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繁華街で悠はオレの手を握ってあちこち引っ張り歩いた。

クレープにタピオカ、それからいわゆる映えスポット。


流石高校生のまま、というべきか。


遊びたい盛りの悠は繁華街の隅から隅まで走り回ってはしゃぐので、俺はもうクタクタである。


悠はオレには見えているとはいえやはり周りから見ればオレ1人なのだ。

やはり、というか奴が行きたがる若者やカップルで溢れたスポットでは28のモサイ男1人、というのは変に目立った。


だが悠は気にすることなく、オレに色んなものを買うように強請ってきた。


買ったものはこいつが食っても減らないので、こいつがくい終わったあとオレがなるべく食べる。


だから買ったものはひとつなのに2人でひとつずつ食べている気分になる。

なんとなくお得な気分だ。


それに、喜んでいる悠を見ると。

なんとなく自分も嬉しかった。


いくら自殺とはいえ若くして死んだんだ。


もっとやりたいことや、見たいもの……田舎だったからできなかったこともあっただろう。


10年ぶりに見るキラキラと楽しそうな悠の姿は、オレまでもあの頃の……高校生の頃に戻してくれるみたいだった。


だからオレは嫌じゃなかった。

なんなら、久しぶりに死ぬほど楽しかった。


周りから見て1人で、浮いていたとしても。

そんなこと気にならなかった。


どうでもよかった。


オレには見える。

オレの傍には、隣には悠が居る。


『あの頃』の2人に戻ったオレたちは……時が経つのも忘れて遊び続けた。






最後に彼に強請られてやってきたのは……意外なことに、海だった。


やはり冬、しかも風が強いこともあってオレたち以外に人はいなかった。



「やっぱ冬の海はさみぃなぁー」

「じゃあなんでわざわざ来たんだ」

「いーじゃん来たかったんだから!」


さみーさみーと言いながらも悠は楽しそうに波打ち際に行って波を追っては逃げ、追っては逃げを繰り返している。


その姿を見ても、オレの頭はもうガキっぽいだとか、そんなことは思わなくなっていた。


ただただ……嬉しかった。


また、あの日のように笑って、動いている悠。

それがオレだけにだとしても見えていることが。

その姿をもう一度、見られたことが。


たまらなく嬉しくて……幸せだと思った。


「……お前は変わらないな」

「なんだよ急に」


俺の言葉に振り向く彼の幼い笑顔が、早くなった日暮れの逆行で浮き上がる。


オレンジとピンクと、紫の混ざったような光の元で見ると……少し、ほんの少しだけ悠の体は透けていたらしい。


1日過ごしたのに……今更。オレはそんなことに気づいた。


「いつもオレを振り回して。迷惑だって思うのに結局楽しくて……ほんと、あの時のまんまだ。」

「変わってて欲しかった?」

「いや」

「あっそ。」


そう言って悠は砂浜に座って、流れ着いた木の枝や石を海にほおり投げ始めた。


何となくその隣に座って……自分も石を投げる。


「懐かしいな。田舎だったから、お前とはよく……こうやって川に石投げて遊んだ。」

「そーゆうことは覚えてんのなぁ、遼ちゃんは。」

「はは、うるせぇ。」


段々と日が落ちて、石がどこに落ちたかも分からなくなってきた。


それでもおれたちは夢中で石を投げ続けた。


ぽちゃん、ぽちゃん、と波の音と共に石が沈む音だけが聞こえる。

それだけだって、なんだか楽しい。


昔もそうだった。


どんなにくだらないと思うことでもこいつといれば。

こいつとやれば。


オレは……死ぬほど楽しかったんだ。


当たり前だと思っていたその『楽しい』、という思いを久しぶりに思い出せた気がした。







気づけばもう、すっかり日が落ちて夜になった。

チラチラと星も見え始めた。


石投もさすがに飽きて、ぼんやりと星空を眺めていると……悠がふと、口を開く。


「………お前さ、何があったの」


心臓がどきり、と跳ねた。


「……なにが」

「あのなぁ、相棒のオレに隠し事できると思うなよ?10年離れてたーっつったってその間お前のことずっと見てたんだ。」

「キモ。ストーカーかよ。」

「違いますー幽霊特権ですー。……で?何があったの。」


穏やかな、優しい声。

昔と変わらない。

こいつはいつもこうして、オレの辛さに気づいてしまう。


その優しさにオレはいつも救われて……だからこそ、甘えてきてしまったのだ。


「……別に。生きるのに、疲れただけだよ」

「生きるのにって?」

「仕事とか人間関係とか、結婚急かされんのとか。……色々。」

「ふーん。」

「なんで、そんなこと聞くんだよ」


彼が立ち上がりながらほんの少し、笑みを混ぜたような声で言う。


真っ暗な闇の中、波の音と冬の強い風の音がする。

彼の短い髪が風に靡く。


「あーん?言っただろ、約束したから来たって。」


は、と零れた自分の息はいつの間にか白くなっていた。

悠はこちらを振り向くと、思った通りの言葉を放った。




「もしどっちかが心中しそこなって。片っぽだけが死んだら。10年経ったら死にぞこなったやつ、迎えに行くって。」




そう。それが。

オレとこいつが最後にした約束だったんだ。



あの日。

オレと悠は、一緒に死ぬはずだった。


理由はなんてことはない。

オレがクラスに馴染めなくて、とか勉強が上手くいかなくなって、とか。


大人になった今思えばくだらないほど小さな、たわいもない出来事ばかり。


けど、そんなたわいもない理由でも。

当時のオレには大きな出来事で。


そんな些細なことの積み重ねが、どんどん俺を追い詰めて行ったんだ。


ある日もう、耐えきれなくなってオレは、悠に言った。


死にたい、って。


そしたらこいつは、止めるでもなく、理由を聞くでもなく。

付き合ってやるよって言ってくれて。


決行は冬休み前、最後の日曜日の夜。

一日好きなことだけ、楽しいことだけして……それで死のうかって。


オーソドックスに靴と遺書を橋に残して川に飛び込もう、と話し合った。

苦しくないように……睡眠薬を飲んでから。


当日オレたちは、めいっぱい遊んだ。

美味いものも食べて、行きたいとこに行って。


本当に、人生で最高の日だと思えるほどの思い出を2人で作った。


けど、だからなのか。

オレは途中で怖気付いて。


日が暮れてきたとき、悠に言ったんだ。

やっぱりやめる、って。


そしたらこいつはいつも通りへらへらした声で「おー、わかったぁ」なんて言うから。


だから、だからオレは、また明日も、こいつとの毎日があると思って。


いつも通り悠とわかれて……家に帰った。


最後に見た悠はいつも通り、バカみたいな顔でオレに手を振っていた。


なのに。

なのにコイツは。


そのあと、死んだんだ。


薬を飲んで、川に飛び込んで。

コイツ、だけがあの日……予定、通りに。


死んだ。




「忘れたんだっけ?」


悠はあの日と同じ、ヘラヘラとした顔で首を傾げる。


馬鹿か、お前は。

忘れるわけ。

忘れられるわけが、無いだろう?


だからオレはずっと後悔して。

今日まで生きてきたんだ。


お前が……迎えに来てくれるのを。

オレの最後の日を、あの日と同じく人生で最高の日にしてから連れ去ってくれると……信じて、いたから。


「……覚えてる。」


オレの言葉に、彼は意外そうに1度だけ瞬きをしたが……直ぐに元の顔に戻った。


「ふーん、なら話は早いな。……一緒にいくか?」

「……ああ。」


10年。

10年後悔したんだ。


もう悩まなくていい、そう思うとオレの心は軽かった。


やっと、やっとまたこいつと一緒にいれる。

また、いつも一緒の相棒に戻れる。


なのに。




オレの言葉に……何故だか悠は、悲しげな顔をしていた。

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