第4話
「人はなぜ・・・・滅んでしまったのですか?」
キョウイチの目が真っすぐサラに向けられた。
「それは・・・・・今から約5000年前"種族戦争"というものがあったのよ。私も、人から聞いた話だから詳しくは知らないのだけど・・・・・・」
サラは話始めた。今から5000年ぐらい前"人間"という種族は、この大地で栄華を極めていた。彼らには不思議な力があり、その力を使い、戌人族・猫人族・魔人族など数多くいる種族を従わせ、彼らを劣等種と呼びこの世に君臨していた。だがもちろんそんな時代は長くは続かなかった。人間族のあまりにも暴虐不尽な振る舞いに耐え切れなくなった種族達。各種族から6人の英雄が立ち、その英雄達が協力して数ある種族をまとめ上げ"人間"を倒したのだ。その戦争が終わった後人間はこの大地から姿を消した。
それからその英雄達は6の国を作り、あるものは国から去り姿を消して、あるものは王として君臨したのだという。
「ちなみに今私達がいる国が、6英雄の1人が作ったバルト王国のアイクという町ね」
サラから聞かされた話はキョウイチにはどうしても信じられない話だった。自分の父を探そうと思っていたキョウイチは人間が5000年前に消えたとは信じられなかった。
「生き残りは・・・・・生き残りはいないのですか!?」
だからキョウイチはこう聞くしかなかった。でないと絶望に打ちひしがれてしまいそうで。
「う~ん。この大陸中どこに行ってもたぶん人間になんて会えないわ。今では大昔の事が載ってる書物の中でしか会えないわよ。」
キョウイチは信じたくない気持でいっぱいだった。
「その話は本当な「本当なんだよ~、すごく有名な話なんだから」・・・」
リリが机から顔を上げキョウイチ君の話を遮ってそう言った
「・・・・・・・・・・・」
「他に聞きたい事は何かある?」
沈黙が支配する。テーブルでサラが声を発した。
「えっと・・・・・そうだ!森で会った大きな熊みたいなのはなんですか?」
「あれはモンスターって言って・・・・・」
ちょうど料理が運ばれてたから食べながら話す事にする。
モンスターとは凶暴な動物みたいなものという認識でいいだろう
サラはふと思った。モンスターの事さえ知らないキョウイチは本当に人間なのかもしれないと・・・・
だがサラは自分で自分の考えを否定した。人間なんてありえない、仮に人間だとしてどうやって5000年間も生きていたというのだろうか?この子は本当に何もかも忘れているのかもしれない・・・・・
サラはキョウイチには話していない事があった。人間にはある特別な力があったと聞く
"血の契約"
詳しくは知らないが伝承では不老不死の法と言われていて、だがら種族戦争の後に人間狩りというものが行われたのだ。キョウイチ君が人間かもしれないなんて他の人にバレたらキョイチ君確実に命を狙われるわね。
サラはなぜかこの少年の事がほっておけなかった。それに・・・・サラはリリの方を盗み見る。机に突っ伏しているが頭にある犬耳がピンと立ってこちらの会話を聞いている事が分かった。リリはあまり男の子には心を開かない、それは長年付き合って分かりすぎるぐらい分かった事だ。何が原因かは分からないが。でもキョウイチ君とは普通に接していた。サラはキョウイチに1つ提案をする事にした。
「キョウイチ君これからの事なんだけど・・・・・私達と一緒に冒険者なんてやる気はない?他に行くあてもないんでしょ。とりあえず衣・食・住は保障するわよ」
「・・・・・・・・・・・・少し考えさせてください・・・・・・」
キョウイチは長い沈黙の後そう言って宿屋を出て行った。
いきなりたくさんの事を聞かされて頭が混乱しているのだろうと思ったサラは何も言わずキョウイチを見送った。1人の時間も大切である。まだキョウイチが人間かどうかという確信はサラにはできていない。だがサラはキョウイチを信頼できる人物だと感じていた。
「サラ、キョウ大丈夫かな?」
リリが心配そうな顔をして机から身を起こした。
・・・・この子あんなに喧嘩しててもキョウイチ君の事が心配なのね
とサラはリリを見て思った。
「今はそっとしておいてあげましょ。」
サラはそう言ってちょうどロゼッタによって運ばれてきた料理を食べ始めた。リリはキョウイチがいない事をいい事にキョウイチの料理まで食べようとしていたが、サラに手をたたかれ自制した。
ここの食堂のご飯はおいしいと評判である。だが冷めたらどうなのか、サラは少し考えてしまった。
「でもリリ、どう思う?キョウイチ君本当に人間の生き残りなのかしら?」
サラは目の前に並べられている、料理の数々に果敢に挑んでいるリリに質問を投げかけた。それにしてもいつ見ても量が多い、リリがいつも頼むおススメとは大盛りの事ではないのかとサラは考えていた
「モグモグ・・・・う~ん、でも本当に驚いていたしショックも受けてたよ。嘘はないのような気がするんだけど、でも・・・・」
リリはなんだかんだと言ってキョウイチの事が心配で、机に突っ伏していたが、その耳で盗み聞きし、その目で気付かれないようにキョウイチを観察していたのだ。サラはもちろんリリには突っ込まない事にしている。
「そうなのよね。5000年前に滅亡した人間の生き残り・・・・」
「その末裔とか~?」
2人の考えが一緒になる。
「そう考えるのが一番妥当ね。そうだとしたら命を狙われるかもしれないわ。"血の契約"の事もあるし・・・・私達2人がキョウイチ君に会ったのも何かの縁なのかもしれないわね。」
「それになんかほっとけないしね~」
リリが頬にあふれんばかりの量をいれながらフムフムとうなずく。
「フフ・・・・」
「な・・・・なにかおかしい?///」
「べつに・・・・ただキョウイチ君遅いなって思って、暗いから迷ってたら大変でしょうね」
「・・・・・・まったく世話がやけるな~あたしが探してくるよ」
そう言ってリリが出て行った。
・・・・・・この子も素直じゃないんだから・・・・
「ベレッタさん、紅茶を」
サラは2人が戻ってくるまでゆっくり待つことにした
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ここはアイクの町の宿屋の裏手側にあった小川
キョウイチは川に移った月をボーっと眺めている
サラから教えられた真実
・・・・・もう人間はいない・・・・・
2人と初めて会った時もそんな話を聞いていたが、どこか現実には受け取らない自分がいたのをキョウイチは感じていた。だがこの町に来て、見る人全て耳だったり角が生えていたりうろこがあったり人間はいなかった。それに2人がウソをついている感じもなく、もしウソをついたとしても2人にメリットがない。
・・・・・・・孤独・・・・・1人・・・・・自分を知っている人は誰もいない
寂しさ、恐怖、不安、
いろんな感情が混ざりあって川に映った自分が泣いていたいる事にキョウイチは気がついた。
怖かった。何も分からない世界にいきなり放り込まれて、不安だった。誰も自分の事を知らない
だから・・・・・
・・・・私達と一緒に冒険者なんてやる気はない?
サラの言葉がすごくありがたかった。
「キョウこんなとこにいた・・・・・キョウ・・・・泣いてるの?」
キョウイチはあわてて顔を伏せた。リリはそれ以上何も言わず、聞かず。ただ黙ってキョウイチの隣に腰をおろした。どれくらい時間が経っただろう。すごく時間が立ったように感じた。
キョウイチが泣きやんで顔を上げれば、それを見越したようにリリが口を開いた
「あのさ・・・・キョウ。あたし色々あって家族いないんだ~。だから今はあたしにとってサラが唯一の家族なんだ~。サラもそうなんだ・・・・・・だからさ、キョウ。旨く言えないんだけど・・・・・一緒に冒険者しようよ~。もしかしたら何か手がかりになる事が見つかるかも知れないし。キョウ以外の"人間"に会えるかもしれないしね~」
リリの言葉が今のキョウイチにはすごくありがたかった。
「・・・・・・・・・リリありがとう・・・・」
キョウイチは自分は1人ではない。ちょっとだけそう感じた。
「・・・・・リリ戻ろう」
キョウイチは立ちあがってリリにそう言って歩き出した。
サラとリリに質問の答えを伝えるために。
運ばれていた料理(もう冷めていたが)を食べながらキョウイチ達は話しあっていた。
宿屋に戻ってサラに返事を返して、この2人には隠し事がないように
キョウイチには実は父がいた事、手紙の事などを話している。
「キョウがあたし達の新しい仲間になる事を祝って・・・・・ロゼッタ~!お酒頂戴~!」
「リリ!」
「いいじゃんサラ~かたい事は言わない~」
「はいはい。しょうがないわね。でもその手紙が今は唯一の手がかりね。・・・・・とりあえずその黒髪を隠さないとね。それと後ギルドに行って登録して・・・・・あと武器も買って・・・・あ!キョウイチ君武器は・・・・・使えないわよね。ってことは戦闘の訓練もしなくちゃね・・・・・まぁそれはリリにやらせてっと・・・・・あとは~~~」
「はい。おまたせ」
サラが1人でぶつぶつと物思いにふけっている時にロゼッタがお酒を持ってきた。
「待ってました!!サラ難しい事は明日明日。とりあえず・・・・・乾杯!乾杯!」
そうリリが言ってキョウイチはお酒を持って乾杯をし飲みだした。
・・・・・あれ?俺ってお酒飲めるんだっけ?
・・・・何か悩んでた事とかどうでも良くなってきたし体に異常ないからいっか・・・・
キョウイチは気づいていないお酒はどを超えると毒になるのだ。
こうして夜は更けていった
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