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ネコミミよ、この世界のしるべとなれ  作者: 金子ふみよ
第二章
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虎猫の名はウキヨ

 目を開くと、縞模様の猫がじっと自分を覗き込んでいた。巨大な猫ではない。むしろ小型の方か。春日大は反射的に身体がビクつくと、節々が鈍く痛むのを感じた。それよりもである。事実確認を済ます。そこが城の客間であり、自分がベッドに横たわっているのはすぐに分かり、

「気付いたか」

 カトゥンがほっとした表情を見せ、

「素晴らしい! ハピバスデ」

 などと妙にハイテンションで歓喜している研究室長。疲労感にまだ満ちていて、

「室長、それ聞いたことある」

 まるで力なくぼやくだけでツッコミにキレがない。いちいち「ハピバスデ」がどんな意味なのかなんて質問する気はなかった。

「はよ回復せんか。私もお前に話しがある」

 覗き込んでいた虎猫がしゃべった。

「にゃんこ先生と呼んだ方がいいのか?」

 地球だったらとっくに気絶してもおかしくないようなエキセントリックな事象でさえも、ピコライト国ならばとボケるあたり、春日大の胆力も大したものである。

「先生? 猫に敬称を用いるのか」

 春日大が横たわるベッドに手をついて身を乗り出してくるカトゥン。それにしても、猫がしゃべるのを気に止めていないあたり、この国では動物と人間がコミュニケーション可能なのか。

「ああ、あのドでかいのの縮小版だろ」

 春日大はゆっくりと身を起こし、カトゥンと距離をつくった。騎士とはいえ女性である。しかもお美しい。パーソナルスペース云々をおいても、春日大は女子との近距離コミュニケーションに慣れている方ではない。

「分かるのか?」

 面食らったのはカトゥンである。春日大に手を向けられ姿勢を直した。

「てか、経緯つうならカトゥンよりも……」

 途中で頭を抑えた。発熱ではない。失神の前を思い出そうとしたら鈍い頭痛がしたからである。

「ふーん、まだまだしっくりきてないってところか」

 研究室長に瞼を大きく上下に広げられ瞬く間に眼球が乾燥し始める。ウザったそうに研究室長の手を払いのけると、

「目薬とかないですか」

 目をパシパシとした。

「メグスリと言うものが何かしれないが、薬草を焚いてその煙でいぶしたタオルを目に当てれば」

「ええい、まどろっこしい」

 研究室長が珍しく理系的なことを始めようとしているのに、猫が邪魔をした。春日大の脚に乗るとネコパンチをするかの手を伸ばしたのだ。額に触れる肉球。その柔らかさを堪能するために、「ニャン」とかかわいらしく鳴いてみてくれればいいのだが、

「大いなる光よ、太古から導く風よ、生きとし生けるものの魂を清めるために……」

 などとオペラ歌手と引けを取らぬ抑揚を奏で始めたのである。

 肉球が離れると目を開いた。いつのまにか閉じていたのだ。そして、目どころか頭の鈍痛もない上に、体のけだるさがすっかりなくなっていた。

「私はウキヨ。ネコミミのことはよーく知っている。そして、そのイヌミミのこともな」

 ウキヨとかと自己紹介してきた虎猫は身をひらりと春日大から降りると、しかし、ベッドの端の方へ移動すると、そのまま腰を下ろした。

「人の手に余るはずのものをなぜ持っている?」

 春日大にさも含みをもった顔つきになった。

「だから! ダイ殿はあんだけぶっ飛んだ力を発揮したんですね。そしてぶっ倒れた。ということは! じっけ……もとい鍛錬をしなければならないと! そしてそのデータを取らなければならないと!」

 研究室長が意気揚々となっている。ウキヨと名乗ると虎猫を担ぎ上げると肩に乗せて、もはやマッドサイエンティストの勢いだ。せっかくここからイヌミミに関する情報が共有できそうなのに、まったく台無しにしかねない。

 ところで、情報提供者が語る以前に、研究室長が「イヌミミ」と断定できた根拠や理由は一体なんだろうか、なんて素朴な疑問が浮かんだが、

 ――まあ、いいや。どうせ設定だろうし

 と自分に言い聞かせることに、いやそうする以外になかった。

「まあ室長。まずは話すべきものから話すべきだろう」

 確かにカトゥンがド正論なのだが、議長にしてはまだまだ舌足らずで春日大もウキヨも言葉が詰まって顔を見合わせるのみである。

「まずはウキヨからだろ」

「いやダイからの方が」

 仕舞いにはお互いに譲り合う始末になり、

「だったら私から話そうか」

 未熟な議長が自ら進行を試みようとして、

「「どうぞ、どうぞ」」

 オチを任されることになったのである。


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