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白猫と勇者~裏物語~  作者: 八陽
第7章 凪闇からの誘い
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7-11 狂気の森の精霊

 残され森は、狂気の森とも呼ばれている。

 茨の藪で囲まれているため、閉ざされ森と呼ぶ者もいる。

 風の王宮を迂回して流れる精流脈を取り込むために、封精石によって外周が囲われていたために残った森である。


 人も精霊も入れない森。


 だが、ある程度力のある風の精霊であれば、封精石の効力が及ばない上空から入れる。

 そのため、風の精霊王に吸収されるのを恐れた精霊達は、消滅を恐れて次々と逃げ込んでいった。

 ところが、あまりにも密集しすぎたために、融合し自我を消失してしまったのだ。彼等は正気を喪失し、密集空間で居場所を求めて排他的になり、精流脈からもたらされる精を奪い合う。


 狂気の精霊が巣くう森。


 さわさわと風が流れる音は、小さな精霊の声。

 ざわざわと枝葉が揺れる音は、中くらいの精霊の声。

 ごうごうと唸り幹を揺らす音は、大きな精霊の声。

 それらすべてに、怒りの感情が溢れていた。



「去れ去れ去れ」

「退け退け退け」

「出てけ出てけ出てけ」

「来るな来るな来るな」



 無数の敵意を含んだ声が風と共に吹き抜ける。

 拒絶と憎悪と罵詈の声が森の至る方向から押し寄せてくる。



「何です、これは?」

「狂った精霊どもだ」

「自我が混濁し、もう元に戻れない同胞の悲しい成れの果てです」

「混ざると、元に戻れない――」



 リシアの心に不安が芽生えた。

 カフェオレを、元のコーヒーとミルクには戻せない。

 濾過や蒸溜によって取り出せるのは、水がいいところである。

 残った残滓から成分を取り出せたとしても、元通りにはならない。

 精霊王に囚われたルリが、同じように分かてなくなる事態を、リシアは想像したのだ。

 現状に焦り、最悪の未来を想うリシアの心が揺らいだ。



「リシア殿、肉体のある人間と宿玉を持つ精霊ならば、そう簡単に混ざることはありません」



 トルプの言葉に、リシアは自嘲するような笑みを浮かべた。

 ネガティブな思考に陥りかけた愚かさに気付いたのだ。

 不確定の未来を嘆いて立ち止まるより、望む未来を引き寄せるために進むのが賢い選択なのだ。

 リシアは自分にそう言い聞かせて前を向く。



「彼等はずっと、狂ったままなのですか?」

「この森に満ちる膨大な精が、狂気を肥大化させているのです。奴らの精を奪えば、解放できます」

「できるのですか、ディアン?」

「森の中を飛び狂気の精霊を引きつけますので、ボクに追いすがる精を、リシア様が斬ってください」


「この虚無ノ剣で、精を吸うのですか?」

「精を失えば、内に囚われていた狂気は散って消えます」

「剣が吸った精はどうするのです?」

「ボクがもらいます」

「平気なのですか?」

「剣が吸うのは自我という精霊の核の外側、純粋な精だけです」

「分かりました。やりましょう」


「では行きます」

 ディアンがリシアの側を離れ、森の奥へと飛んでいった。

 その姿はすぐに木立に遮られ、見えなくなる。

 リシアは剣を抜き、構えた。


 森がざわめく音が動いている。

 左から背後に回りまた右へと、周囲を回っている。

 頭上で大木の枝葉が揺れた。

 ザザザッとざわめく音が遠退いては近付き、そして過ぎ去る。


「リシア様、行きます」


 声がしてすぐに、正面方向からディアンが飛んでくる。

 突風が脇を吹き去る。

 その直後、リシアは剣を振り降ろした。


「遅れた?」


 風はリシアの予想以上に早く、狂気の精霊の大半は吹き去った後だった。

 それでも虚無ノ剣はいくつかの狂気の精霊を斬っていた。

 吸い取った精が柄を握るリシアに流れ込んでいく。

 モッサの操る精霊と戦った時よりも膨大な精だった。

 バンと音を立て、風船が膨らむようにリシアが背負うバックパックが膨む。


 それでも虚無ノ剣は、精を吸い続けている。

 森の中に満ちる濃密な精を吸っているのだ。

 バックパックが裂け、ショルダーが切れてリシアの背から落ちる。

 リシアは知らないことだが、増槽のように精を予備的に溜め込むためにユートがガンピシを縫い込んでいたのだが、それが許容量を超えてしまったのだ。


 虚無ノ剣はそれでもまだ、精を吸い続ける。

 まるでスイッチが壊れて止まらなくなった掃除機のように、柄を通してリシアの体の中へと精が流れ込んでいく。

 リシアの表情に苦しみが滲む。

 呼吸できずに喘いだ。



「リシア殿、剣から流れ込む精を止めるよう意識するのです」

 トルプの声にリシアはうなずくが、精の流れは止まらない。

「まだ無理か。ならば私の精纏ノ剣で、精を絡め取ろう」


 精纏ノ剣を抜いて駆け寄ったトルプは、リシアが持つ虚無ノ剣の周囲に剣を振り、精を絡み取っていく。

 剣を振り回していたトルプが、剣を振り上げた反動でよろめいた。

 精纏ノ剣にわた飴のように精が纏わり付き、思うままに剣を振れなくなったのだ。


「ここまで精が纏わり付くのか!」


 トルプは剣を引き摺るように持って大木に歩み寄り、粘着物質を削ぎ落とすように剣をこそぎ始める。


「隊長、確かに異常です、少し息苦しいです」

「契約精霊がいないと、厳しいようですな。隊長どうします?」

「剣を離せばいいのだが、精を絡め捕っている間は手を放しにくいのだ。リシア殿に習得してもらうしかあるまい」

 程度こそ違うが、三騎士も異様な汗をかいており、苦しそうに顔を歪ませ、息が荒くなっているのがはっきりと分かる。


「リシア殿落ち着いて。剣に意識を向け、柄の先に堰を作るよう想い描くのです」


 リシアはうなずいたが、実践は難しかった。

 体の中に精が流れ込む速度は、緩まるどころか逆に速まっている。

 精の流れを止める堰をイメージしようとしても、流れの強さに押し流されてしまうようだった。



「やむを得ん。オレがリシア様の精を頂くとしよう」



 ラスピはリシアの隣に立ち、地面に杭を打つように足を突いて立つと手を伸ばし、虚無ノ剣の柄を握った。

 その瞬間、リシアに向かっていた精がラスピに流れ込んだ。

 見る間にラスピの全身が太く逞しくなり、苦悶していたリシアの表情が和らいだ。


 虚無ノ剣が吸う精の量が減っていくにつれ、リシアは呼吸を整えられるようになった。

 落ち着きを取り戻したリシアが意識を向けると、精が反応するのが感じられた。

 剣からの精の流れが止まるように想い続けると、少しして緩やかに平衡状態へと至った。



「ありがとう、助かりました」

「この森はオレでも厄介と感じる程だ、致し方ない」

「どういうことでしょう?」

「周囲に満ちた精が行き場を求めたのだ。リシア様が持つ精を集める紙へと流れ込み、勢いが付いてしまったらしい。それ程までにこの森の精は、濃い」

「それで息苦しく?」

「人間には精が濃すぎて、溺れかけたるのだ。見ろ、修練を重ねた騎士どもも苦しんでおる」


 振り向いたリシアは、トルプ達が額に汗を滴らせているのを見た。

 精纏ノ剣は鞘に収めていたが、荒い息をし、苦しそうだった。

 それ以上に、部下の二人が辛そうに見える。



「森を出るべきですか?」

「いや、ディアンの奴が力を付けて周囲の森を支配領域にするのが最善だ」

「森を支配するのですか?」

「風の精霊とは本来、森を育む存在だ。ディアンが森の支配権を確立すれば、精の流れが整うだろう。そのためには、狂気の精霊の力を削ぐしかない」


「分かりました。それでディアンは?」

「森の上を飛んでいる。厄介な奴に追われて必死なようだ。こちらの位置を見失ったかもしれんな」

「ディアンを助けましょう」

「ならばオレは、借りを返そう。リシア様を地中から出すのに、風の手を借りてしまったからな」



 ラスピが大木に歩み寄ると、腰を落として大きく手を広げた。

 その手を上へと向け、膝を伸ばす。

 森を育む大地の精を吸い取り、ラスピはまた大きくなる。

 ラスピの背丈はリシアを越え、苔むした森の土を新たな体としていく。野放図に生えていた藪と草が枯れて倒れ、大木の太い根元が見えるようになった。

 次に蛇のように波打ち絡まり合う大木の根の隙間へと足を入れ、大地に踏ん張り、長く太くなった腕で大木を抱きしめた。



「ふんぬ!」



 気合いの声を放ち、ラスピが足に力を込め踏ん張る。

 大木が揺れ、少し浮き上がったように見えたが、太く大地を絡め捕るように伸びる根は強固だった。

 すると、地面からいくつもの手が生え、大木の太い一本ずつ根をへし折っていく。ついに、ミシミシという音がして残された細い根が引きちぎれ、ラスピは大木を引き抜いた。


 大木を放り投げたラスピは、別の大木へと走り、太い幹へと跳び蹴りを放った。

 大木はしなって曲がるも、耐えきれず折れて倒れる。

 その轟音は森の悲鳴のようであった。

 そこには、狂気に落ちた精霊が怒り叫ぶ抗議の声も混じっていた。


 ラスピは森の声を気にもせず、すぐ次の大木へ向かう。

 今度は回し蹴りで倒した。

 そのように、次々と大木を倒していく。

 ラスピは精を消費しているはずなのだが、むしろ段々と力を増し、動きは速くなり、わずかな時間で森の中に学校のプールくらいの空間を作り出してしまった。


 森の中、空が大きく開けた。


 広範囲を見渡せるようになった空に、ディアンの姿が見える。

 螺旋に飛び、追いすがる狂気を振り払い、押し退け、引き剥がそうと孤軍奮闘している。

 逃げ回るディアンの足を掴もうと間近に迫る、狂気の精霊の姿がはっきりと見えた。



「まずいな。あれにディアンが捕まったら、飲み込まれるぞ」

「失敗はできませんね。ですが、速すぎるのが厄介です」

「ならばオレが手を貸そう」


 大量の精を得て逞しさを増したラスピは、リシアの脇に立ち、柄に手を添えた。


「どうするのです?」

「オレが機を測る――」

「分かりました、委ねます」

「では――」

 ラスピは上空を乱れ飛ぶディアンに顔を向けた。

「ディアンよ、正面からリシア様に向かえ」



 ラスピの大声が届いたらしく、上空で舞う風の軌道が変わった。

 急激に反転し、正面の森に風が落ちた。

 森はざわめき揺れる。

 ディアンが疾風となって森から飛び出した。


 その背後に群がるのは、魑魅魍魎のようだった。

 姿が定まらない陽炎のような無数の狂気。

 中でも最も大きな存在が、ディアンの足を掴もうとしている。

 虚無ノ剣の柄に手を掛けるラスピの動きに合わせ、リシアは振り降ろす。

 剣が狂気の精霊を斬った。


 ギュオン!


 悲鳴のような風の唸る音が響く。

 大きな狂気は風船が破裂するように弾け、虚無ノ剣は瞬時に膨大な精を吸い込む。

 押しつぶされそうな程に大量の精が、柄を握るラスピの体へと吸い込まれていく。

 残った大小の狂気の精霊は、逃げ散るように大木の森の奥へと風が吹き去っていく。

 入れ替わるように、奥から新たな狂気の精霊が押し寄せて来て、森の境界周辺を出入りし、様子を探っている。


 その間にディアンは高く舞い上がり、落ち着いたようにゆるやかに上空を旋回するようになった。

 そして、更に精を得たラスピはより存在感を増し、纏う土は彫像のように美しい肉体を形作るようになった。



「さて、もうひと仕事だ」



 柄から手を放したラスピが、大木を倒して拓いた空間に進み出た。

 四股を踏むように腰を落とすと、両腕を広げ掬うように前に出して上げる。

 見えない腕が地面をえぐり取ったように、地面が盛り上がり、生えていた大木が次々と倒れていく。

 森林をなぎ倒す重機の列よりも無慈悲にラスピは森を破壊し、わずかな時間でサッカー場くらいの空間を切り拓いてしまった。


 すると狂った精霊は森から出てこなくなった。

 開けた空間を恐れているのか、ただ遠くから罵り奇声を発するだけだった。

 ようやくディアンが空から降りてきて、リシアの側に戻った。



「ありがとうございます、リシア様。助かりました」

「ディアンが無事で何よりです」

「リシア様のお言葉は嬉しいですが――」

 ディアンはラスピの前に進み出ると、腰に手を当て、宙から見下ろした。

「ずるいぞラスピ。ボクがもらう精を奪っただろう」


「お前が遅いからだ」

「ラスピは直接大地から精を受け取れるだろう」

「だが時間が掛かる。それに、リシア様は精に溺れるところだったのだぞ」

「だけど――狂気の隙を突いてボクが精をもらうはずだったんだ」

「リシア様を見失ったように見えたがな。それに、オレもリシア様と契約しているのだ。もらっても構うまい」


「ボクに集まってきた精なんだぞ」


「少しくらい、いいでしょう。ラスピも弱っていたのですし、こうして安全地帯を作ってくれました」


「こんなの一時凌ぎです。地の精霊は大雑把過ぎるのです」

「だがこうせねば、落ち着いて話もできなかったではないか」

「それは認めるけど、結局ボクがこの領域の支配権を得ないとダメだし、それには大量に精が必要なのは分かっているだろう!」


「ディアンはラスピのように精を集められないのですか?」

「森の上空に出れば少し集められます。ですが、狂気の混じった精が多すぎるのです。取り込めば、ボクがおかしくなります。風の精霊であるボクには、純粋な精が必要です」


「では、続けましょう。まだ周りには狂気の精霊が残っています」

「ラスピに奪われた一番の大物が纏っていた精を集めるには、リシア様の手を何度も煩わせてしまいます」

「私がこの剣を扱う練習にもなります」

 ディアンの姿がわずかに瞬くように明滅した。

「それでしたら、早速、狂気の精霊を集めてきます」



 ディアンは微笑み、狂気の精霊を集めに森に入っていく。

 すぐに狂気の精霊を引き連れて森から出てくると、リシアは虚無ノ剣で斬った。

 そして剣が吸った精をディアンが受け取る。


 それを何度も繰り返した。


 次第に周囲の精の濃度が薄まり、苦しんでいた三騎士も元気を取り戻していく。

 森に漂う精の流れが秩序を取り戻したように、穏やかな空気が漂うようになった。

 また一方では、森を拓いたことで、ラスピが大地から精を得る効率が上がったようでもあった。


 しばらくして、ディアンの姿がより明瞭となり風の衣を纏う好青年という姿となった。

 ラスピは、地中に埋もれていた石を身に纏い、動く石像のような姿となった。

 そして、リシアは虚無ノ剣の扱いに慣れたのだった。



「ありがとうございます、リシア様。これでボクは、森の三分の一を支配できるようになりました」

「続けますか?」

「難しそうです」


「やはり、そうですか」

 腕組みをしたまま立って見ていたトルプが、手を下ろした。

「ここは、クロタフォ公爵の首都屋敷だった場所。屋敷を守る精霊伯爵がいると言われています」


「その精霊は、ここに長く住んでいるのですか?」

「詳しくは存じ上げないのですが、爵位を持つ精霊なので、数千年は生きているはずです」

「もし精霊伯爵が、王宮精紋について知っているなら――」



 ルリを助ける手掛かりを教えてもらえる可能性をリシアは考えていた。

 すぐさまリシアが行動に移そうとして、唐突に空から光が消えた。

 夜の訪れである。


 リシアは恐怖に目を閉じた。

 意識を自分に向ける。

 未来が闇に閉ざされてしまったように感じたからである。

 これまでに何度も体験した自然現象を、特別な暗示と感じてしまうほどにリシアは疲れていたのだ。


 瞼の向こうに明かりを感じ、リシアは目を開けた。

 先端が光る細長い棒を、トルプが手にしていた。

 光精枝といい、こうがい小柄こづかのように鞘の脇に差し込んで所持している、タタ・クレユにおける照明道具である。



「リシア殿、気を張り詰めすぎては体に毒になります。今宵は休まれた方がいいでしょう」

「――そうですね。精霊伯爵に会うのは、明日にしましょう」


 リシアが倒木の上に腰を下ろすと、三騎士が薪になりそうな枝を集め、火を付けた。

 生木が多く煙が立つが、ディアンが脇に立ち、風を起こしてリシアを守っていた。



「では我々は何か食料を探して来ましょう」

「頼みます」

「その間にオレはリシア様の寝所を作るとしよう」


 三騎士は静寂を取り戻した森へと入っていき、ラスピは倒した木を使って簡易的な家を作り始める。


 リシアはぼんやりと焚き火を眺めていた。


「お嬢様を助けるためには、知識も力も足りない。声を届けて力づけることさえ出来ずにいるなんて――」

「リシア様にしかできない事もあります」

「分かっていますが、お嬢様の役に立てなければ意味はありません」


「一人で来たのを後悔しているのですか?」

「いいえ。あのお――あの人、プロソデアさんに同行していれば、もっと後悔していたでしょう」

「でしたら、進むだけです」

「そうね。ありがとうディアン。私は多分、自分がもっと優秀だと自惚れていたのです」


「リシア様は優秀ですよ。吸精剣の扱いに慣れるのは、ボクが知っている人と比べても、すごく早いですから」

「ありがとう。でもね、誰かと比べて優劣を競うのではなくて、私に成し遂げる力があるかどうかが問題だから――そうね。私は進むしかないのだと、改めて分かりました」


 焚き火を見つめていたリシアが顔を上げると、前触れもなく、風が吹き抜けた。

 火が大きく揺れ、掻き消される。

 一瞬にして、目の前が暗くなる。

 だが、炎は消えたが、熾火となって薪の中から赤く燃える光がわずかに周囲の情景を浮き上がらせている。

 残った焚き火の煙に紛れるように、ぼんやりと宙に浮かんでいる女性の姿があった。

 儚げな幽霊のようだが、精霊である。



あるじ様に森を返しなさい」

 静かな怒りを込めた、冷ややかで拒否を認めない厳しさのある声だった。


「主とは、誰です?」

「この森の本来の支配者。従順に返上するならば、この森への逗留を許す慈悲をくださるだろう。さもなくば、排除する」

「横柄な奴!」


 ディアンが凄むように風を起こすと、儚い精霊は掻き消えるように、吹き飛ばされた。


「まだ狂気の精霊が残っていたのですね」

「あれは、精霊伯爵を慕う精霊だと思います。自我を感じたのでここに来るのを許しましたが、違いました。すみません」

「精霊伯爵の使者かもしれないと考えたのですね。仕方ないです」

「ですが、まともではありませんでした」


「精霊伯爵は、無事なのでしょうか」

「会っても無駄かも知れません。配下の精霊があのようでは、精霊伯爵も狂気に冒されているはずです」

「私は一日も早くお嬢様を助けるために、最適な方法を探し出さなくてはいけないのです。ここに長く住んでいる精霊伯爵に聞けば、何か手掛かりが得られるかも知れません」


「――分かりました。ボクはリシア様に従います」

「当然、オレも従うぞ」


 ログハウスのような小屋を作り終えたラスピが歩み寄ってくる。

 リシアは大きくうなずいた。

 頼もしい二人の存在を感じ、孤独でなくて良かったとリシアは感謝した。


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