第16話
「すげ・・・・・」
「・・・・・・・」
キョウイチは本日何度目かになる言葉を発していた。その横でシェリーも唖然としていた。
ここ王都ギルダーツは周りを高い城壁で覆っている要塞都市である。城下町と城の間には堀が築かれていて、何十の構えにもなっている。城も実用的に作られていた。バルト王の方針は実用性重視な事で有名だった。今キョウイチは王都の正面の門の前に立ち尽くしていた。キョウイチとシェリーが門の大きさに度肝を抜かれて立ち止まっていたのだ。
「シェリーもキョウも置いて言っちゃうよ~」
リリの声が聞こえる。キョウイチとシェリーが唖然と見ている間に、どうやら審査が終わったようだ。
今は戦争中との事で町に入るには兵士の審査を通過しなければならないのだ。身元の怪しい奴は入れないようになっていた。ちなみにキョウイチ達は、ドラン様のおかげですんなりと審査を通過する事が出来たのだが・・・・
「馬車はわしが返してこよう、それにギルドにもよらなければならんしの。義勇兵に参加するなら、城に行けばいいのじゃ。先に志願を伝えていた方がよいぞ。わしはギルドにおるので何かあったら来るのじゃな。」
ドラン様がそう言って馬車を率いて行った。
「さてみんなどうしましょうか?」
サラがそう言ってからキョウイチ達は相談し、宿屋は後で探すことにして王都の見物をしながら城を目指す事にした。
「シェリーあれいいね~」
「はい!かわいいですね」
リリとシェリーは大はしゃぎで道を行っていた。その後ろをキョウイチとサラが歩いて行く。
「サラさんは一度ここには来た事があるんですか?」
「ええ。にぎやかなところよね。キョウイチ君はリリ達みないに色々見なくていいの?」
「はい。後でゆっくりみますから・・・・」
「そう。・・・・・・・・キョウイチ君本当にいいの?今ならまだやめれるわ・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「誰もキョウイチ君の判断を笑わないし。私達はできれば参加してほしくないと思っているけど・・・・」
「・・・・・・・・・・すいません、サラさん」
「・・・・・・・そう。分かったわ。」
サラはこのメンバーの中では一番の年長者である。
この時サラは自分の大切な物の為に命をかける事を覚悟した。
「サラ、キョウも後ろの方で見てないで!これ見てよ!かわいいよね?」
2人にリリの声が届く。2人は顔を見合わせ話を切り上げ、今を楽しむ事にした。
王都ギルダーツには正門から城まで続く大通りが存在し、正門から城までを一直線結んでいる。その間には堀があり、羽根橋がかかっていた。キョウイチ達は今城の前まで来ていた。
「お前ら傭兵か?」
門番が話しかけて来た。
「はい。傭兵募集の話を聞いて来ました。」
キョウイチがそう答える。
「そうか。案内する、こちらだ」
門番はもう一人に門を頼み、城の中に入っていった。門番に案内されてすぐに大きな庭みたいなところに連れてこられた、キョウイチ達一行だった。そこにはたくさんの冒険者や傭兵を生業としているものや、色々な人種がいた。
「ここだ。もう少しで始まるから待っててくれ。」
門番の人はキョウイチ達にそう言って早々と去って行った。
キョウイチは周りを見て首を忙しく動かしていた。どいつもこいつもキョウイチの目には強く見えた。
「はいはい。田舎者だと思われるから、キョロキョロしないの!」
リリがキョウイチをたしなめる。そんなキョウイチとは裏腹にリリやサラは堂々としていた。
何人かの冒険者と思わしきものが、チラチラとこちらを盗み見ていた。キョウイチは忘れているがリリとサラは冒険者の中では結構な有名人達だった。サラの使う珍しい武器の事もあり、そして2人の実力は折り紙つきだった。
広間より一段高い所に人影が見えた。
「みな!よく集まってくれた!」
その声は広場に良く通り、全ての人が壇上を見上げた。
「私はカイサル!!この国の将軍についているものだ!!ここに集まっているものたちは我が国の為に命をかけて戦ってくれるものたちだと信じている。ありがとう!!ルシード帝国との戦、勝った暁には富も名声も全て約束しよう。早急だが編成を決めたいと思う、前にあるテントにチームのリーダーや1人で参加しているものなどは来てくれ。終わったら城の外に宿舎を用意してある。みな今日はそこを自由に使ってもらって構わない。」
遠くて良く見えなかったキョウイチの隣でリリがつぶやいていた
「将軍って若いんだね・・・・・・」
周りの者たちはぞろぞろといくつかあるテントに向かって列を作りだした。
「あたし達も早く行かなきゃ。」
リリの言葉に賛同して、キョウイチ達もいそいそと列に並ぼうとした。
「あんた達が"あの"リリとサラかい?」
1人の男がキョウイチ達の集団に話しかけてきた。
「あんたは・・・・・?」
キョウイチが視線を向けると、男がいた。男は身長はキョウイチより少し高く、鍛え抜かれた肉体をしているのが分かる。何よりも目立つのが、背中に背負われた大きな大剣だった。
「あんたに用はね~よ。用があるのはそこのお二人さんにだ」
「リリ、サラさん知り合いですか?」
キョウイチが2人に聞いた。
「いいえ。全く知らないわ。」
サラが首を否定の横に動かす。
「俺は質問してるんだが・・・・・もう一度言う、あんた達があのリリとサラなのか?」
「ええそうよ」
「そうか・・・・・・・・・あんた達強いんだろう?・・・・・・喧嘩しようぜ?」
男はサラの返答を受け取るとそう言ってニヒルに笑い背中の大剣をつかんで引き抜こうとした。キョウイチは男からすさまじい圧迫感を感じた。キョウイチの中の警報がけたたましく音を立ててなる。こいつは強い・・・・・・・・キョウイチは思った。
「レイ!!あなたすぐ目を離すとこれなんだから・・・・・・・また他の冒険者の方に迷惑かけて!」
レイと呼ばれた男を目掛けて女の子が走ってきて頭を小突いた。とたんに周りを支配していた圧迫感が嘘のように静まった
「いて~なフローラ!俺が誰と喧嘩しようと俺の勝手だろ!?」
「いいえ。私は許さないわ。あなたのお目付け役をおばさまから頼まれているのよ。」
「おいおい。またその話かよ。もう聞きあきたって。・・・・・・・ちっ!・・・・・興がそがれた。」
そう言ってレイは歩いて去って行った。フローラと呼ばれた女の子はキョウイチ達に頭をぺこりと下げて早足でレイの後を追っていってしまった。
「なんだったの?今の?」
サラが唖然とそう言った。
「なんだったんでしょう?でも・・・・・・強いですね・・・・」
「ええとても強いわね・・・・・」
「ま、キョウよりは強いよね~」
上から順にシェリー、サラ、リリの順だ。
キョウイチはリリに言い返したい言葉をぐっと飲み込み、今後に一抹の不安を覚えるのだった。
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「レイ~待ってよ~」
フローラは先に行ってしまったレイを追いかけている。
「ちっ!・・・・・・・・フローラお前はいつも俺の脚をひっぱって!あの時も~~」
フローラがレイに追いつき隣に並んだ時、レイはフローラに小言を言おうとしたが
「はいはい。ごめんごめんって。いつもあたしが足引っ張ってるのは分かってるよ。でもあたしが危なくなったらレイが助けてくれるよね?」
フローラは満面の笑みでレイを見る。
「・・・・・・・・・・・・・・・・ちっ!・・・・・・ほら行くぞ。」
「ふふふ、って受付しないの?」
「ああ。どうやらこの戦争ルシード帝国にいった方が楽しめそうだ。」
レイがニヒルに笑った。
「もう!ほんとにレイは戦闘狂なんだから。ま、あたしはどこまでもついて行くけど・・・・」
「・・・・ちっ!・・・・・置いていくぞ・・・・・・・」
「あ!待ってよ~」
広場から2人の影は遠ざかっていった。
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場面はキョウイチ達に戻って、キョウイチ達は受付を行うためにテントの列に並んでいた。
「あの変な奴の所為で、こんな後ろの方になっちゃったじゃん!」
リリはぶつける事が出来ない怒りの矛先を、なんとかキョウイチにぶつけようとしていた。
「それもこれも全部キョウの所為!!」
「・・・・ごめん」
「え!?いいけど?」
キョウイチの軽い返答に一瞬驚き、許してしまった。
リリは驚いていた。いつものキョウイチなら絶対に言い返してくる自信があったのだ、あったのだが・・・・
キョウイチは、さっきのレイと言われた男について考えていた。
彼は強かった。たぶん自分よりも・・・・・。
なにより、剣を握った時にぶつけられた明確な殺気。自分がモンスター以外に殺気をぶつけられるかと言えば否だろう。彼には彼の覚悟があるのだろう。キョウイチは自分が今モンスター以外を殺せるかと聞かれると答えは否だろう。
覚悟が違った、キョウイチと彼とでは。
キョウイチはどうすればいいのか分からなかった。
「次、どうぞ」
どうやらキョウイチが1人で思い悩んでいる間に、順番は前へと進んでいたらしい。
キョウイチ達がテントの中に入ると、そこには
「久しぶりだな。サラ」
「ええ。久しぶりね。カイサル」
カイサル将軍その人が椅子に座っていた。
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