありませんか。なんか某星のピンク玉によく出てくるギミックだな…。恒星間航行が可能な巨大要塞とかロマンの塊すぐる…。
「うぉ、なんかヤバい」
階段を降りると神殿のような構造となっており、吹き抜けの天井から注ぐ月明かりが光芒を成して辺りを照らす。満ちるは群青、まるで水の中にいるかのような錯覚を覚えるなんとも神秘的な光景だ。
「ゲッ…まあ流石にか…」
部屋の奥にも更に下方に下る階段が一つ、奥は黒よりも黒く闇が満ちている。所詮は月の明かりで、この中をも照らし出すのは流石に無理があるようだ。
大人しくランタンを灯して進む。なんだか普段兵器に惹かれる身でもこういう壁にピッケルの跡が残る如何にもな地下通路にはこういう鉄枠に革張りのランタンを灯して進みたくなってしまう。ちなみに撃退した異端信仰者からの拝借品だ。
トン…タン…タン…トン…
流石にこの狭い空間で延々と反響する自分の足音だけを聞いていると気が滅入りそうになる。
しばらくすると右手にやや広めの空間が現れる。壁を照らすとそこにあるのは鉄格子とその奥に広がるやや広めの空間、どうやら牢のようだ。
「…むむ?」
一瞬、一つだけ様子のおかしい牢があった気がする。すぐさま引き返して、今度は入念にそれぞれの牢の様子を調べつつ進んでいく。
瞬間、俺の口は声にならない悲鳴を上げる。牢の中にいたのは一人の幼い女の子だった。だが問題はそこじゃない。牢の中に人が囚われている可能性は考慮していたのだから対して驚かなかったが、問題は彼女の服装だ。
薄汚れてところどころ破けたりほつれたりしているものの、純白かつフリルとドレスの付いた装束。それは社交会で幾度と見た紛れもない、彼女が貴族の身分であることを指し示すものであった。
しかし何にしろ、とりあえず彼女の身柄を保護するのが優先だ。目にした人を明らかに危険な場所には放置しておけないし、何より貴族の身なら明らかに俺の貴族令息としての生活に影響が出るかもしれない。
錠を破壊して牢の中に侵入し、彼女に歩みを進める。しかしここまでアクションを一つたりとも起こさない彼女を見て胸騒ぎがする。
「大丈夫か?」
「・・・ぇ?」
彼女の前で身を屈め、出来るだけ落ち着かせる声色で確認を取る。しかし帰ってきた声は小さく、そして掠れていた。こちらを見上げる彼女の目はとても子供のそれとは思えなかった。まるで光の一切を受け入れないかのように深い虚無と闇を湛えた、絶望した瞳だ。…急ぐか
「喋れなければYESなら首を縦に、NOなら横に振ってくれ。君、立って歩けるか?」
彼女は縦に一回首を振る。了承は得た。
「よし、今から外に向かう。俺から離れないようについて来てくれ」
左手を差し出す。恐る恐るといった様子ながらも彼女が俺の手を取るのを確認して立ち上がる。
そのまま牢を出て、上へと続く階段を慎重に登って行く。彼女が着いてこられるようにゆっくりと、時折後ろを振り向いて確認しながら登って行く。
やがて階段を抜け、先程の神殿のような空間に辿り着く。
「ファイアバレット!」
「ッ!…Stay」
突然、どこからか火の玉が高速で飛翔してくる。どうやら伏兵がいたらしい。
とっさの判断で迎撃し着弾を免れた。あっぶね〜、あんまり瞬発力は良くないからかなりギリギリだったな…。バレットというだけあって恐ろしく速い。
「君はここから動かないで、大丈夫。コイツが守ってくれる」
「あなたは…?」
ワオ…、喋れたのね君。声に明るさこそ感じられないが、声が出せるならこちらも助かる。
「大丈夫、あんな奴ら軽く片付けてすぐに戻るさ。ヴァンガード、守護対象を移動する。彼女を守れ」
見れば彼女の揺れる蒼い瞳に少し光が戻っている気がする。いい傾向だ。彼女にはヴァンガードを付けて護衛させ、俺は前線で伏兵共を始末することにした。




