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ネコミミよ、この世界のしるべとなれ  作者: 金子ふみよ
第一章
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経緯の説明と言う事情聴取

 日本ではすでに夏休みになっていた。春日大にはずっと抱えている課題があった。それは高校から強制される宿題でもなければ、受験勉強でもなかった。神隠し。それがいったい何なのか、独自に調べていたのである。その理由。数年前、父親が突然行方不明になった。仕事がうまくいっていなかったわけではない。母親との関係が不仲になっていたわけではない。春日大が反抗期だったわけではない。まったく忽然と足跡がなくなったのだ。当然警察には届けた。親類、仕事関係者、知り合いに当局だけでなく春日家が手分けして尋ねた。近所の防犯カメラに映っていたのは出勤時の姿。その一台だけであとはもう追えなくなった。金融機関を調べても入出金は全くない上に、クレジットカードの利用歴もなかった。春日大が神隠しについて調べ出したのは父親がいなくなって三か月ほどが過ぎてからだ。現在ではもう①一年強経っていることになる。

 日本史の教員が興味深いことを話してくれたことがあった。江戸時代の国学者・平田篤胤は寅吉という一時行方不明になり、その後舞い戻って来て神隠しとされた少年を調べたことがあるとのこと。それが心に残り、民俗学というジャンルの書籍を読むようになった。妖怪だの異界だのを知るに至り、この町で異界に当てはまりそうな場所の一つとして町はずれの小山を、夏休み前の短縮授業ですっかり時間ができた、とある日の午後を待って一人で来てみた。これまでにそこへ来たのは小学校の遠足くらいで、もうすっかり体格がよくなったことをいいことに山道を外れ森の中に入った。どれほど歩いたか。そろそろ帰ろうかとしてふと進行方向を変えた時である。足元に動物耳の形をしたヘアバンドが落ちていた。梅雨が明け、季節も気分もはっちゃけるのだ。冷笑的になった。ちょっと浮かれ気分でやんちゃに遊ぶ。そういうことをしてもおかしくはない。かといってこんな山深いところまで来るとは。そこでは相当やんちゃか、思春期的興味深いお色気的アバンチュールか、人目を憚ることなくできることに変わりはないことに気付いた。思わず拾った。傍から見ればそんなやんちゃと自身がここにいる事態は何ら変わりはない。どんなにこっちが真剣だったとしても。それにだ。神隠しなんぞを調べているとは体の良い理由だが、父親がまさかこんなところにいるなんて本気で思ってもいなかった。この小山の捜査なぞとっくに行われていたのだから。冷静さと言うか、自身の浅はかさへの侮蔑と言うか、バカらしさと言うか。もうほとんどやけくそになっていた。それを頭につけた。神隠しがあるなら、父親を探せるのなら、そんな仮定は切望ではなく、もはやあざけりにもなっていた。「転移」。言ったみた瞬間、視界がかすんだ。高速で動く物体がぼやけて見えるようなそんな状態。唐突さに目を閉じてしまった。目を閉じていても感ずる身体の揺れ。ジェットコースターがスタートして傾斜を昇って行く時のような振動が続き、体感としては十数秒だった気がした。止まった。

 目を開けると、半裸の女騎士がいた。


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