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「白い筋の街」(ケムトレイル・パニック)

作者:東雲 比呂志
最終エピソード掲載日:2025/08/29
 ある朝、空を見上げた主人公は、不自然に長く伸びる白い筋を目にする。飛行機雲に似ているが、妙にしつこく消えず、やがて網の目のように広がって空を覆った。人々はそれを「ケムトレイル」と呼ぶ。陰謀論で語られることの多い現象で、飛行機雲に化学物質を混ぜ、大気や人間に何らかの影響を与えているのではないかと囁かれてきた——だが、それは単なる噂ではなかった。
 数時間後、空から降り始めたのは雨でも雪でもない。細かい霧のような水滴が肌にまとわりつき、呼吸と共に体内へ入り込んでいった。最初は喉の乾きや微熱程度だった。だが次第に、体の奥で何かが芽吹く感覚が広がり、人々の皮膚の下から無数の眼が浮かび上がってくる。彼らは恐怖に叫びながらも、やがて同じ言葉を呟きはじめる。「裂け目を迎えよ」。
 都市は静かに狂気に飲み込まれていく。広場では群衆が合唱のように同じフレーズを繰り返し、ビルの壁には巨大な眼が咲き、街そのものが生き物のように脈動する。雨上がりの水たまりを覗けば、そこに映るのは空でも自分の顔でもなく、誰かに見られている視線だった。
 主人公は必死に抗おうとするが、肩に刻まれた眼が体内に広がり、自らも「門」として変貌し始めていく。心臓は眼に変わり、世界の鼓動と完全に同調する。人間でありたいと願う心と、侵食されていく身体。その狭間で揺れる中、彼の視界に浮かんだのは愛する者の涙だった。それは本物の瞳か、それとも眼の世界が見せる幻か。
 空には再び、白い筋が描かれる。
 水のように降り注ぐその粒子は、今もどこかで誰かを侵しているのかもしれない——。
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