デイザンの救急救命
「デイザン! もう!」
湖の中から上がってみれば、カトゥンとビクチャーはいなくなっていた。少し距離のある森の中から衝撃が聞こえる。恐らくはそこで戦っているのは容易に予測できる。加勢。その前に卒倒している同僚の治癒の方が優先される。まずは頬を引っ叩いてみたが、この巨躯は横になったままだ。
「えっと、症状は」
全身打撲。幸い骨折はないようだ。出血もそうたいして流れていない。脈が若干弱い。身体が冷たい。低体温性のショック状態とも思える。
「それなら」
「それなら」
奮起しようとする自分以外の声が背中にかけられた。油断と言えばそれまでである。敵ならば容赦なく寝てなくても首をかかれていただろう。しかし、その声は随分と聞き覚えがあったのだ。
「室長!」
「そのでっかいのことなら」
室長は屈んでデイザンを診る。そのまま手を上げると、どこからともなく数名の特殊部隊が駆け寄ってきた。手早く診療道具類を広げたシートの上に並べていく。
「ここは任せておけ。お前はお前がやるべきことをしろ」
「けど、私なんて」
室長から目をそむけたイングロードは、フルフェイスを両手で挟まれた。いや、叩かれた。
「お前はネコミミを着けられる本当に数少ない戦士なんだ。その力をどう使うか、お前次第だろ。『私なんて』とか言うな。相手がどんなに強かろうが、お前らしいやり方があるだろ」
「室長」
室長は真っ赤になった手の平を後ろで組んだ。
「はい、行きます」
喝を入れられたイングロードは森に消えて行った。それを見届けてから室長は両手を何度も振って、息を何度も吹きかけた。特殊部隊たちは良くできたものでそれを見て見ぬふりをした。




