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そう、こいつは、戸堀 悠はもう、死んだんだ。


10年前のあの日。

オレたちがよく遊んだ、山の川で。


悠は、オレの幼なじみで、親友だった。


小さい頃からずっと一緒。

幼稚園、小学校は勿論中学も高校も一緒だった。


今こそ別の土地に住んでいるが、オレたちの出身地はかなりの田舎だった。


遊ぶところも少なくて、自然と遊び場は家でゲームをするか、近所の山に行くかに限られていた。


オレはいわゆる陰キャ寄りの人間で、悠は陽キャ。

外で遊ぶのが大好きで運動が得意な彼は、よく授業もサボって遊び歩いては先生に怒られて笑っていた。


一方オレは図書館に籠って本を読んでいるタイプ。

だから勉強はできたけど……運動はそこまで得意じゃなかった。


教室でいつも一人でいたオレと違い、いつもクラスの中心だった悠は男女共に人気。


正反対のオレたちは……だからこそお互い分かりあっていて、お互いが大切で、大事だった。


いつもオレの隣には悠がいて。

よくイタズラに付き合わされて一緒に大目玉を食らったっけ。


それでも懲りずに次は何をする?と笑う悠の事が……オレは、嫌いじゃなかった。


これからもそうやって一緒にいて。

大人になってもたまに悪さに付き合わされて。

それで一緒に謝らされるんだろう。


オレはずっと……そう信じて疑わなかった。




だが悠は10年前の冬に、死んだ。



自殺だった。

睡眠薬を飲んで、橋から川に飛び込んだらしい。


指の悴む、息が真っ白になるほど寒い冬の日。


悠なのか、そうでないのかもわからない『なにか』、になってしまった彼を……オレは見送った。


いつもそばに居たのに。

あの日突然オレは、1人になった。


あれから……オレはずっと後悔している。


いつもなんにも考えてなさそうに、楽しそうに笑う彼の顔。

死ぬ前まで変わらなかった彼の顔。


それに囚われたまま、今日まで生きてきた。


お盆には帰ってくるから……昔は村のばあちゃんたちの言うその言葉を信じたりもしたけれど。

大人になってわかった。そんなわけ、無い。


だってもう、悠は死んだ。


帰って、来ない。

オレに逢いに来たりなんかしない。


つい昨日までは、そう、思っていたのに。





「そうだよ、死んだよ。お前がいちばん知ってんだろ?」


今、目の前にいる彼。


あの夏と、変わらない姿の悠。

それは彼が幽霊だということを突きつけられたようだった。


「じゃあ、なんで今更……」

「会いに来たんだよ、お前に。」

「10年、経ってから?」

「そ。」


あっけらかんと笑う彼に首を傾げる。

すると彼は呆れたようにため息をついて眉をひそめた。


「約束したじゃん。どっちかが死んだら10年後に会いに行こーぜって。だから来てやったのにつめてーの。まさかそれも忘れたんか?」

「………」

「え、待ってほんとに覚えてない?」

「………」


ずっと黙っているオレにしばらく呆気に取られていた悠。

だがオレの様子に見る見る目を大きく見開いた。


「はぁー??まじかよお前人がせっかく来てやったのにさぁ!」

「うるさい!10年も前のこと覚えてるわけないだろ!」

「この薄情者!アンタ最低よ!」

「気持ち悪い声出すな!!」


オレの言葉など聞いちゃいないのだろう。

ありえない、という顔でこっちを見ては「最低」「最悪」「思わせぶり」とガキみたいな悪口を言ってくる。

いや、死んだ時のままだとしたら高校生だしガキであってるのか?


「あーもういいわ、明日1日付き合え。せっかく来たんだからやりたいこと全部やる。」


思いがけない言葉にオレはつい、はぁ?!と大きな声が出て慌てて口を抑える。


「なんでオレが付き合わなきゃなんないんだよ」

「忘れてた罰だよ!俺のこの気持ちをどうしてくれんだ!!」

「こ、子供の時の約束だろ?」

「俺にとっては今の約束だよ!!いーじゃん別に、どうせ休み取ってんだろ。明日俺の命日だもん。」


図星だった。

彼の命日だけは、オレは休みをとるようにしていた。特に何をする訳では無いが、どうしても働く気にはならなかったからだ。


「それにぃー俺幽霊だからー?料理とか注文できないしぃー?なぁー頼むよ相棒ー!せっかくの現世なんだよー!」


ぱんっ!と両手を合わせて頭を下げる彼。

チラチラ上目遣いで眉を下げて、子犬のような目でこっちを見て訴えてきやがる。


くそ、なんかこっちが悪いみたいな気分になってくる。


それでも無視していると頬をふくらませてこちらにすり寄ってくる。


「なぁー遼ー!頼むよぉー!!命日なんだぞ?誕生日みたいなもんだぞ?ワガママ聞いてくれたっていいじゃんかぁー!!」

「命日と誕生日は対極だろ。」

「そんなことねぇってー!幽霊の俺が生まれた日だから実質誕生日じゃんー!俺主役よー?なぁなぁ〜」

「おい、抱きつくな!!感覚無いけど抱きつくな、なんか肩だけ重くて気持ち悪い!!!」


さすが幽霊……なのか?

体が金縛りみたいになってオレは床に倒れ込む。


それでもオレを解放しない悠に……オレはとうとう折れた。


「……分かったよ、付き合えばいいんだろ」

「マジで?!やったぁ、さっすが遼ちゃん愛してるゥ!」

「だから抱きつくなって!!」


再び金縛りになる体に悠は好き勝手に抱きつき、頬擦りまでしてくる。

よほど嬉しいんだろうが大の大人からすると気恥ずかしいことこの上ない。


だが引きはがそうにも体が動かない。


もう俺は全てを諦めた。


ただでさえ仕事で疲れていたのに、家に帰ってから起きた怒涛の信じられない、嵐のような出来事。

頭も体ももう限界だったのだろう。


俺の周りでキャッキャとはしゃぐ悠の声を聞きながらオレは……いつの間にか眠ってしまっていたのだった。

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