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メキキラピカ  作者: びょく
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かなたの腹の中に雨が降っていた。雨は一日中晩降り続けかなたの胃は水でいっぱいになった。かなたの口は耳は鼻は傾けたジョウロみたいにずっと水を零し続けた。


 癒しの館を襲っているのは鎌のような手足を持った怪物で、それは一つの丘ぐらいの大きさで館を覆っていた。怪物の鎌が館の屋根を斬り裂いて瓦礫や落ちていく。そんな中、館のベッドで横になっている妖精の火性や人間の土性やらは何の危機感もなくあくびをしている。鎌による攻撃は嘘のように水性以外の生物を避けていった。瓦礫も彼火・彼土らに当たらないように落ちていく。

 屋根の裂け目でぎょろつく怪物の岩みたいな目がリラと他の水性の者たちの姿をとらえた。かなたは急にリラの手を引いた。すると、さっきまでリラがいた床が大鎌に貫かれ穴を開けられたではないか。続いて、壁に横に裂け目が入りもう一本の大鎌が部屋を真横に斬った。逃げ遅れた水性の一人が血混じりのシャボン玉を吐きながら腰を真っ二つにされてしまった。かなたが左腕を盾にして大鎌を受け止めた。大鎌の刃はかなたの腕に食い込むことすらできずに刃こぼれしている。

 「ぎゃああああ」

 犠牲になった者の叫び声がいまさらになって響いてくる。「早く逃げるんだ」とかなたの叫び声でリラは水かきのある手で床を押して立ち上がり扉を開けて外へと向かった。その逃げ先を怪物は目で追っている。

 リラが外に出た先にすでに大鎌が待ち構えていた。まるで、空に刃を突き付けられているような切迫感でリラは命の終わりを悟った。大鎌は空に円く斬り傷を残しながら降って来る。「助けて!」というリラの叫びは瑞々しい膜に囚われて空を漂うのみだった。リラが水かきのある手で頭を抱え瞼をだけでも暗闇に逃げ込んだあとしばらくの間彼水の意識は続いていた。首筋に冷たい潤いを感じる以外に痛みはなかった。「助けて!」というリラの声がいまさら聞こえてきてリラは恐る恐る瞼を開いた。すると、目の前にニカがいてにっこりとリラにほほ笑みかけた。ニカはつむじの上で両手を合わせるようにして大鎌を挟んでとどめている。シャボン玉がふわふわと漂ってきてリラの耳元で割れた。

 「やっと見つけた!ニカ参上!」

 ニカは両手首を前にひねってそのまま大鎌を怪物からねじり引っこ抜いた。腕を失った怪物は雷みたいな悲鳴をあげながらも残った大鎌でニカを切り刻もうとした。その時だった。一個の小石が弾丸みたいに飛んできて怪物の頭を貫きぐちゃぐちゃにした。怪物は力を失ってよろめき館に向かって倒れ込む。館の庭では腕を振り切ったかなたが軸足とは別の足を地面につけているところだった。小石を投げたのはかなただった。彼火はおでこの角を指でいじって大きくあくびをした

//////(過去の出来事)

  「水性になんて産まれてきたくなかった。畜生!死ね死ね死ね!」 ニカはそう叫びながら自分の拳が壊れるまで壁を殴った。実際、先に壊れたのは壁の方だった。ニカは世界と自分を恨んで地面を蹴り続けた。しかし、地面はその屈強さでニカの攻撃をすべて軽々と受け止めてしまった。「私なんて生まれてこなければよかった。くそ!くそ!」ニカの嘆きがシャボン玉に乗ってあたりを埋め尽くしていく。 「うるせえなあ」と声がする。まるで、天音のように透明な声だった。 「早く自殺してくれないか?耳が痛いよ」 その声の主が姿を現した。それは小さな鬼の灯で小指を耳に突っ込んで歪んだ視線をニカに送っていた。「プッ」とそいつが噴出してニカの中で何かが切れた。ニカはその小さな鬼に殴りかかって鬼の角が埋没するぐらい顔を殴りつけた。小鬼は殴られるままになって何も抵抗しなかった。その大きく腫れた瞼のわずかな隙間から差し込む視線はニカではない何かを見ていた。 「十一個」 その小鬼がいきなりつぶやいた。 「え?」という驚きが小さな泡沫に包まれてニカの口から出ていく。怒りと憎しみも同時に萎んだ。 「あれで十一個目だよ」 その小鬼は傷つき腫れた顔をにんまりさせて笑った。小鬼の指が指し示すのは雲の切れ間でそこには星みたいなカラーパが挟まっているではないか。 小鬼はそう言い終わるとニカを押しのけむくっと立ち上がった。そして、さっきまでニカと争っていた記憶がきれいさっぱり消えてしまったみたいに柔らかく「星水の丘はどこですか?」と尋ねた。 「あっちですけど」というニカの言葉が小鬼に届く前にニカは東を指さした。

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