第8話
俺たちは、ベレッタさんから依頼を受けた後アイクから少し歩いたところにある森に来ていた。
リリがベレッタさんに聞いてた場所によると、この森を抜けた先の泉の周りに生えているらしい、
で、今俺たちが何をしてるかというと・・・・・森の中を爆走中だ。
俺たちが森の中をなぜ爆走してるかと言うと・・・・・・・・別に走りたかったわけでもない。あれは俺たちが森に入って少し歩いた時だ。
-----------------
俺たちの目の前に、狼のような動物が出てきた。リリが言うにはウルフというモンスターらしい。
俺はあらかじめ刀にしておいたシキを構えた。リリは自分の武器を抜かず、俺から距離を取る。どうやら俺に任せるらしい。
「さ~て、キョウ・・・・・・お手並みはいけ~ん」
『主殿、焦るでないぞ。落ち着いてやれば、こんなザコ負けわせん』
リリが後ろから声をかけてくる。
俺は前にいるウルフを観察してみる。
ウルフはガルルルとうなり声を上げていた。どうやら相手も様子をうかがっているようだ。
お互いににらみ合いが続いた。最初に動いたのは俺の方、先手必勝だ。刀を下段に構えて距離を詰める。ウルフが飛びかかってきた。俺は刀を構えたまま、左によける。俺は避けざまに切りつける。
シキに宿っている先人たちの記憶が俺を勝手に動かす。
当たった!!!・・・・・・・だが俺は初めて生き物を切った感覚を感じて不覚にも一瞬動揺してしまった。
その瞬間をウルフが逃すわけもなく。手負いの獣は恐ろしいとは良く言ったもので、また俺に飛びかかってきた。
『主殿!!』
くらう!!
俺がそう思った時ウルフの頭に横からナイフが突き刺さった。
「まったく!・・・・・キョウ、あたしが助けなかったら危なかったよ」
どうやらサラがナイフを投擲してくれたらしい。
ウルフは俺の目の前で血を流して絶命している。
「わるい・・・・・・・」
「まったくあんたは・・・・・・・ってことはあたしは命の恩人だよね。今からキョウはあたしの下僕ね。」
「わるい・・・・・・」
「え!?・・・・・・会話成立してないし!!・・・・キョウ?大丈夫?顔青いよ!?」
俺は生き物を初めて切った感覚にまだ動揺していた。リリの冗談にいつもなら反論するのだが、今はそんな元気がない。目の前のウルフの死体を見ていたら、少し気分が悪くなった。
『主殿、大丈夫か?』
シキが心配して俺に声をかけてきてくれる。
「シキ、どうしたのこいつ?」
『どうやら、主殿は動揺しておるようじゃ。たぶん生き物を殺したのは初めてじゃったのじゃろう』
「ふ~ん・・・・そっか・・・・・・・・・・・・でもキョウがやらないとあたし達がやられてたよ。それにあたし達は生きていく上で何かしら命は奪ってるし・・・・・・。その気持ちは良いと思うけど、この世界で生きていくには慣れないと・・・・・・・きついよ・・・・」
『主殿・・・・・』
リリの心配そうな視線、シキの心配そうな声を感じた。
確かにリリの言う通りなのであると思うがこればっかりは少し時間が必要だ。少し息を落ち着けてだいぶ落ち着いてきた、俺はもう大丈夫だとリリとシキに伝える
「たしか・・・・・ウルフは倒した証に牙を持っていけば換金してくれるはずだよ。」
リリはそう言って、ウルフに近づいて行って牙を腰に刺していた短剣で切り取った。
あと血がついたナイフも回収していた。
「早くここから動こう。血の匂いはさらなるモンスターを呼びよ「グオーーーーー!!!」・・・・・マジ?」
雄たけびはちょっと遠くから聞こえた。
リリが蒼白な顔をした瞬間、俺を置いていきなり走り出した。
「おい!ちょっ!!」
いきなりの事に驚いたが俺もリリの後を追いかけ走る。
「なんであいつがいるのよ~!!・・・・・・ちょっとどうしてくれるの!?キョウのせいで呼び寄せちゃったじゃん。昨日もそうだけど・・・・・キョウって絶対好かれてるよ~!」
俺も聞いた事がある雄たけびだと思い後ろをチラッと見れば・・・・・なんときのう会ったグリズリーだ。
また四足歩行で追っけかけてきている。あんなのに好かれても嬉しくないのだが・・・・・・
「キョウあんた迎え撃ちなよ~シキ試したいって言ってたじゃん。」
「バカ!無理に決まってんだろ。3頭一緒に追いかけて来てるんだぞ!」
さっき見た時数を確認していた。
「もう!ほんとに役に立たないな~キョウは!あたしだったら3頭なんて、チョチョイのチョイっとやっつけてみせるのに!」
「ならやってみせろよ!!!」
「・・・・・・・・・・・・今日は調子が悪いの!それにか弱い女の子に戦わせるって男として恥ずかしくないの?」
「全然!まったく!!か弱いって?・・・・・か弱い女の子はナイフなんか投げないから」
「ああ!!!ほんとに男のくせにゴチャゴチャうるさいな~!このままじゃ2人ともやられちゃうから・・・・・・・キョウ足止めしといて~あたしがその間にアクア草取ってくるよ」
「・・・・・・お前そんな事言って俺を見捨てる気だろ?」
「・・・・・・・・・そ!そんなことないよ!」
リリがそっぽを向く。冗談とは言えない態度がそこにはあった
なんだかんだ言って俺たちはそんな緊張感のかけらもない会話をしながら森を走り抜けて行った
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
・・・・・・・・回想終了
おっといけないのんきに回想なんてしてる場合ではなかった、グリズリーが追いかけて来てるんだった・・・・
あれ・・・・!?チラッと後ろを見てみると、なんと!追いかけていた数が二頭減って一頭だけになっていた。
・・・・・・・・・・・なんという神の幸運・・・・・嫌でも運がよかったら会わないか・・・・・
リリは奴らが減ったのに気づいていない・・・・・・俺は男なら一度言ってみたかった台詞を言ってみる事にした。
「リリ先に行け・・・・・ここは俺が食い止める・・・・」
「ほんとに?ありがと~じゃ・・・・・・・・・ってどう考えても1人が3頭の相手なんて無理でしょ。」
リリが綺麗なノリツッコミで俺を止めてくる。あれだけ足止めしておけと言っていたのに、なぜかリリに心配される。俺が立ち止まると、先に走っていたリリも立ち止まった。
「あんた何考えてるの!?速く走らないと追いつかれて・・・・」
「まぁまぁ。あいつらを見てみろよ。今なら俺でも撃退できる」
リリが後ろを向いた。どうやら気付いたようだ。
「・・・・・・・・他の二頭は?・・・・・・・まぁいいか。でもキョウ1人じゃグリズリーはまだ無理じゃないかな?」
「大丈夫だっての!!」
リリの静止の声も聞かず、そう言って俺は向かってくるグリズリーに駆け出した。もちろんシキを構えて。
グリズリーも待ってましたとばかりに飛びかかってくる。俺はその初撃を避けるはずだったが・・・・・・・どうやら走ってきた足の披露を考えていなかったようだ。俺はよけきれずグリズリーの爪が肩に掠った。それほど深くない、だがひどく痛い・・・・
「いたい!・・・・」
「うわ!だから言ったのに・・・・・・・かっこわる」
リリが緊張感のかけらもない声で、バカにしたようにつぶやいた。俺は少しムカついてリリに反論しようとしたが、予想外の痛みに傷口を抑える。リリはグリズリーに向かってナイフを投げた。ナイフがグリズリーに刺さり効いてはいないようだが注意は引けたようだ。
「あたしがやるよ。キョウはまだ素人なんだから無理しないでいいよ」
リリが"素人"というところをやけに強調して言って、自分の短剣を抜いて構えた。
グリズリーはさっきの一撃でもう完全に俺より、リリの方を脅威と感じたようだ。
リリの方に標的を変えて向かっていく。
『主殿大丈夫か?』
今日何度目かは忘れたが、シキの心配に肯定の意を返す。
『・・・・・主殿よく見ておくんじゃ、たぶんリリは相当できるぞ。』
あのいつも俺をバカにしたように笑っているリリが強いとはどうしても想像があまりできない。
そう思ってリリ方を見ると、グリズリーがちょうど襲いかかる時だった。
グリズリーが俺の時のように、その太い腕を振り上げてリリに放つ。
リリはそれを余裕をもって避ける。しかも避けざまにナイフを投げるというオマケつきだ。
「グオーーーーーーーー!!」
ナイフがちょうど片目に刺さったのがよほど効いたのかグリズリーは雄たけびを上げた。
その一瞬の隙を逃さず。リリは切りかかった。
素人の俺だが、シキを持った事によってあの一太刀を繰り出すためにリリがどれだけの修練をつんできたのかが分かった。・・・・・少しリリへの見解を改めなければいけないと思った。同時にリリよりも弱い自分に腹が立った。
グリズリーは胴体を切られた。しばらく観察する、リリはヒットアンドアウェイで手数を増やす戦い方のようだ。着実にグリズリーの命を削っていく、俺の目から見ても分かるぐらいリリが押していた。
一瞬の隙をついてグリズリーはどうやら逃げていったようだ。動物なので強いものからは逃げるという本能が働いたのだろう。
「どう?あたしの戦いは?」
リリが剣を腰にしまい、自慢したように腰に手を置いて俺の方に言う。
俺はシキにやり方を聞きながら傷口に応急処置を施していてた。
「・・・・・・・・・・か弱い女の子ではないな・・・・」
俺は見惚れていた自分をごまかすために、ボソッと言うと・・・・
ストン!
という効果音の元、ナイフが俺の足元に突き刺さった。
「キョウ、グリズリーのようになりたいの?」
リリがナイフを構えて不敵に笑う。その顔が冗談に見えなくて走りだす。
俺は今度はグリズリーからではなく、リリから逃げるために走る事にした。
リリがナイフを本気で投げたら逃げる意味なんてないのに、
・・・・・・・なんか今日走ってばっかだよな・・・と思いながら。
「あ!こら!逃げるな!・・・・・・・てかあんた場所知らないでしょ!」
後ろからリリの声が聞こえたが俺はあえて無視をする事にした。
静かな森がこの時だけは騒がしかった。
なんとか泉にたどり着けた。・・・・・・・・・・・あの後何があったかは思い出したくない・・・・・
なぜか今の俺にはグリズリーが付けた掠り傷と、いくつか・・・・特に顔などに殴られた、傷があるが気にしたら負けだ。ちなみにあの後、何回かモンスターには遭遇したが、問題なく倒した。グリズリーみたいな凶悪なモンスターには最初以外あっていない。
グリズリー並みに危険なモンスターが俺の隣にいるおかげか・・・・・・
「なに!?なんか文句ある!?」
「いや、なんでもないです」
どうやらリリの方を盗み見ていたのがばれたようだ。リリはさっきから機嫌が悪い。
リリから聞いた話によるとグリズリーはとても凶暴だが森の奥に住んでいるので、ここら辺ではめったに会う事はないとのこと、
「アクア草みっけ!!」
俺が色々と考えている間にリリが泉のすぐそばで発見したようだ。
俺は周りを見渡してみる、それほど大きくない泉だ。泉を挟んだ向こう側ちょうど泉と町の反対側が森になっている。さきほどからこの泉からは神聖な何かを感じる。リリに聞いてみる事にした、
「リリこの場所って?何か感じるんだが?」
「・・・・・・・・・・・・・あんたなんかに、なんであたしが教えないといけないの?それに人にものを頼む時はそれなりの態度って、あたしあると思うんだけど~」
どうやらさっきの事をまだ根に持っているらしい
今回は俺が悪いので下手に出る事にした。
「リリさんお願いします。どうかこの何も知らない無知な俺に教えてくれないでしょうか?」
「・・・・・・・しょうがないな~バカで無知なキョウ君にあたしが直々に教えてあげるよ。この場所は昔からモンスターがあまり近づかない神聖な場所なんだよ、でそっちの森があるでしょ?あの森は"幻惑の森"って行って入っても気付いたらここに戻ってくるらしいよ。高度な魔法が掛かっている言う人もいるし・・・・って、サラもそんな事言ってたな~」
リリが泉の俺たちが立っている、ちょうど反対側の森を指差して言った。
すごく偉そうなリリが気に入らないが・・・・・・・俺はぐっと我慢する
ズキ!・・・・・・なんだあの頭の痛みがまた襲いかかってきた。
・・・・・・・・・・まてよ?この頭痛は、あの森が俺の記憶に関連しているっている証のではないのか?
「キョウ大丈夫?」
リリが俺の元まで、アクア草を取って戻ってきて尋ねる。
「大丈夫だ。それより、あの森に行きたいのだが・・・・・・・・」
「え!?何言ってんの?あたしの話し聞いてなかった?あの森はどこまで行っても結局はここに戻ってきちゃうのよ。・・・・・・・・あ!お宝とか狙ってちゃったりするわけ?なら諦めた方がいいよ」
「お前とは違うからお宝とか興味ない。何かあの森から感るんだ」
「何それ?精霊魔法にでも目覚めたっていうの?てか頭大丈夫?さすがにさっきやりすぎちゃった?」
「俺はいつだって正常だ!!さっきやりすぎたってのは否定しないけど、とりあえず俺は森に入る!」
俺はリリ反対を押し切って森に入ろうと歩き出した。
「ちょっとキョウ!もう!・・・・・・サラに頼まれちゃったしな~・・・・・・キョウ帰ったら夕ご飯おごりだから・・・・・・・・あんたの」
「俺今金持ってないんだが・・・・・」
「今日これからもらえるでしょ!」
どうやら俺の今日の稼ぎの使い道は決まってしまったらしい。
ブツブツと文句を言いながらも俺に着いてきてくれるリリに感謝しながら、俺は森に足を踏み入れた。
森の中は予想以上に暗くて静かだった、モンスターはもちろんの事、動物や鳥など全然気配を感じない。俺の目の前けもの道みたいなのが、奥に続いているようだ。
「不気味だね~」
リリも俺と同じような事を考えているようだ。
「ね!やっぱり帰ろうよ・・・・・・・そういえば噂で、オバケが出るっていうのを聞いた事あるしさ~」
リリが俺の服の袖をひっぱりながら、そんな事を言ってくる。
俺はいい事を思いついた。
「!今リリの後ろに何か動いた・・・・・・・」
俺がリリの後ろを抜群の演技力で指をさす。
「え!うそ!!」
リリが驚いたように後ろを振り返る。
「うん。うそ」
「死ね!」
リリの強烈な一撃をもちろんシキを握っていない俺が防げるはずもなく。
俺の頬にクリーンヒットして倒れた。
「つ!・・・・・・ちっとは手加減しろ。」
俺はリリに涙目になって文句を言う。
「あんたが悪いんじゃん!」
「へいへい。すいませんでした。・・・・・・緊張をほぐそうかと思ったんだけど、」
「そんな気遣いいらない!」
「はいはい。じゃ~さくっと行こうか」
俺は緊張感のかけらもない声でそう言った。
「緊張感ないな~なんか・・・・・・・1人で怖がってたあたしがバカみたいだし」
「いや・・・・・・もともとバカだろ?」
「あんたやっぱり一度死にたいようね・・・・」
リリが短剣を抜こうとした、そんな会話をしていたら、森がひらけた場所に出た。
「おい!リリ!」
俺は短剣を振り上げて切りかかってきそうな、リリの手をつかんで止めて、注意を促すようにそう言った。
「なによ?・・・・・・・やっぱりここに出てきたでしょ。だから言ったのに・・・・・・何が何かを感じる~よ、キョウ君残念でした~」
リリがおちゃらけたように俺の方に言ってきた。
俺たちの目の前に広がっているのはさっきと同じ、泉の光景だった。
「もう気が済んだ?依頼もあるし、キョウそろそろ帰るよ~」
リが町の方に歩いて行く。
俺はリリの後を着いて行きながら、森の方を振り返った。
そこにはあいかわらず不思議な感じが広がっていた。
「・・・・・・気のせいか?あの頭痛はいったい?」
俺は1人でボソッと言った。俺の目の前を歩くリリは今日はキョウのおごりだ!食べるぞ~なんて言っていて、もうすでに今日の夕飯の方に気がいってしまった俺は森の事なんかどうでも良くなっていた。
ガさガさ
・・・・・・・静かなはずの"幻惑の森"で音がしたが、キョウ達の耳には届いていなかった。