4-05 夢と意志
サーリは祭殿の外に出て、空を見上げる。
プロソデアの弟子になった時から覚悟していた。
近付くことで遠退く未来を見ていた。
それでも、師弟だった事実は変わらない。
廃人のように生きるプロソデアに、前を見て上を向いて欲しかった。剣術が上達すれば、誉めてくれる笑顔から悲しみの欠片が消えて行くのが嬉しかった。精霊と契約して驚いてくれたプロソデアが、目に輝きを取り戻したのが喜びだった。
ファロウ・ニーグの物語に憧れ、漠然と誰かを守る騎士になりたいと無謀な夢を見ていた少女の頃が懐かしい。
人を殺さないと決めた上辺の覚悟は、現実を知る中で幻のように掠れていった。
剣を捨てたプロソデアと再会し、どう生きるのかと覚悟を問われた。
悩み、考え、導き出した結論が、モーティス騎士団だった。
不純な動機も少しは含まれていたが、サーリが目指す理想は、そこにあった。
力による屈服とは別の方法を見いだす事。
どうしてニチェア・モーティスに憧れなかったのだろう。
時にサーリは思い悩む。
剣や精霊の力に対する憧れがあった。
力によって、理想を守りたかったのかもしれない。
力の行使は理想と矛盾する。
確かな事は、守られる側ではなく、守る側にいたかったのだ。
性分だから仕方ないとしか言えない。
主役にはなれないのだとサーリは想う。
ただ――モーティス騎士団がニチェア・モーティスの理念を守るための騎士団ならば、しっくりする。想い描くのは、守護騎士ファロウ・ニーグだった。救世の勇者とされる力の無い少年を守るなら、それがあるべき姿なのだろう。
「とはいえ――」
サーリは空を見上げる。
風の祭殿を囲う断崖の先にある上空に、強大な精霊の存在を感じていた。
プロソデアから聞いた、精霊王の分霊だろう。
精霊王の分霊は、モッサが与える不思議な紙を宿玉にしているという。
ゾネイアが使った精霊も、そうだった。
つまり、ゾネイアとモッサには繋がりがあると考えるべきなのだ。
モッサが近くにいる可能性もある。
それに、領外の者が風の祭殿を不当に荒らした事実は、風の王の不興を買うには十分であった。
両者が何か仕掛けてくるのを、サーリは想定した。
急ごう、とサーリは歩みを速める。
ゾネイアとモッサの目的が同じなのかは不明だが、両者が通じているなら、モーティス騎士団の弱点はモッサの知るところになったという前提で行動しなくてはならない。武器を持ちながら使えないと見透かされていれば、威嚇は通用しない。
だがモッサは、救世の勇者であるトーマを殺そうとしている。
その護衛として実質的に無力のモーティス騎士団が付いたところで、脅威にはならないのだから、仕掛けてくると見て間違いない。
そう考えてサーリは改めて困難な道程になると腹を据えた。
「私はモーティス騎士団の団長、サーリ・フォルネだ」
自分に言い聞かせるように呟き、サーリは皆が集う場所へと向かうのだった――。




