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プロローグ

叢雲たなびく闇夜。月が仄暗く怪しい光を放ち、地上を照らし出す。今日は満月の夜だ。こんな夜には、あくびを噛み殺しつつ眺望に興じたい。


ガキィン!シュバッ


「…ふぁぁ」


ヒュン…チャキッ、シュシュッ


「ぬぁ…むにゃむにゃ」


あまりにも擬音とセリフの温度差がヤバすぎて死にそう?震えて眠れや。


と言うことで現在何をしとるかと言いますとね、突っ立ってます、ええ。

嘘は言ってねぇべ嘘は、だって戦わなくても俺の“作品”だけで近づけさせないくらいは出来るからね。


「クッソ、何だこの魔法は!近づけやしねぇ!」


「魔法じゃねぇ、詐欺さ」


「ああ!?クソガキが、意味わかんねぇ!」


だって魔法じゃないんだもんな。魔法に見えなくもないけども。


まあ、しばらくこうして突っ立ってはいるけども、どうやら俺の兵器は現状放置で敵を倒せるほどの戦闘能力は持たないらしい。依然、改良が必要だ


そろそろ帰って寝たくなってきたのでちゃちゃっと片付けよう。まあ、戦闘技術はほぼ持ち合わせていないんで過度な期待は止して欲しい。


まずは前方、遠隔攻撃ユニット「ヴァンガード」に阻まれて避けてばかりいる可哀想な双剣持ちの男を退けるか。


「やっと出てきやがったかガキ!」


走り出した俺を見てニヤリと笑みを浮かべる男。しかし子供とは考えられぬスピードで接近してきた俺に向けるその顔には、みるみるうちに緊張と恐怖とがが滲み出て来た。パワードスーツによって身体能力を増強しているため高速での移動が可能なのだ


キィンッ!


男が振りかざした双剣の片方を腕で受け止め、腕を捻って拘束術の要領で短剣を奪い取り蹴って遠くに飛ばす。


勢いのままもう片方の短剣もサマーソルトキック!


「テメェ!何で腕が斬れてねぇんだ、俺の獲物をその腕で受け止めた筈だろ!?」


「言ったろ、詐欺だ。そしてお前の目の前にいるガキは詐欺師だぞ。さて男、精々気張れよ」


拳にグーを握って思いっきり腹にぶち込む。出力を調整して体全体に衝撃を伝わせ、脳震盪で男の意識を刈った。


バシュッ!バシュシュッ!


「俺が後ろを見ていないとでも思ったか」


3つの火の玉が高速でこちらに飛翔する。懐から黒いエネルギー射撃型ハンドガンを取り出す


「Stay(迎撃準備)」


PSTS。Potential-Setoff-Interception-Systemの略、威力相殺迎撃システム。自身へ向かう弾状飛翔体を迎撃する際、トリガーを引くとセンサーが迎撃対象の威力を瞬時に計測し、同じ威力のエネルギー弾を発砲し相殺する。コールサインは「Stay」。


システムコールが認証されたのを確認しつつそれぞれ3つの火の玉に照準を合わせ、引き金を引いた。


ピュイッピュイッピュイッ!


「な…んだと…?」


銃に青色の淡い光線が走ったと思えば銃口が青白く輝き、間も無く銃口から青白いエネルギー弾が飛び出し高速で宙を駆けてゆく。瞬く間に火の玉まで到達したかと思えば正面から衝突し、一瞬で火の玉が消えた。


「く…まだだ!」


「諦めが悪いヤツは嫌われるぞ?」


「黙れ小僧!」


男はぶつぶつと詠唱を唱えて術式を組成する。よく聞くと発音を濁してやや早口で唱えているあたり、実は結構腕の立つ魔法使いなのだろうが…


そうこうしている間に太陽のように紅炎たなびく大きな火の玉が現れたかと思えば突然小さく、青くなり、見るからにヤバそうな光を放ち出した。なんだこれチェレンコフ光か?衝撃が凄まじく鼓膜がジジッっとノイズ音を発している。


「トリニティフラーマ!」


「おぉい!?」


次の瞬間、一際強く光を発し直径1mほどのサイズになってグングンと加速しつつ近づいてくる。思ったより腕が立つ魔法使いのようだ。


「貫いてしまっても文句は無いよな」


銃口を光球と化した青白い火の玉の方に向け、今度はエネルギー球を銃口に生み出す。すると周囲を漂っていたヴァンガードの銃口がエネルギー球の方に向き、四方からエネルギー球にエナジーレーザーを撃ち始めた。


みるみるうちにエネルギー球が発する光を増し、空気を劈くような重い音が周囲に響く。


「ッッ!」


ピリリリ…バリッ…ガァァァオォォォ


大方片手銃タイプのエネルギー銃で打ち出されてはいけない音を発しながらエネルギー球が形を崩して渦を巻きつつ細長く収束し、高出力のレーザーとなって射出される。内閣総辞職ビームッ!!!


今正にこちらに接近している光球と比べると圧倒的に細いのだが、光球にレーザーが触れた瞬間、光球は一瞬高速で数倍の大きさに膨れ上がったもののレーザーの出力に押し負け霧散するように消えた。2階級特進おめでとう。


(…グッ…クッッッ!)


思ったよりこちらへの反動も凄まじく、油断すれば風圧で押し飛ばされそうだ。周囲に生える木々もハリケーンにでも煽られたかのごとくその身を振り乱している。姿勢を少し低く保ち、腕で顔を隠すようにして耐える。


レーザーが少しずつその輝きを弱め、最後に残った一筋の光が名残惜しそうに一瞬チカっと光って消える。火の玉を打った魔術師の姿は消えており、やはりレーザーの威力と伴う爆風により消し飛ばされたのだろう。


当たれば大爆発を起こしてたちまち周囲の木々諸共巻き込んで跡形もなく消え死ぬ威力の魔法を放って来たのだから当然の報いだろう。撃っていいのは、撃たれる覚悟のある奴だけだ。


「ふぁぁ…さっさと帰るか…」


一度出た眠気は、そう簡単には収まらない。パワードスーツに物を言わせて爆速で屋敷まで飛んで帰った。







「んんっ…クァァ!…」


窓際に置かれたベッドの上で陽光を浴び、UMAみたいな独特な声を発しつつあくびを噛み殺す7歳ほどの男児の姿がそこにはあった。ていうか、俺だった…


エリック・マーヴ、7歳。マーヴ男爵家に生まれた末の子息である。ひかえおろー


起きてしまってはベッドの上に留まる理由もないので洗顔やら着替えやら、朝の支度を済ませてしまう。そしてマグカップにコーヒーを淹れ…コーヒー?


「う…苦い…苦すぎる…」


マグのふちに口をつけてグビっと一口の後、まだこの体はコーヒーを飲めないことを思い出す。しまった、つい前世の癖のままにコーヒーを淹れてしまった。苦いのなんの…、加えてコーヒーに含まれるカフェインには覚醒作用や睡眠妨害、ミネラル吸収阻害の可能性があるため小児が飲むのは良くないとされている。やっちまったなぁ…


仕方ねぇ、ミルク投入で誤魔化すか…。などと一人舞台を繰り広げていると扉が開く。


「…坊っちゃま、朝がお早いのは構いませんが、せめてお着替えや朝のお支度はお待ちいただけないでしょうか?」


呆れ顔でそんなことを口にするこの使用人はカント。使える貴族令息の勝手な都合によりちょくちょく仕事を奪われる可哀想な人です。


「陽も昇らないうちから仕事してんのはどこのどいつですかね…、多少仕事が減るくらい『ヤッター!サボれるー!』くらいのテンションで受け止めたらどうなんだ?」


「主人の身支度が免除されて喜ぶ使用人がどこにいるとお思いで…?」


呆れたようなへの字でハイライトが消えたジト目で憐みの目を向けてくる。


「お前みたいにバリバリ失礼な目を向けてくる使用人も他にいないと思うぞ」


「誰のせいだと…?」


今の一言でジト目がかっ開き、ガンギマリ目になる。何コイツ怖ッ…


「あーあーどこまで頑固なんだお前頭硬すぎんだろ上司かよ!」


「ブーメランってご存知ですか?」


「うっせぇッ!」


「坊っちゃまがおとなしく私に任せてくださればこのような下らぬ問答をする必要もなかったのですよ」


はぁ…とため息をつくカントを見て、しかし誰かに自分の身の回りの世話をやってもらうと言うのに羞恥心を拭うことができず今日までこの話題を引っ張ってきた俺は若干の罪悪感に苛まれる。いや、ワイトは悪くないと思うんだが、わかるマンはどうかな…?


「よし、鼻⭐︎塩⭐︎塩!」


「ええ、望むところですよ」


鼻⭐︎塩⭐︎塩って普通に通じるんだな。と、またクッソしょうもねぇ知識を身につけてしまったエリックである。教養(笑)?ウルセェ俺が一番わかっとるんだわそんなもん。







結局、互いに一歩引くことができず議論はまさに平行線を行き続けた末朝食の時間が来てしまい、またしてもこの件は保留となるのだった。


朝食を摂り終え、俺は今自室の椅子に腰掛け机の前で新聞を眺めていた。転生した当初は社会情勢を知る方法が新聞しかないことに煩わしさを感じることはあったものの、割とこうして新聞を眺める時間も風情があるとのことで、気づけば俺のルーティンとして確立されていた。


「ふむ…。あら?エクセンプルムの令嬢、失踪してんだな」


「そのようですね。誕生日を迎えられてまだ間もなかったのに、お気の毒です…」


そう。つい1週間ほど前、エクセンプルム領にてエクセンプルム公爵令嬢のお誕生日会があったのだ。しかしその後間も無くご令嬢は失踪。これにてエクセンプルムは安泰かと思われた矢先の出来事であった。


「しかし、それがどうかなされたのですか?坊っちゃま」


「いや、この前の異端信仰者の目撃事件を覚えているか?」


「ええ、この領内にて騒がれた件ですね?」


「そうそう、そんでどうやら他の領でも多かれ少なかれ同時期に奴らの目撃情報があったそうなんだ。それで、もしやと思ったわけだが。お前はどう見る?」


こうしてカントと新聞の内容を共有し、見出しを眺めつつ意見を交わすのも今や日常の風景となっている。口調と、俺が昨夜暴れていたのも相まって、なんか意味深なやりとりに聞こえるかもしれないが、なんてことはない、ちょっと都市伝説を嗜む程度のノリだ。無論、彼女のことを気の毒に思う心に断じて嘘偽りは無いが。


「そうですね…。この2件の発生時期が似通っているのは紛れもない事実です。しかし、如何せん情報が少な過ぎる故これといったことは言えませんね、異端信仰者の狙いがわからない限りは…」


「ふむ…じゃあ例えばそれが、そうだな…“厄災の召喚”だったとしたら…どうだ?」


「?・・・ふむ、坊っちゃま。後でお話を致しましょうか」


「アッハイ…」


カントの背後には黒いオーラが渦巻いて、目を細めて微笑む顔には闇が讃えられ、影が差していた。ヒィェェェッ!!!!!


まあそれはそれとして、厄災というのは、古来より語り継がれる強力な魔物、魔獣のことである。具体的にというと、“一体でも世界の存亡を揺るがしかねない強大な存在”とでも言えばいいだろうか。まあとにかく、ヤバいくらい強い魔物たちの総称である。


「はぁ…まあ『仮に』厄災の顕現が目的であったとするならば、例えば公爵家の令嬢であれば仮現世界の再現が可能なのでは無いでしょうか?」


「…あーなるほど?」


「つまりですね。仮想世界を作り出し、その上で厄災を呼び出せばより良好な状態で厄災が顕現しうる…、ということでは無いかと」


仮想世界。それは高等な魔術技能を修めたものが至る一つの局地である。自身の魔力によって単一、独立した小世界を作り出し、自身の戦闘能力を底上げする技術。明確な魔術ではなく魔力操作技術がもたらす一種の局地であるが、魔術という分野を極めるにあたって非常に重要な要素とされている。


つまりカントが言っているのは、この仮想世界を用いることで、より完全な状態での厄災の顕現が可能なのではないかということである。


「何よりエクセンプルムの家系は初代当主が氷の厄災『霧氷の巨人』を封印した功績の下に興った一族ですからね。・・・ッ!?」


「ん?どうした、カント」


突然カントは顔を歪める。まるで喉に何かつっかえているような、切羽詰まっているような、眉間に皺が寄り、顔に焦りが伺える。


「いえ、確かエクセンプルムのご令嬢の得意とする属性は…」


「氷だったよな・・・なるほど、そう言うことか」


顎に手を添えて思案に耽るカントを横目に一人合点する。カントが言いたいのは、もしやエクセンプルムの令嬢を用いて霧氷の巨人の封印を解こうとしているのでは無いか、と言うこと。やはりカントに聞いてよかったな、彼は教養に富んで頭の回転が早い。


「しかし過去にエクセンプルムの英雄が施した封印が、まさかその子孫によって破られ得る可能性があるとは、なんとも皮肉なものだな」


マーヴ男爵家の屋敷から子息エリック・マーヴの姿が消えたのは、その日、夜が更けた時の事だった。レッツパァリィィィィィ!!!!!

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