第四部 爆誕〜新世界の神、彼の名はゾレト。原寛貴時代とは多分色々明確に違う。ここから分断される〜
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼ 産まれたああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼」
「子供が産まれたんですか、ゾレトさん?」
「いや、俺が産まれた」
「えー? ゾレトさんまた産まれたんですかー?」
「ああ、まあ爆誕ってか第二生誕みたいな現象が起きた。前の俺は死んだよ」
「えー? つまり原寛貴さん死んだんですかー?」
「ああ、原寛期は終わってゾレトの創る新時代が始まるんだ」
「うわああああああああああああああ、やばいっすねそれええええええええええええええええええええ‼」
原寛貴 1992年3月12日―2025年7月4日
ゾレト 2025年7月5日―
「つまりあの大予言って」
「ああ、何も起こらなかったろ? つまりそういうことだ」
「うわあああああああああああああああああああああああああああ‼」
ゾレトから衝撃の真実を知らされたシノブは、盛大におしっこを漏らしてしまう。
「は!」
シノブが起きたら、股間に違和感が。というより恐らく間違いなく
「漏らしちゃった……♡」
しかも今は空久宅だ。そう、この前のお泊りの日の夜が更けた今日の今が奇跡だ。涼宮というよりも子宮が涼しくなっている。いやあ、夏だなあ。夏休みだなあ。
「夏はまだ、特別な感じがする」
シノブは呪術廻戦って普通に娯楽として上質だったよなあと想起する。シノブの推しは五条悟だ。恐らく何となく自身に似ているからだろう。
最強で神っぽい才能の塊というところが。両面宿儺の方が強いが彼は妖怪じみているため、やはり人間の天才っぽいのは五条の方だろう。しかし
「着せ恋の主人公も、五条くんなんだよなあ」
シノブは着せ恋はあまり好きではない。主人公もヒロインもシノブ感がないからだ。シノブのような光に包まれた超成功者は、基本的に自分大好きであり自分に似たキャラしか推せなくなる。
進藤ヒカルと塔矢アキラなら進藤ヒカルだし、孫悟空とベジータなら孫悟空なのだ。勝利が約束された超成功者、つまりスーパーヒーローからシノブは自分感神感を覚えるのだ。
「私って性格悪いのかなあ……」
能力が高い人が能力を自覚するのは嫌味だろうか。しかし能力に気付かないのも間抜けな気がするし、パフォーマンス発揮の弊害になりかねない。
有能な者は堂々と晴々としていた方が自然だし、そういう者が世界を先導するのではないか。光の道へ。よりよき方へ。
「いやあ、よく寝たあ。そっかあ、ゾレトさん目覚めたんだなあ」
私も頑張らないとなあ、とシノブは密かに気合を入れる。そう、シノブがこの世に敵わない相手がいるとしたら、ゾレトしかいない。
次点で大谷翔平とアドさんしかいない。トランプや金正恩は無能だからな。石破もそこそこ無能だ。
シノブが総理大臣になった方が日本はよくなりそうとシノブは本気で思うが、彼女はサッカー大好きなのでまあ政治家など年老いてからで良いだろう。
年老いたら平やサクマヒメでも誘って一緒に出馬すればいい。西のオフサイド政界編だ。国のオフサイドだ。国のインサイドだ。
国をインサイドキックするのだ。アメリカや北朝鮮辺りに優しく正確に。あの蛮族共もシノブのインサイドキックならば何かを汲み取ることくらいは出来るかもしれない。
「いやあ、しかしゾレトさん本当に目覚めたんだなあ。原寛貴時代の文章の書き方とまるで違う」
この機微が分かるのがシノブの天才性だ。シノブは勉強が出来るから頭が良いのではなく、思考力が高いから勉強が出来るのだ。
それゆえに頭が良いのだ。思考力というものは恐らく、人間に最も求められる能力といえる。
獣 10
人間 100
秀才 1000
天才 10000
神 100000
ゾレトを神になったばかり、つまり100000だとすると、シノブはやや及ばない70000、60000くらいだろう。
言うまでもなくシノブの思考力もなかなかに稀というか、人智を逸している。ゾレトからの寵愛を一身に受けているから、ゾレトの子だからこそここまでの能力を与えられているのだろう。
「まあ当たり前なんだけど、私の頭も連動的にクリアになった気がするなあ」
「ん? さっきから何をぶつぶつ。て、シノブまた漏らしたのかー?」
「あ、貴央先生。おもらしございます」
「どういう朝の挨拶だ! 聞いたことないぞ⁉」
「貴央先生寝ぐせ凄いですね」
「ああ、デザイン的にな。天久鷹央シリーズ観てればまあ何となく分かるだろ」
「貴央先生の寝言可愛かったです」
「えー? どんなー? 以下同文でちゅーとか言ってた? お兄ちゃん大好きっ子ちゃんとか言ってた?」
「えー? なんかー、『だ、駄目だ‼︎ 幻野くん、ここは保健室だぞ⁉ 保健室のベッドの上でそんなところを舐めるな! いや、パイパンで何が悪い! 生えてこない毛根の方が悪いだろ! いやだってアニメの美少女とかも大体パイパンじゃないか! つまり君がパイパンとさえ言わなければ絵面的にはシュレディンガーのまんこだったんだぞ⁉︎ えー? 幻野くんはパイパン好きなのかー? このシスコンめー! いいぞ、私もターカオだからな! 私を実の妹と思って兄妹の禁断の愛を温めようじゃないか! 私達の愛はまんこにメラゾーマ、ちんこにベギラゴンでメゾラゴンじゃないか! お、幻野くんのアストロンが解けてきたな? よおし、私の覚えたてのママダンテを幻野くんのはがねのつるぎへ』」
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼ 恥ずかしいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい‼」
貴央先生は羞恥で顔を焼かれる。布団の上をじたばたと暴れ回る。シノブは何か可愛くて笑う。そこで幻野くんが起床する。
「ん? 僕のこと呼びました?」
「呼んでない! 寝てろ、幻野くん!」
「僕のはがねのつるぎに何でしたっけ?」
「寝てろ!」
「まあパイパンは好きですよ?」
「寝てろ!」
「シュレディンガーのまんこって」
「寝てろよ!」
「貴央先生からいつも誘うんじゃないですかー」
「寝てろって!」
「ターカオの方が可愛かったですけどね」
「お前はシスコンなだけだろ! 寝てろ、幻野くん!」
面白がって揶揄う幻野くんは、満足したようでスマホを弄り始める。幻野くんスマホ持ってるんだなあ。いや、貴央先生に買ってもらったのか。
貴央先生は基本散財しないタイプなため、なかなか貯蓄が多いようだ。さらにいえば親父さんが大病院の院長とか何かそういう設定もあったような気がする。
「しかし、ゾレトは本当に目覚めたようだな」
「え、貴央先生にも分かるんですか!」
「ああ、私の思考力はゾレトには及ばないが、多分お前よりは高いからな。私は頭脳特化型だからな。エロいし」
エロいのは関係ないだろ。と唾棄するのは実は違う。
エロいというのはバイタリティが高いということであり、明け透けということは思考にブレーキを掛けないタイプということだ。
それゆえ案外貴央先生みたいな人物が覇王になるべきなのかもしれない。
「貴央先生、出馬しましょう」
「えー? こんな可愛いのに?」
貴央先生は照れた様子で、でもなあ、私可愛いからなあ、となかなか満更でもなさそうだ。
下からはなかなか辛辣な回が続く
いやこの時は本当に統合失調症が完治したばかりで
自分の熱量みたいなのがよく分からないみたいな
バイタリティがフルバーストしてしまっていた
原寛貴からゾレトへの変革期というか
「貴央先生、私に一つアイデアがあります」
「ほう、言ってみろ」
シノブはそのたった一つの冴えたやり方を、貴央先生の脳に流す。貴央先生の脳は心地よく撃たれて
「それは面白い‼」
きらきらした瞳でシノブと拳を打ち鳴らす。今更だがこの作品は拳を打ち鳴らすジェスチャーが多すぎないか。
「んえ? あれ? もう朝か。ふああああああああああああああああああ」
サクマヒメは今日も元気に起床する。しかし、そこにみんなはいない。
「あれ? 貴央先生? シノブ? まあいいか、もうちょい寝るか」
サクマヒメは二度寝する。
「貴央先生、サクマヒメちゃんまた寝ちゃいましたよ」
「そうか、これは我々もグレードを上げんとな」
シノブと貴央先生は二度寝したサクマヒメの寝姿を見て、再び作戦を練る。
サクマヒメが二度寝したことにより、さらに過激な悪戯を実行する必要性が増してきた。
いや、全くそんな必要性はないような気もするが。まあ夏休みの友達同士の悪ふざけだ。
ちなみに今やろうとしていたのは、シノブの布団とサクマヒメの布団の入れ替えだ。
つまりサクマヒメが湿ったシーツを見て、「漏らしてしまったあああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼ サクマヒメは馬鹿だから中学生にもなって元気におねしょしてしまったんじゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼」という感じのリアクションを頂戴するのが目的だったのだが、気付かず二度寝してしまったのならばさらにグレードを上げる必要があるのだ。いや、ないような気もするが。
「取り敢えずサクマヒメちゃんを脱がしておきましょう」
「ああ、それはマストだな。まずは全裸にして。おねしょシーツもキープで」
「ええ、全裸+おねしょシーツからさらに何か味付けして、サクマヒメちゃんを羞恥地獄に」
「ああ、それが私達的にも美味しいよな。アイツはあまり真面目に羞恥したことないからなあ」
「多少死にたくなるくらいの羞恥与えてみたいですよねえ、どんな表情が見えるのか」
シノブと貴央先生はサクマヒメを大好きすぎて悪魔みたいな発想を応酬する。
「シーツに+うんこしますか?」
「ああ、それは私も思ったな。ちょっと弱いが、それもマヨネーズ的に追加すべきか」
「誰のうんこで行きます? 私と貴央先生?」
「ああ、まあ私達でいいだろ」
シノブと貴央先生はシーツの上で踏ん張る。作業的にうんこを放り出し、これで全裸+おしっこ&うんこシーツという新しい羞恥の方程式が出来上がった。
「ちょっとわざとらしいですかね」
「ああ、その点は大丈夫。サクマヒメの思考力は獣と人間の間、50回りだからな。多少の不自然はアイツの脳で勝手に置き換わる。てか、私達ほど物事の解像度が高くないからな、アイツは」
「あと何時間くらいで起きると思います?」
「さっき寝たばかりだから、最短でも二時間は起きないと思うぞ。長くて五時間以内には起きそうだがな。アイツ腹減ると意識覚醒するタイプだから」
「成る程、お昼かあ。じゃあもう少し盛れますね」
「ああ、てか、シチュエーションだと思うんだよなあ、羞恥って。アイツの豪胆な性格だと、ただおしっこ&うんこ漏らしたくらいだと屁くらいにしか感じないと思う。もっと徹底的に精神を打ち砕くなら、その状態で外に放り出すとか」
「成る程。全裸+おしっこ&うんこシーツ+外か。いやでもサクマヒメちゃんだと、まだ弱いような。笑って帰ってきそうな感じしますね」
「ああ、アイツは笑えば全部許されると思って毎度毎度天使のような笑顔を向けるタイプの悪魔だからな。それを見られたくない相手とかいないか?」
「うーん、ウラララ‼ ちゃんとか? いや、ココロワ‼ かな? いや、下手すると私達春麗コーポレーションに殺されますね、あの人達敵に回したら」
「ああ、ある意味ヤクザみたいなもんだからな。春麗関連はやめておこう。軽い悪戯で死にたくない。いやあ、しかし難しいな。そもそもサクマヒメのメンタルが強すぎる。アイツ何すりゃ凹むんだ?」
「貴央先生とシノブはサクマヒメのことが嫌いなのか?」
「ああ、いや違うんだサツマヒメ。え? いや、サクマヒメ?」
貴央先生の前にいたのはサクマヒメだった。いや、サツマヒメではないのか。
と思ってさっきのところを見てみたら、先程まで寝ていたサクマヒメはいなくて、周囲を見渡すとサツマヒメは幻野くんやハーハラとネンインパクトをしている。
「ワシは馬鹿じゃから大抵のことでは傷つかんしそもそも気付かんことも多いが」
全裸のサクマヒメは憤怒のような悲哀のような綯い交ぜの感情を出来る限り押し殺し、大好きで尊敬している貴央先生とシノブに大人の話をする。いや、この展開は痛い。胸が痛い。
「サクマヒメちゃん、ごめん! つい悪ふざけで!」
「いや、シノブがワシのことをあまり好きではない、というより馬鹿にしておるのは何となく理解しておった。現にワシはお主ほど勉強できないし、お主の言ってることもよく分からんことが多い」
「おい、待てサクマヒメ! ただの悪戯じゃないか! らしくないぞ!」
「貴央先生、ワシは今まで貴央先生のこと好きじゃったし尊敬しておった。しかしそれは恐らく御供先生に向ける感情に近い。ワシとお兄ちゃんは両親がいないから、貴央先生に母性のようなものを感じておったのかもしれん」
サクマヒメは全裸で震える。貴央先生とシノブもこれやばい奴だ、やりすぎた、終わったとガチで糞チビる。
「て、まあ冗談じゃよ! 二人がワシに悪戯してきたからお返しじゃ! いやあ、ワシにこういうのは似合わんのう! ワシは馬鹿じゃから上手く言葉紡げんし!」
「サクマヒメええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ‼ ごめえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええん‼」
「サクマヒメちゃん、いつも馬鹿にして、見下しててごめえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええん‼ ずっと一緒にいてえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ‼」
貴央先生とシノブはサクマヒメに泣きつく。この二人は確かに頭は良いが、器のデカさで全くサクマヒメに及ばない。そう、そういうパワーバランスなのだ。
「なんじゃ、なんじゃ、やっぱり二人共サクマヒメが好きなんじゃないかあああああああああああああああああああああ‼ よしよし、サクマヒメはみんなの友達じゃあああああああああああああああああああああああああああああああああ‼」
この一話だけであらゆる喜怒哀楽が飛び出した。これが賢者サクマヒメの感情のパレードだ。もっと速く、もっと強く、撃ち抜くのだ。まるで夢みたいな
「ね、ねえシノブ……あのさ、私達って……」
「え? 何言ってんの綾乃。チームメイトでしょ?」
きょとんとした顔でシノブは告げる。そう、それはそうなのだ。
「え、ええ、そうね。そうだよね」
何言ってんだろ私、と羽葉堂は自戒する。何か勘違いしていたのだろうか。
シノブと自分は同じなのだと。友達なのだと。対等なのだと。
ただ一緒にハンターハンター観たり漫才したりしたくらいで。
「羽葉堂ちゃん、どうかしたの?」
「え? いや、何でもないよ!」
首を傾げるシノブだが、羽葉堂がそういうとそれ以上追及してこなかった。
本当に良い子なんだよな、嫌味なくらいに。と羽葉堂は自身の器の小ささを卑屈に思う。
「七瀬さん」
「ん、どした綾乃っぺ」
「私達、変わらないと」
「ええ? 私もだっぺか?」
「ええ、私達は今牛尾中の足手まとい」
「ええ? 私もだっぺか?」
七瀬はあまり自覚はなかったようだ。
しかし、羽葉堂から見たら同類なのだ。
「七瀬さんは走り込み熱心にやってるよね」
「うん。綾乃っぺはアニメばっか観てるっぺ」
「多分心臓が強い。というか、強くなったはずなんだ」
「ええ? そうなんだっぺかなあ」
「そう、その無尽蔵な体力、愚直な精神性が七瀬さんの武器」
「ええ?」
七瀬は少し嬉しそうだ。彼女はあまりこういうことを分析するタイプではないため、羽葉堂に言われるまで自覚が薄かったようだ。
「で、私の武器って何かな?」
「ええ? 綾乃っぺの武器い?」
「無いなら良いけど」
「いやいや、無いことはないっぺ!」
羽葉堂は言葉は強いが少し涙ぐんでいる。そう、彼女は怠け者で、大して努力しないままここまで来てしまった。
しかし、彼女に全く才能がないという訳ではない。才能があるからずっとDFとしてレギュラーを張っていたのだ。しかし、具体的に羽葉堂の才能が何かというと
「うーん、スピード? フットワーク? いや、反射神経?」
「え? ああ、私反復横跳びとか得意だよ! 短距離走も得意だし! そっか、スピードか! 反応速度か!」
つまりキリトか、と羽葉堂は二刀流ソードスキルのような構えをするが、七瀬は何か噴き出してしまう。
「ええ? 笑わないでよお、七瀬さあん」
「いやいや、綾乃っぺって案外愉快な人なんだなあって」
「え?」
「いやだって、武器とか突然言い出すんだもんなあ。綾乃っぺはそんなキャラじゃないっぺ。もっとうえきの話とかしてればいいっぺ」
「ええ? 私ってそんなアニオタじゃないしい」
「いやいや、練習中ほぼアニメ観てるっぺ」
「ええ? でもネトフリ観れるのにアニメ以外観るような奴はネトフラー失格うだと思うんすよ」
「いやいや、その語りがもうオタク丸出しだっぺ」
「そっちだって田舎丸出しじゃん」
「丸出しコンビだっぺ」
「七瀬さんの七瀬さんも丸出しにしてやるー」
「じゃあ綾乃っぺの綾乃っぺも」
二人は無邪気に脱がし合う。それを遠目に見ていたシノブは
「青春だなあ」
と温かく微笑む。
いやあまあ久しぶりにこの二人書きたくなって。
綾乃に関しては割と拾い上げられた方だよね。
七瀬は使い道があまりないなあ。
「お兄ちゃん! 起きろー!」
この可愛い妹キャラは誰だろうか。大丈夫、西のオフサイドだ。あの変なサッカー小説だ。そしてこの妹キャラも新キャラではなく既存のキャラだ。
そう、まさかのあのキャラには兄がいた、という話だ。さて、誰だろうか。まあ何となく目星は付いているのではないだろうか。
そう、あのキャラだ。もうこの「お兄ちゃん! 起きろー!」という言い方から大体絞れるのではないだろうか。
そう、もうほぼアイツしかいないのだ。恐らく皆のイメージがあのキャラで定まったところで
「お兄ちゃんのお兄ちゃんがお兄ちゃんしている‼」
「いや、お前の動揺の仕方可愛いな」
「熱膨張ってこういうことなの⁉」
「いや、どこ見て学んでんだよ」
「つまり上条さんってインデックスさん襲われたショックでずっと下ネタ口走ってたの⁉」
「誤解のベクトルが一方通行でも制御不能だな‼ いや、かまちーが真面目な場面で上条さんにそんなことやらせる訳ないだろ‼」
「えー? でもクウェンサーとかヘイヴィアなら割とやりそうだけど」
「それは確かにそうだけど、上条さんをあの馬鹿二人と同列にしてやるなよ! アイツら禁書で言うと浜面だろ⁉」
そう、もうここまでの兄と妹のブルースでもうほぼ確定、というかもう解答をそのまま見せているようなものだろう。
西のオフサイド作中にこんな感じの遣り取りが可能なキャラ、こういうオタク的遣り取りが自然に出来るキャラ、いやもう一人しかいないだろう。
「ぬ、抜いてあげようか……?」
「いややめろお前。どこでそんなん覚えたんだよ」
「え、サッカー部?」
「退部しろ‼ 恥部じゃねえか‼」
「サッカーを馬鹿にするなああああああああああああああああああああああああああ‼」
シノブはマナブを殴る。シノブはカセロスの時といい、殴ると決めたら容赦なく殴る実行力がある。
あ、そうシノブのことだったのだ。シノブにはマナブという兄がいたのだ。
「痛えよ‼ 強くなったな、馬鹿野郎‼」
マナブは涙目になりながらシノブを褒める。シノブは褒められて「えへへー」と素直に喜ぶ。
いやあ、可愛いメインヒロインだ。さすが我らのサカ神シノブ、最強のラノベヒロインだ。
「お前今中三だろ? 高校決めてないならウチ来いよ」
「えー? お兄ちゃんのとこって部室にテレビある?」
「いや、普通ないだろ‼ いいともでも観るつもりか⁉」
「お兄ちゃんって平成中期で時間止まってるの?」
「いや学校にサングラス持っていっていいともごっこするだろ‼」
「いや、平成初期の小学生の遊び方じゃん!」
「え? お前、職員室忍び込んで教師がいいとも点けてるの盗み観たりしなかったの?」
「いや、だから平成初期の小学生の遊び方じゃん! 令和キッズ舐めないでよ! 私が観たいのはネトフリ!」
「ネトフリって令和かよ、グロ」
「令和だよ、今! グロくないよ、全然!」
「いいとも無いんでしょ?」
「そりゃあ無いよ! 需要がお兄ちゃんしかないもん!」
「ネトフリねえ、部室で観るようなものじゃないだろ。自室でスマホでシコりながら観る奴だろ」
「いや、全くそんな感じじゃないけど。友達にネトフリ好きな子がいて」
「ああ、成る程。じゃあテレビ入れればその子も組み込めるな」
「いや、テレビの付属品みたいに考えないでよ!」
「いや、ビデオデッキとまでは言わないよ」
「だから譬えが古いって!」
「え? 今の子、ビデオでアニメとか観ないの⁉ はれときどきぶたとか、ぼのぼのとか、メダロットとか、グルグルとか」
「お兄ちゃんも一応令和の高校生だよね⁉ 今のアラサーみたいな思い出を持ってるみたいだけど、タイムリーパーか何かなの⁉」
「ゴーストスイパー?」
「古いな!」
「いや、ぬ~べ~に比べたら大分新しいだろ!」
「ぬ~べ~がそもそも古いよ!」
「はっはっは、シノブのば~か! ネトフリにぬ~べ~の新しいの上がってたぞ! お前ネトフラー失格う!」
「え? 嘘? ええっと、ネトフリ起動……え、マジ?」
「ぬ~べ~は令和でも現役なんだよ! 鬼の手~!」
「ぐわあああああああああああああああああああああああああああああああ‼」
シノブはマナブの鬼の手で衣服を切り裂かれてしまった。いや、実際に切り裂かれてしまった訳ではなく、ショックで筋肉が膨れ上がり服に負荷が掛かり爆ぜただけだ。
「お前がぬ~べ~といいとも舐めるからそうなるんだ!」
「いや、いいともに関しては今も依然舐めてるけど。てか、ぬ~べ~だって冷静に考えたら、懐かしアニメをリブートっていう最近のアニメ業界の流れに乗っかっただけじゃん。らんまとかうる星とかさあ。マンキンとかるろ剣とかさあ。スラダンとかDBもか」
「罰として熱膨張を冷却するんだ!」
「ええ? あ、お兄ちゃん私の裸見て興奮したんだ~? ふ~ん?」
「いや、ぬ~べ~が思ったよりエロくてさ!」
「ぬ~べ~流しっぱだった!」
「サングラスあるよ!」
「あるから何⁉ 掛ければいいの⁉」
「いいとも?」
「いや、聞き方おかしくない⁉ シコってくれるかな~? みたいに言うものじゃないの⁉」
「いいともおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼」
「いやあ、この兄めちゃくちゃウザい‼ テンション高すぎ‼」
「そういうなよ、抜いてくれたら新しいドリブル技術伝授するから」
「ええ? 新しい脇をみたいに。いや、ホント? 嘘だったらサングラス壊すよ?」
「ああ、タモさんの命を賭ける‼」
「勝手に賭けないで‼ 花京院じゃないんだから‼」
「ジョジョって昔ジャンプに載ってたキモい北斗の拳みたいな奴だっけ?」
「ええ? 何か情報古くない? 古の漫画読みじゃん……。貴央先生と引き合わせてみたい……」
「え? 鵺野先生?」
「いや、先生しか合ってないけど! どんだけぬ~べ~好きなの⁉」
「鬼の手‼」
「ぐわああああああああああああああああああああああああああああああああ‼」
シノブはマナブの鬼の手に全身を愛撫される。いやあ、なんだかんだで仲良し兄妹だ。二人共なかなかノリが良い。しかし、マナブの知識は古すぎて少し心配になる。
下の回はなかなか胸糞悪い。
こち亀のハムスター回くらいに。
あと昔どこかで似たような話を観たような既視感もある。まあそれは多分どの作者の作品にも同様に言えることだろうが。
「え? は?」
インターフォンが鳴ったので貴央先生が扉を開けると、そこにいたのは青髪の美少年だった。不思議とどこかで見たような雰囲気だが、しかし初対面のはずだ。
「あれ? これ夢かな……? こんなイケメンが、私の家に……?」
言うまでもないような気もするが、貴央先生はイケメンにやたら弱い傾向がある。テリーへの態度や幻野くんへの好意を見れば分かり易いだろう。
「いや、まさか、お兄ちゃんですか……?」
貴央先生はもしかしたらどこかで生き別れた兄が帰ってきた的なドラマチックな展開なのかなあと推理する。
さすがは名探偵タカオだ。何という推理カルテだろうか。この貴央先生のひとりごとに対し、
「はい、兄です」
という答えが返ってきた。
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼ 爆上がるんですけどおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼」
貴央先生はガッツポーズしまくり、飛び跳ねまくる。可愛い。
「お兄ちゃん、貴央って呼んでね♥♥」
「え? じゃあ、貴央先生」
「うははああああああああああああああああ、貴央先生だってええええええええええええええええええええええええええええ、まあ私一応教師だもんなああああああああああああああああああああああああああ‼」
貴央先生は嬉しすぎて少し浮いている。いや、地面から少し足が離れているように見える。
これはさすがに物理法則を無視しているような気がするので、貴央先生の魔力が内部暴走しているのかもしれない。
「お兄ちゃん、疲れたでしょ! 一緒にお風呂入ろ♥♥」
「え? お風呂?」
「うん、貴央良い子だから背中流してあげる!」
「えー、こんな可愛い子に」
「可愛いだってえええええええええええええええええええええええええ‼ いやあ私可愛いもんなあああああああああああああああああああああああああああああ‼ いやあ超嬉しいんですけどおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼」
貴央先生はもう空中で乱回転しまくっている。螺旋丸のようだ。これはもうさすがに魔法の域だろう。貴央先生の魔力が暴走し始めている。
「うわあ、螺旋丸みたいで可愛いなあ」
「お兄ちゃんもナルト好きなの⁉ えー、誰好き? 私シカマル! あとカカシ先生!」
「うーん、俺はイタチかなあ? あとカンクロウとか?」
「じゃあ、技は何好き? 私影真似! あと心転身!」
「やっぱ千鳥とか? 螺旋丸も好きだけど……」
「お兄ちゃん見て見て! 貴央螺旋丸! 貴央すごく螺旋丸!」
「おお、すごく螺旋丸だね!」
貴央先生は無邪気に乱回転を続ける。しかし、さすがにテンションが上がりすぎて少し疲れてきた。あ、俺じゃなく。
常に顔が赤く、頭が沸騰しているような状態だ。しかも魔力の栓がぶっ壊れたかのように一気に放出されていく。
「いや、貴央先生‼ 魔力止めて‼ 死にますよ⁉」
幻野くんはさすがにまずいと思い、制止を掛ける。
「え? まぼろしのくん? いやあ、だいじょぶだいじょぶ」
「ま、まずい‼ ハーハラ‼」
「全く世話の焼けるターカオね! ベホマ‼」
取り敢えず貴央先生の体力を全回復させた。貴央先生はそのまま深い眠りに入ってしまった。
「いやあ、ホントごめんごめん♡ 貴央先生が面白可愛過ぎて、必死に笑いを堪えながらスマホでの撮影を頑張っていたんだけどね……⭐︎」
「悪ふざけが過ぎますよ、シノブさん」
「いやあ、ホントごめん♡ でもここ面白くない?」
「ぷぷ、すごく螺旋丸……。いや、確かに面白可愛いですが、ぷぷ」
「ぷぷ、動画送ろうか?」
「いや、そんな、まあ一応頂きますが……」
幻野くんはシノブから面白可愛い動画を頂戴する。いやあ、落ち込んだ時とか暇な時に観たい。
「いやあ、しかしお兄さん凄いイケメンですね」
「お? まさか幻野くん、嫉妬かね?」
「え? は? いや、僕のがイケメンですし」
「お兄ちゃんほぼ私だからねえ」
幻野くんが珍しく感情的になるものだから、シノブはついつい揶揄ってしまう。
いつも幻野くんはシノブや貴央先生より上手というか、揶揄う側であるため、こうしてシノブから揶揄えるのはなかなか貴重だ。
しかし、やはりシノブはなかなか性格が悪いというか、良い性格をしている。
「んん、お兄ちゃあん、そこは舐めたら駄目なんだよお。んえ? あれ? 寝てた? お兄ちゃんは?」
「夢を見ていたようですね、貴央先生」
「幻野くん。夢か、夢だったのか。妙にリアルというか、実感のあるような夢だった……。何か私の生き別れのお兄ちゃんがさっき来てな。いや、夢だったんだが……」
貴央‼
「え? は? 夢だけど? 夢だけど? 夢じゃ、夢じゃなかったあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼」
貴央先生の眼前には、先程の青髪の美少年がいた。やはり、夢ではなかったようだ。
「おい、幻野くん‼ いるじゃないか‼ 夢じゃないじゃないか‼ お兄ちゃんだぞ‼ 私のお兄ちゃんだぞ‼」
幻野くんは貴央先生に笑顔を向ける。その笑顔は少し固まったものだったが、今の貴央先生にその機微は分からない。完全に脳が夢に浸かっている状態だ。
いやあ、しかしまずい。ふざけすぎてなかなか残酷な展開になってきてしまった。シノブはここからどう収拾をつけるつもりなのだろうか。
「うわあ、お兄ちゃんが私の家に。これからずっと一緒に暮らそう! あ、みんなで桃鉄でもやるか? なあ、みんなー?」
しかし、その場の皆のテンションが低い。というよりも、表情が暗い。空気が重い。いや、何でこんなハッピーな展開なのに皆暗いんだ?
と貴央先生だけが疑問符を払拭できない。いやあ、まずい。もう西のオフサイドは終わるのか、という一種の世界の終わりを感じるくらいに残酷な展開になってきてしまった。
西のオフサイド史上ここまで胸糞の悪い展開はなかった。しかもそれがメインヒロインの悪ふざけによるものという。涼宮ハルヒくらいの重罪だ。
「なんだよみんなー? 私のお兄ちゃんが来たんだぞー? これからずっと一緒に暮らすんだぞー? なー、お兄ちゃーん?」
「いや、その」
「え?」
「俺はお兄ちゃんではあるんですが、厳密には貴央の」
「ああ、成る程。分かる、分かるぞ。つまり、お兄ちゃんはお兄ちゃんなんだけど、まだ私を完全に妹として見れない、ということだろ? いやあ、分かる。いや、私もな? いきなりお兄ちゃんがお兄ちゃんと言って来ても、正直あまり似てないような気もするし、どうしても他人感は拭えないよな! まあそれも時間の問題だ! 時が宥めてくんだ、大体のことは! いやまあこうして巡り合えたしな! まあこれからだよ、これから思い出を重ねていけば……」
そこでシノブは貴央先生の眼前にスライディングアクロバット勇者全裸土下座をする。いや、大分スタイリッシュな元凶悪魔メインヒロインハルヒの憂鬱だ。
「ぷぷ、おいおい、何の真似だよシノブ! あ、もしかしてお前だろ! 私のアイス勝手に食べたの! いや私も鬼じゃないんだから、事前に断れば……」
「私をボコボコにして下さい、貴央先生‼」
「いや、おいおい、やめろ! お兄ちゃんの前だぞ! 私が暴力系の妹キャラなのだと誤解されてしまうだろ! 私は健気に家で待機してるタイプの……」
「私のお兄ちゃんなんです‼」
「え? お前もお兄ちゃん欲しいのか? いやあ、悪いなあ。お兄ちゃんは私の」
「この人はサカ神マナブといって、滝高校サッカー部に所属している私のお兄ちゃんなんです‼」
「えー、え? ああ、うん。え? ……ああ、まあ。……お前にそっくりだもんなあ、よく見たら……」
その時、貴央先生の頭で勘違いの部分が破壊され、全てが正しく統合された。いやあ、まあ儚い夢だった。
キメラアントのアイツみたいな気分を味わった。いやあ、まあ分かってしまえばまあ下らないというか、有り得ないよなあ普通。
いやだって、さすがに夢見すぎだっただろ。そう、夢だったんだ。ただ夢を見ていただけ。
シノブはただ、一瞬だけ楽しい夢を見せてくれただけだったのだ。この退屈な世界で、一瞬でも華やいだ幻想を体感できたのだ。
「う、く、うう、ううううううううう」
まずい。目頭がやたら熱い。堪え切れない。視界がぐちゃぐちゃに歪む。何も考えられなくなる。ただただ悲しい、虚しい。
幻野くんやシノブが必死に慰めようとしているのは何となく理解できたが、駄目だ。それ以外何も知覚できない。まあこれも一瞬の激情だ。
十分くらい経てばすぐに元の精神状態に戻せる。そしたらいつも通りだ。そんなのはもうとっくに理解しているんだ。当たり前の事象だ。こんな絶望は今までもよくあっただろう。
「貴央‼ 俺と友達になってくれ‼」
そのマナブの光を受け、貴央先生は希望を取り戻した。
「え? でも、君はシノブのお兄ちゃんで、私はシノブの先生で」
「関係ないだろ‼ 俺は俺の意思で貴央と友達になりたいんだ‼」
「ええ? でも、私なんかドラクエ6とか好きだし」
「ああ、ドラクエ6は俺も好きだよ! 俺チャモロ好き!」
「え? 私はボッツ。次点にテリー……」
「ああ、ボッツってコミカライズの? 神崎さんの奴?」
「うん。能年の後見人の……」
「能年スライム可愛いよね!」
マナブの平成中期止まりの知識と貴央先生の平成中期止まりの知識が奇跡的に噛み合う。
そう、シノブはただこれが見たかっただけなのだ。この平成中期の化学反応が欲しかったのだ。
「全く世話の焼ける」
「いや、格好つけてますけど、今回の話ってひたすらシノブさんの好感度下げるだけの回でしたね」
「ええ? 私メインヒロインなのに?」
「ええ、ハルヒコースですね」
「やめて! 一番嫌なコース!」
シノブは幻野くんに揶揄われるが、本当にこの回のシノブは最悪だった。
シノブのことは嫌いになっても、西のオフサイドのことは嫌いにならないで下さい‼
シノブは犠牲になったのだ
犠牲の犠牲にな
これよりシノブ闇堕ち編が始まる
いやもしかしたら少し前
ラセラ虐めた辺りから