第5話
「う~・・・・・頭痛い・・・」
キョウイチは今ロゼッタに水を汲むものを借りて裏の井戸で顔を洗っている。
昨日キョウイチの歓迎会と言って2人とお酒を飲みながら騒ぎ初めて途中からの記憶があいまいなのだ。いつのまにかロゼッタも参加していて、リリとロゼッタ2人そろってキョウイチを飲まし始め、ちなみにそんなキョウイチとリリとロゼッタを肴にサラさんは静々と飲んでいた。男ならばこれぐらい飲めという理不尽なリリ達の言葉でキョウイチは飲まされ続けた。コップが空いてもちょっと目を離した間になみなみとお酒が注がれてていたのだ。
そして気がつけばロゼッタに起こされたのだ。どうやら寝てしまったようで机に伏せるように寝たからか全身が痛い。昨日キョウイチとともにロゼッタもたくさん飲んだはずだが、そんな事はまったく感じさせない元気さでキョウイチと、いつのまにか隣で同じようにテーブルに伏せるように寝ていたリリを起こした。リリは寝ぼけ眼で頭が痛いと呟き、自分の部屋へと二度寝をすると上がって行った。
そう言えばサラさんは見なかったな部屋に戻ったのかな?とキョウイチは考えた。
「あら・・・・・おはようキョウイチ君」
サラがキョウイチに声をかけてきた。どうやらサラも起きて顔を洗いに来たようだ。
「おはようございます。サラさん」
キョウイチは井戸から水を汲みサラの入れ物に水を移しながらそう言った
「あら気が利くわね。キョウイチ君調子はどう?二日酔いは大丈夫だった?」
サラが心配したような顔で聞いてくる。
・・・・心配してくれるぐらいなら止めてくれればよかったのにとキョウイチはちょっと思った。
「ごめんね。リリとロゼッタちゃんが揃ったら私でも止められなくて・・・・・今まで何人の男の子が潰されてきたか・・・・」
最後の方の言葉は聞こえなかった事にしよう。たぶんあの2人がそろえばどんなに酒の強い男だって生き残れないだろう。なんか苦労してそうだ。キョウイチは心の中でサラにねぎらいの言葉を送っておいた
「そうだ!キョウイチ君これをつけておいて。」
サラはどこから取り出したのか、黒いバンダナみたいなものをキョウイチに渡した。
「それを頭につけておいて、で種族を聞かれたら"魔人"と答えなさい。角があって、人間に憧れているから隠しているのだと言いなさいね。普通の人達は初対面で魔力感知なんて魔法失礼だから使わないと思うから、これで大丈夫だと思うわ。」
キョウイチはサラから黒いバンダナを受け取り頭に巻いた。顔を洗うために組んだ水に映ったキョウイチは黒ずくめだった。こんなのでごまかしきれるのかと思うが、・・・・・そこはやりようかなとキョウイチは思い。これからの生活を考えた。
「うんうん。似合うにあう。・・・・・・・あ!・・・・まぁ目は体質だって言っとけばいいわ」
なんか適当だな。サラさん几帳面そうなのにな。キョウイチはサラの意外な一面を見た気がした
「サラさん・・・・ありがとう」
それからサラとたわいもない会話をしながら過ごし、朝食を取ることになった。もちろん食事はサラが頼んでくれた。キョウイチは気になっていたのだが、自分はお金を持っていないから昨日と今日の食事代はどうなっているのか?と。途中リリがげんなりした様子で階段を下りて来て、キョウイチ達のテーブルの空いていた椅子についた。まるで屍が生き返ったようだ。リリが朝食を頼んだのをみてキョウイチは2人に聞いてみることにした
「とこ「リリおはよう。起きたら挨拶でしょ。」・・・・・」
と思ったのだがサラがリリを注意する声に遮られてしまった。
「は~い・・・おはよう、サラ、キョウ」
「おはよう・・・・・ところで話は変わるが昨日と今の俺のご飯代はどうなっているんだ?」
「キョウの代金はつけてるわ。リリの仲間だしね。」
リリの朝食を運んできたのかロゼッタがそう言った。
ツケって今のところ返す当てがキョウイチにはない
「心配ないわキョウイチ君。今日はこれからギルドに行って冒険者登録をしましょ。」
「サラ、あたし今日は寝てていい?なんか体調がすぐれなくって・・・・」
「それはあなたが昨日一番騒いでたからでしょ、自業自得よ。駄目よ。それに依頼の報告もしないといけないしね」
「う~・・・・・サラのイジワル~」
リリが朝食を食べながらそう言って。
「はいはい。リリこれサービスだから」
ロゼッタがリリの朝食のわきに変な液体が入った見るからにまずそうなコップを置く
「これは・・・・・苦いけど二日酔いに効く薬・・・・ロゼッタありがとう。てかロゼッタあたしと同じだけ昨日飲んでたよね?なんで・・・・?」
「だから気合いだって」
ロゼッタさんは笑顔でそう言って仕事に戻っていく。
そうか・・・・やっぱりロゼッタは昨日たくさん飲んでたんだ。キョウイチは夢かと思っていたのがリリの言葉で現実だったと思った。ロゼッタは酒が驚くほど強いんだなキョウイチはもう二度と酒を飲んでるリリとロゼッタには近づかない事を心に誓った。
「キョウ!!あんたが潰れるからロゼッタの狙いがあたしに変更されたんだからね!」
「知らん!あれだけ飲まされた俺の身にもなってみろ。」
「・・・・って元気そうじゃん。不公平だ~~~!!」
キョウイチも頭が少しだけ痛いのだが、あれだけ飲んで少しとはどうやらあまり次の日には引きづらない体質らしい。これはうれしい誤算だった。種族としての"人間"がそうなのかそれとも自分個人の体質なのかはハッキリしないが
「2人とも食べ終えた事だし。ロゼッタちゃんごちそうさま。さ、行くわよ」
食後の紅茶を飲んでいたサラが、朝食を食べ終えたのを見てキョウイチ達にそう声掛けて立ちあがった
ちなみにリリが、ロゼッタが出してくれた液体を飲んで涙目になっていたのはキョウイチの心だけにとどめておこう。
キョウイチは2人について歩きギルドに着いていった。
ギルドはこのアイクの町のちょうど中央の広場みたいなところにあった。町の中でも比較的大きな建物だ。サラの説明によると、このアイクの町は中央広場を中心に東西南北に大通りが伸びていて。大通りのわきには出店などが出ていて通る人たちで賑わっている。ちなみにキョウイチ達の宿屋は東の方にある。ギルドの中に入る。サラがギルドの扉に手をかけた。
・・・・なぜかちょっと緊張するな・・・キョウイチは初めて来るところで緊張していた。
ギルドの中は想像していたとおり騒がしかった。見まわしてみると色んな種族の人がいた。サラさんやリリのように頭に耳が生えている人。竜のような顔をした人。耳の異様に長い人・・・・などなど。そんな中2人は一直線に受付まで進んでいく。
「おはよう。シャナちゃん、地図ありがと。おかげで楽に行って帰ってこれたわ。早速だけどドラン様はいるかしら?」
「おはようございます。サラさんリリさん、はいマスターは今ちょうどいらっしゃいますよ・・・・・マスター!!」
シャナって子が受付の奥の方に呼びに行った。
すると奥からトカゲの顔をした人が出てきた。
「久しぶりじゃの~2人とも。今日は何の用事じゃの?」
「ドランの爺ちゃんひさしぶり~今日は新しい仲間の登録を頼みたいんだけどさ~・・・・」
「御主たちに新しい仲間とな・・・・・後ろにおる少年かの?」
「キョウイチ君・・・ドラン様はこの町のギルドマスターで竜人族なの。この町で1番の長寿なのよね。噂では"種族戦争"から生きているって話よ」
「"種族戦争"からですか!?それなら歳は・・・・・5000・・・歳!」
キョウイチは驚愕の声を上げた。
「ホホホ・・・・それはただの噂じゃよ。さすがに、竜人族は長生きな種族じゃけど"種族戦争"からは生きとらんわ。・・・・・・・・・ところで少年・・・・・おぬし不思議な雰囲気をまとっているな・・・・いったい何者じゃ?」
「・・・・・・・・・・・」
いきなりの鋭い指摘にキョウイチは沈黙しか返せなかった。キョウイチはこのギルドマスターのドランが信用できるとはまだ分からなかった。サラから昨日"人間"という種族の特異性を聞いていたので容易に返事ができなかった。
「・・・・・・言えないか・・・・・場所を移そうかの。こっちじゃ、リリとサラはここで待っておれ。」
「ドラン様・・・・・」
サラがドランを止めようと声をかけるが
「安心せい。悪いようにはせん。・・・・・それにわしにはこの町のギルドマスターとして、知る義務があるしの」
奥に入っていくドランを追ってキョウイチも後を追う。
「キョウ・・・・」
リリが心配そうな目でキョウイチを見た。大丈夫だとキョウイチもリリの目を見た。
「キョウイチ君・・・・ドラン様は信用できる。話しても問題ないと思うわ」
サラがキョウイチに近づき耳打ちした。キョウイチは肯いて今度こそ奥に歩いて行く
少しビビっているのは秘密だ。
奥の執務室のようなところに入った。ドランが机の椅子に座り、キョウイチにも座るように促す
キョウイチの前にドランが座っている。体全体が竜のうろこで覆われていて少し怖い。
「さて少年・・・・わしはアイクの町ギルドマスターのドランじゃ。みなからはドラン爺、やマスター、など好きに呼ばれておる。」
「はじめまして。ドランさん、俺はキョウイチって言います」
「キョウイチ・・・・・早速で悪いんじゃが。おぬし・・・・"人間"・・・・か?」
「・・・・・・・・はい」
この部屋にはドランとキョウイチしかいなかった。言い当てられてドキリとしたが、サラからドランは信用してよい人だと聞いていたのでキョウイチはバンダナを外した。
「やはりか・・・・・・・」
そう言ったきりドランは何か考え込むようにしている。
「"人間"について何か知っているのですか?知っているんだったら教えてください!俺・・・・・記憶がなくて」
「おぬし記憶が・・・・・そうか・・・・・・・・・・"人間"はわしらとはあらゆる能力の面で劣っていての、力もわしらに勝てねば、身の軽さも、耳の良さも、目の良さも全てが劣っていたのじゃ。じゃが"人間"には特殊な力があった・・・・・・"血の契約"と言っての・・・・・・詳しい事は知らんて・・・・」
「"血の契約"・・・・・・・・・詳しいのですね」
ズキ!・・・・・あの頭の痛みがキョウイチを襲ってきた。キョウイチは自分自身は"血の契約"について何かをしっているんだと思った。ドランはそんな苦悩しているキョウイチを不思議そうな目で見てきたが話を続けた
「"人間"には昔1回だけの・・・会った事があるのじゃ・・・」
「!!!そうなのですか!?その人は今どこに?」
「もう遠い昔の話じゃよ。たぶん今はもう生きてはおるまい。」
「そうなんですか・・・・・」
やっと仲間か、何か自分の手がかりが見つかるかもしれないと思ったのに。
その矢先に出鼻をくじかれてしまった。
「気をつけておく事じゃ、自分が"人間"だと誰かれ構わず言わない方がいい。もしバレれば、おぬしだけならずサラやリリも危険にさらされることになってしまうでの。」
「はい。分かっています。もう二度と大切な人達を危険な目にはあわせません」
キョウイチの口からなぜか自然に紡ぎだされた。こう答える事が当たり前のように、意識していないのに言葉が出てきた。一度でも大切な人を危険な目にあわせた事があったのか、それともそれに近い何かがあったのか、今のキョウイチには分からない事だらけだ。
「うむ・・・・・では戻るとするかの。キョウイチ、よいか!現実からは目をそむけてはいかん。わしはいつもここにおるから、なにか困った事があったらいつでも来るといい。」
「はい。ありがとうございます」
そう言うドランとキョウイチは2人で執務室を出て受付まで戻った。
ちなみに執務室を出るときに、キョウイチは来た時と同じように頭にバンダナを巻いた。
「キョウ!大丈夫だった?」
リリがキョウイチの姿を確認するとあわてて飛んできてそう言った。リリからそう言われると、隠している意味がないような気がするのはキョウイチだけなのだろうか?サラはどうやら昨日の依頼の報告をしている最中のようで、心配そうな視線だけをキョウイチに向けた。リリは報告しないでいいのだろうか?とキョウイチは思った。キョウイチはサラの視線に笑顔で肯いて返すと、サラもホッとしたような顔で報告に戻った。
「ああ。大丈夫だ」
「シャナ、キョウイチをギルドに登録してくれ。素性はわしが認める。」
「はい。分かりましたマスター。ではキョウイチさんこちらに座って右腕を出してください。ギルドの登録を行います。その後ギルドについて説明しますから。」
キョウイチが右腕を出すと中指に指輪みたいなものを取り付けた。
すると指輪が指に吸い込まれ消えた。変な感覚だったが痛くもない、消えた後では違和感などなにもなかった。キョウイチの驚愕する顔がおもしろかったのか隣でリリが笑っていた。すごくあっけなく終わったなとキョウイチは思った。
「ではギルドの説明に入らせていただきます。ギルドは仕事の依頼人とキョウイチさん達をつなぐ場だと思ってもらって結構です。受けれる仕事にはランクなどの制限はありませんが、ギルド側から許可をもらえなければ原則依頼などは受ける事はできません。ギルドの方にも依頼人との責任の問題がございますのでご理解ください~~~~~」
ふむふむ。やっぱりギルドにも責任があるのか。依頼した仕事をできませんでしたでは話にならないからな。依頼の種類は色々あって、先日2人がやっていたような、遺跡の調査。人に危害を加えるモンスターを駆除する。町の人の困っている事を解決する。他にも隣町までの護衛や指定された草や物を探すなど、緊急の依頼などもあって今この国は休戦状態だが戦争になれば傭兵なども募集される。
シャナの話をまとめるとこんな感じになる。
「はい、以上です。質問などはございますか?」
「一応ないです。シャナさん」
「シャナで結構ですキョウイチさん。あと敬語もいりません。」
「了解。俺の方もいらないけど・・・・」
「私は癖なのでこれでお願いします。」
シャナが笑顔で言った。シャナは笑顔が可愛い少女って印象だ。背中に小さな羽根が付いていなければ立派な人間に見えるのに。キョウイチは自分の隣に座っていたリリを見ると、さっきのシャナの話辺りから眠くなっていたのか寝むそうだった。
「どうやら終わったようね。私の方もちょうど終わったし。キョウイチ君今日はまだ行くところがあるのだから行きましょう。ほらリリも起きて。」
「う~~~~ん。相変わらずシャナのギルドの説明は眠くなるな~」
「リリもしかして、自分達の登録の時の話も寝てたのか・・・・・?」
「そ!そんなわけないじゃん、・・・・ち、ちゃんと起きてたよ。・・・・・・それに聞いてなくてもサラが聞いといてくれるし」
最後の方の言葉があまり聞き取れなかったが、リリはあまりウソが付けないのだとキョウイチは知った。
「ありがとう。シャナ」
サラがリリを連れてギルドから出ていく
本当に、あの2人を見ていると姉妹のようだ。
キョウイチはそれを追うように受付の席を立った。
ギルドの扉の外で2人がキョウイチを待っていてくれていた。
キョウイチはそれが少しだけ嬉しかった。
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