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白猫と勇者~裏物語~  作者: 八陽
第9章 紡がれし想いと団円
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9-02 光に集う者、其の弐

 天空遊撃隊副隊長イパコイ・エピストシは、その日、風の王宮のある丘の上に、まばゆい光を見た。

 すぐにそれが光の霊獣が放ったものだと、直感していた。


 風の祭殿で会ったあの少年が精霊王に囚われた少女を助けるために戻ってきたのだと悟り、なんとも言い難い感情に心揺さぶられ、湧き立つ想いが満ちていた。


 ユーシエスに一番先に到着した分隊の一人が、イパコイの隣にメノスを寄せた。


「副隊長、あの光は――」

「あの少年とともにいた光の霊獣に違いない」

「では聖剣を?」

「手に入れたかもしれぬが、我々がすべき事は変わらぬ」


 イパコイは、離れた場所で地面を掘り作業をしている騎士達を遠目に見遣った。

 騎士服を着ているが彼等がやっているのは、土木工事のようであった。


「しかし、彼等は何をやっているのでしょう」

「精流脈を整えると言っていたが、堰き止めているようにしか思えないな」

「協力を要請していながら、我々には近づく事さえ許さないのですから、秘技なのでしょうか」

「そのようだ。精紋騎士というくらいだからな。だがそれだけに、我らに頼った理由も分かる」



 イパコイは、風の祭殿を出た後の日々を想った――。



 十五日前のことである。

 何の相談もなくトルプが去ったあの日。

 副隊長に任じられていなければ、イパコイは、即座にトルプを追い掛けていただろう。

 だが、通訳精霊を介さずに風の領域の言葉を話せた事から、今回の極秘任務における副隊長を任されてしまったのだ。

 信頼されていたと思いたかったが、トルプの独断によって彼は、見捨てられたような気持ちにさせられたのは事実である。


 残された部下共々二五騎で天の領域へ戻れという意図は察したが、イパコイにとって、理不尽な命令だった。なぜ共に来いと言ってくれなかったのかと、愕然とし途方に暮れそうになった。

 しかしながら立場上、イパコイは不満や不信を表に出せず、事前に密命を帯びていたと装い、部下が感情を口に出すのを抑えるのに腐心した。


「これより任務を遂行する」


 告げるやイパコイは、メノスを走らせた。

 それぞれの一瞬のためらいが遅延となって部隊の動きは少し遅れたが、すぐに二列縦隊となって後に続く。

 イパコイは部隊の練度に満足し、ひとまず安堵した。


 どうするか。

 悩みながらイパコイは街道を避けて草原を進んだ。

 森を左手に見て、風の領域の首都ユーシエスまで行こうと決めた。

 そこならば、選択肢が残されているからだった。


「副隊長、追っ手です」


 部下の声にイパコイは振り返った。

 草原の草を蹴り上げて疾駆して迫り来る騎兵の姿が見える。

 その数、およそ三〇〇騎。

 明らかに速い。

 精霊の助力を受けているのが明らかだった。


 イパコイは進路を左に向け、森の向こう側へと急いだ。

 右手を挙げ握った拳を開き五指を広げる動作を二回繰り返すと、一度大きく回して円を描いてから、腕を横に開いた。


 すぐに後続が五騎ずつの分隊に分かれ、散っていく。

 精霊を介しない身振りでの指示である。

 散開し、第一指定地点で合流という意味である。

 速度を上げて去りゆく四分隊を尻目に、イパコイは直近の部下四騎を従え、進路を転じ森陰から出た。

 囮となるためである。

 イパコイの左右に二騎ずつ、部下が並んだ。


「相手は精霊持ちだ。が、精霊の力は弱い」

「ですが数が多いですよ、副隊長」

「その通りだ。正面の山に入り、攪乱する」

「メノスの野生の勘任せですか」

「いいや、メノスの真骨頂だ」

「了解副隊長」


 山に入る手前で分かれ、各々が選んだ場所から山へと入った。

 メノスはそもそも山野に強い獣である。

 断崖さえも四つに分かれる蹄で岩肌を掴むようにして登り降りする能力がある。

 だからこそ、急坂で草木も根付きづらい地形を選んで駆け入った。


 並の精霊では、契約者が持つ宿玉から遠くへは行けない。

 せいぜい、一〇歩程度の間合いがやっとである。

 そして、追い風を起こしながら行く手の木々の枝葉や下草を退かす風圧も生み出せない。よって、山林では契約精霊の力はあまり発揮できなくなるのである。

 風の領域であることが幸いだった。

 地の精霊と契約する者は、ほぼいないからである。

 もし地の精霊がいれば、理不尽な力で地形を変え、追っ手の進路が拓かれていただろう。


 単騎となったイパコイは、メノスの判断に委ねて山林を走らせた。

 精霊との相性がいいメノスは、山林に棲む確たる人格を持たない精霊と感応し、道を察知して進む。

 当然ながら、初めての土地であっても怯まず駆け抜けるには、メノスの適正だけでは足りない。騎乗する者との間で精の循環を行う事で、感覚を共鳴させる訓練が必要となる。


 契約精霊が居れば精霊がメノスと騎士の仲立ちになり感覚を共有できるのだが、いない場合はより単純化した意識の方向性を一致させる共鳴を行うのだ。

 欠点は、部隊としての連携が難しい事だった。


 個々の騎士とそれぞれのメノスの感覚と個性が異なるため、進路がぶつかり合うことが多いのだ。

 だからこそ、別れて単騎で進むのが最適だった。


 追っ手が混乱している間に、イパコイは追撃を逃れた。

 だが、精霊の助力を得た騎士の能力は侮れず、休めばすぐに追跡の手が近づいてきた。

 やむを得ず、二日間山林を駆け、翻弄し続けた。


 ようやく振り切り、安全を確かめるとイパコイは指笛を吹いた。

 すぐに反応はなかったが、山林を駆け抜けながら、頃合いを見て指笛を吹き鳴らすと、何度目かで遠くから指笛の音が聞こえた。

 音によって誰がどの方向にいるかを伝え合い、合流しようというのだ。

 山を越える頃には、五騎が揃っていた。


 イパコイは安堵したが、その判断は甘かった。


 いや、むしろ追っ手の指揮官の有能さを誉めるべきだった。

 山を降りた直後に待ち伏せに追い立てられ、近くの低山に追い込まれてしまったのだ。

 追っ手の指揮官が地形を知り尽くしていたのだ。

 イパコイ達は小さな山へと追い込まれてしまい、尾根伝いに逃げることができなかった。

 意を決し戦う覚悟を決めると、イパコイ達は山を降りた。姿を見せると即座に包囲されたが、待ち伏せていた相手の騎士は、すぐに仕掛けては来なかった。


「私は天の騎士団、天空遊撃隊副隊長イパコイ・エピストシである」


 毅然と名乗ると、包囲する騎士に動きがあり、後方から一騎が進み出てきた。


「精紋騎士隊隊長のオユクネという者だ。そちらは契約精霊を失っていると聞く。無駄な抵抗はせず、投降してくれないか」

「断る」

「こちらは三〇〇騎、そちらは五騎。どう見ても分が悪いと分かってくれないのかな?」

「同じ命運ならば、天の騎士の力を示して散るのみ」


「うーん。そうかあ。天の騎士は優秀だと言うしなあ。よし、こうしよう。こちらも五騎出そう。その技量を示したならば、命は奪うまい。ただし、貴重な騎士だ。殺すなよ。殺したら、同じ数の命を奪わせてもらう。どうだ?」


「つまり、契約精霊のあるそちらの騎士五人を、契約精霊を失った我ら五騎で圧倒して見せろというのか」

「そういう事だ、どうする?」

「我らが勝ったとして、それで見逃してくれるなどと、信じられん」

「見逃すとは言ってない」

「なに? どういう意味だ?」


「圧倒的有利なこちらが、譲歩しているんだ。無罪放免とはなるまい。要するにだ、そちらが勝ったら命を助けてやるが、代わりに、ちょいと手を借りたい」

「何をせよと?」

「それは後で言う」

「後出しの条件では、交渉として成り立たないだろう」

「嫌なら、ここで終わりだ。こちらも被害が出るだろうが、祭殿に無断で立ち入った罪人には、相応の罰を与えないといけないのだ。分かってくれ」



 変わった人物だ、とイパコイは思った。

 だが同時に、信頼できそうだとの想いも抱いた。

 そして五対五の戦いが行われ、イパコイ達は、圧倒して勝利したのである。

 というのも、精紋騎士は明らかに練度が不足していた。

 契約精霊と連動した戦術も未熟だった。

 そのため、精を削ぎ取りあるいは封じる特殊な力がある剣や槍を使うと、勝つのは容易だった。


 そして彼等はいきり立ち、約束を反故にしてメンツと名誉のために襲いかかってくるだろうと、イパコイは予想していた。

 ところが驚いた事に、包囲する精紋騎士からどよめきの歓声が上がったのだ。

 驚きの声は喝采となり、イパコイ達は戸惑った。



「いや、お見事。さすがは天の騎士の精鋭部隊。殺せと命じたのだが、あっけなくやられたなあ。しかも本当に一人も殺さずに済ませるとは、驚いた」

 精紋騎士のオユクネ隊長が、単身、メノスを進めて近づいてくる。



 その言動にはむしろ、イパコイが驚いていた。

 オユクネという者は、有能ではあるのだろうが、変わり者だと悟ったのだ。

 器は大きいが、出世とは縁遠い。そういう人物であった。

 だからイパコイは、敵意と戦意を失い、この人物に興味を抱いた。


「それで、我らに何をしろと?」

「護衛だ」

「は?」

「見ての通り、こっちの騎士は弱い。だから、用心棒が欲しかったというのが本音だ」

「意味が分からないが」

「精紋騎士なのでね、こっちは。本業を疎かにしている―――」



 ユビキシュ家が抱えるのは、二系統の騎士である。

 有名なのは、祭殿騎士と呼ばれ、祭殿の警護や領主の護衛を務める精鋭部隊である。

 そしてもう一つが、精紋騎士であった。

 彼等は戦乱のない時代が長く続いた事で、戦術のためではなく、領地に施された精紋を点検し修理する役目を担うようになった。騎士という位を持つが、実態は技術者集団なのである。


「契約精霊を持つあなた方を、契約精霊を失った我らが護衛とは、いささか奇妙に思いますが」

「まあ、そう言わないでくれ」


 精紋騎士のオユクネが、何かを投げた。

 紐を通された宝石だった。

 掴み取った手を開いたイパコイは、それが言伝ことづて宿玉だと知った。

 言伝ことづて宿玉は、言葉を伝えるだけの精霊が宿った宿玉である。書状よりも確かな証言を嘘のつけない精霊が行うものである。


「我は言伝ことづて精霊。ここに証言する。精紋騎士のオユクネは、このイパコイ・エピストシ率いる天空遊撃隊を旗下に加えた。よってユビキシュ家配下精紋騎士に類する扱いを求む。以上」


 小さな精霊が現れ、証言を伝えて消えた。



「どういう事でしょう」

「こっちは先に行っている。そっちは後から来てくれ。ユーシエスで待っている」

「何を言っている。我々を連行しないのか?」

「そっちは契約精霊がいないから、足が遅い。そっちに合わせていられない事情もあるのさ」


「我々が逃げないと信じるのか?」

「約束を破りたいのか?」

「まだ約束はしていない」

「廉恥を知らないなら、好きにして構わない。ただ、街道は使わない方がいいと忠告はしておく。その言伝があっても、こっちの上には通じないかもしれないのでね」


「ならば、結果として辿り着けずに果てているかもしれないぞ」

「そしたら、そっちはその程度だったってだけだ」

「なるほど。我ら天の騎士の精鋭、天空遊撃隊の無様を嗤うのが目的か」


「好きなように思ってくれ。が、護衛が欲しいと思ったのは事実だ。ではまた。ユーシエスで会おう」


 精紋騎士オユクネが手をかざすや、砕けた雰囲気は引き締まる。

 そして、風の精霊の助力を受け、に風と共に去っていく。

 しばし唖然として見送っていたイパコイは、彼等の姿が見えなくなると、改めて首都ユーシエスへと向かった。


 約束の有無に関係なく、当初の予定通りの行動でもあった。

 八日におよぶ道中考え続け、イパコイは考えを決めていた。


 そうしてユーシエス近郊の合流地点に着き、半日ほど待つ間に、残りの部下が合流した。総勢二五騎、一人も欠けずに揃った事に、イパコイは喜んだ。

 囮となって山林を駆け回ったイパコイたち五騎が、結果として一番到着が遅かったのである。

 その間に彼等は、精霊の助力がないにもかかわらず、可能な範囲でユーシエスの状況を調べていたのだ。


 その報告の中で、イパコイが気になる話があった。

 黒髪の魔女が天の騎士を籠絡し精霊王を殺して世界を滅ぼそうとしている、という噂だった。

 誰もが口にこそしないが、その籠絡された天の騎士というのがトルプ隊長ではないかと、想像したようである。


 噂の真相を確かめたい欲求を抑えたイパコイは、皆に事情を話し、義務としてオユクネの旗下に参じると決めたのだった。

 そしてイパコイは、精紋騎士隊を探し、合流した。

 彼等がユーシエスに到着してから七日遅れてのことだった。


「来てくれると信じてたよ」


 オユクネは気さくに迎え入れてくれたが、すぐに護衛としての活動を求めてきた。

 彼が危惧していたのは、モッサに寝返った風の騎士団に所属していた騎士達だった。

 そうした裏切り者の襲撃を防いで欲しいというのである。

 彼等が最重要としている役目は、風の王宮に流れる精流脈を整える事にあった。その作業をしていると、裏切りの風の騎士団に邪魔されるという。すでに何度か襲撃に遭い、強い力を持つ傀儡のような精霊とも戦ったというのだ。


 精紋騎士達が作業を始めた現場に向かい、早速襲撃を受けたが、イパコイ達は連携し、特殊武器を駆使して戦った。

 幸いにして強い力を持つ傀儡のような精霊は一体しかなく、イパコイ達は難なく制圧して見せたのである。


 そして四日目。

 第七の月(ミナ・ピドゥロ)二五日。

 イパコイは、丘の上で輝く光を見たのだった――。




 その夜、オユクネ率いる精紋騎士は隊を分けて行動した。

 イパコイが同行したのは、残され森に流れる精流脈が王宮方向へと分岐する辺りで作業する部隊だった。


 すると、夜陰に紛れて動く何かがあった。

 残され森方向から、王宮の丘へと向かう動きだった。

 イパコイは、昼間周辺偵察をさせていた部下を呼んだ。


「あれを何と見る?」

「残され森に避難していた民衆の動きと思われます」

「民衆? ギデント街道側にいるのは、大きく二派に別れていると聞いたが、そういうことか?」

「はい。推測ですが、残され森にいる避難民は、黒髪の魔女、いえ黒髪の聖女と呼ぶ者に従い、モッサに対抗する構えでいます。昼に上空で輝いた光を見て決戦の時と知り、王宮精紋の破壊を阻止するために動いたのでしょう」


「ありうるか。ならば、それへ向かうあの光のいくつも点は、モッサに寝返った風の騎士か?」

「おそらく。光精枝の光に見えますので」

「そうなるか。さて問題だ。放置すべきか、阻止すべきか。残され森の民衆は、こちらの邪魔をされないための囮とも言えるのだが」



 そこへ、メノスの蹄が地を蹴る音が近づいてきた。

 光精枝で行く手を照らしながら駆けてきたのは、オユクネだった。



「イパコイ殿、急な話で悪いが、あの風の騎士の動き、阻止してくれないだろうか」

「こちらの護衛が疎かになるが?」

「構わんよ。民衆が王宮精紋の破壊阻止に動くなら、その力も借りたいというのが本音だ。あっちまで手が回らん」


「了解した。では我ら天空遊撃隊は、残され森から出し民を守りに行く」


 イパコイ達は、民衆を助けるために向かった。

 そこでは残され森から王宮方面に向かう人々が、モッサに寝返った風の騎士に取り押さえられた所であった。

 イパコイは「ユビキシュ家に仕える精紋騎士、オユクネ隊の旗下に散じた有志」と称したためか、風の騎士達はモッサに従うとは言わずに所属をぼかした。


 それを彼らが心に疾しさを感じている証拠と察し、イパコイはモッサ陣営にとって王宮方面に向かう人々が邪魔なのだと確信したのである。

 言論を用いて人々を解放させたが、風の騎士達が納得していない雰囲気はひしひしと感じられた。

 ここで一件落着と部隊を引けば人々を追って危害を加える恐れがあると予想したイパコイは、風の騎士との対峙を続けた。


 民衆の姿が遠退くと、モッサに寝返った風の騎士をまとめる男が口を開いた。



「ところで、なぜ天の騎士がここにいる。ユビキシュ家の旗下についたという虚言まで用いて何を企んでいるのだ?」

「気付かれたとは、流石風の騎士と賛辞しよう」

「世辞は無用だ。だがつまりは、今般の災厄は天の王によるもとの明らかになったと言える」


「天の王陛下の陰謀などではないと否定しておきますが、まずは改めてこちらから名乗りましょう。私は天空遊撃隊副隊長イパコイ・エピストシという者です。貴殿は?」

「賊に名乗る名などない」

「賊とは、心外ですね。ならば一つの証拠として、言伝ことづて精霊よ、証言をしてください」


 イパコイが紐を通された宿玉を前にかざすと、中からぼんやりとした姿の小さな精霊が姿を見せた。


「我は言伝ことづて精霊。ここに証言する。精紋騎士のオユクネは、このイパコイ・エピストシ率いる天空遊撃隊を旗下に加えた。よってユビキシュ家配下精紋騎士と類する扱いを求む。以上」


 小さな精霊は言葉を残し、宿玉の中に姿を消した。


「どうです? 納得して頂けましたか? 我らは今、精紋騎士オユクネ殿の旗下に加わっているのです」


「単に言葉を伝えるだけの精霊を信じろと?」

「疑うのであれば、オユクネ殿に直接聞いてみてはどうでしょう」

「そうやって我らを誘い込み、殲滅の罠に誘い込む気だろう」

「困りましたね」


「それに、最近は黒髪の魔女が現れ、天の騎士を籠絡し悪さをしているのだ。もしや、そちらの仲間ではないか?」

「さて、存じ上げませんが。その悪さとは、どのような悪さをしているのでしょう」

「心当たりもないと? 先程副隊長と言ったが、隊長はどこにいるのかな?」


「どうも貴殿は、こちらの事情を根掘り葉掘りと知りたがる様子ですが、それはなにゆえでしょう。こちらの動向を知って、どうなさろうというのでしょう」

「おやおや、誤魔化すとは、痛いところを突いたようだ」


「いやいや。痛くも無い腹を探られては、くすぐったいものです」

「ほう。ところで、例の黒髪の魔女の色香に狂った天の騎士は、契約精霊を失ったという噂だが、そちらも契約精霊がいないのではないかな?」

「むしろ、精霊王と戦い契約精霊を失ったのは、風の騎士団の面々と聞いているのですが?」

「契約精霊なら、いるぞ」


 名乗らぬその風の騎士は、精霊を呼び出した。

 だが、その姿はぼんやりとしていた。

 明確な自我を持たない蒙昧な存在だと、イパコイは思った。


「ガガン・モッサに従えば、精霊をもらえると聞くがそれは事実かな?」


 イパコイは挑発するように問うと、風の騎士達は少し動揺を見せた。騎士として、契約精霊を持っている事が絶対条件とされているが、寝返りや裏切りは騎士としての不適格と見なされるのだ。


「何が言いたいのか?」


 意気込むが、風の騎士は仕掛けてくる気配はない。

 イパコイも、先んじて仕掛ける気はなかった。

 結果、睨み合いが続く。

 夜が明けても、対峙し続けたのだった。


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