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白猫と勇者~裏物語~  作者: 八陽
第2章 変転
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2-07 用事

 天井から差し込んで来た光を、ユートは見上げた。

 覆っていた土壁が外側へと開くようにして折れ曲がり、城壁のような土壁となった。

 そのまま土壁は静かに砂のように崩れ落ちるが、砂埃が舞い散らない。

 幻だったように土室が消え、微笑みを浮かべた涼しげな顔のプロソデアが、二人を迎えた。

 ローブ姿ではなくなり、白地に金と緑の刺繍が入った動きやすそうな服で、腰に剣を下げている。まるで騎士のような身形に、ユートは驚きながらも納得したようにうなずく。


 景色も、変貌していた。

 周囲の草花は失われ、荒れ果てている。

 そして、風の騎士達の姿は、鉄格子がはめ込まれた土のドームの中にあった。


 尋常ではない戦いが繰り広げられ、立場が逆転したのだとユートは理解した。

 そして、一人も殺さずに全員を土牢に捕らえたプロソデアの力を、悟ったのだ。

 リシアでさえ圧倒され、力の差を知って愕然としている。

 明らかに精霊の力は人の力を陵駕しているのだ。


 もしプロソデアが敵ならば、信頼を得てから裏切り、欺し討ちや毒殺するしかない。

 どちらであっても信頼関係を構築しなければならないなら、常に疑心を抱きながら影を纏って生きるより、純粋に信じた方がいいだろう考えるのが、ユートだった。


 何よりも、本音で生きる方が楽なのだ。

 それに、疑い抜いて失う信頼よりも、信じて勝ち取る連帯感に価値を見出したかった。



「済みません。安全を優先したので、土室の中に匿わせていただきました」

「プロソデア、君と友達になれて嬉しいよ」



 困惑するプロソデアにユートは笑顔で近付き、肩を叩いた。

 するとプロソデアは、嬉しそうな笑みを浮かべた。



「もっと色々教えてくれ」

「もちろんです」

「だったらまず、重要な話があるんだがいいか?」

「なんでしょう」


 ユートはプロソデアの肩を抱き寄せ、リシアに背を向けて耳元に囁く。女性を伴う旅では、最も気を使うべきことだった。

 すると、先ほどよりも輝くような笑顔を見せたプロソデアは、「お安いご用です」と言い、すぐに精霊に作業を命じてくれたのだ。


 やはり異世界でも笑顔というのは、言葉よりも先に重要となるコミュニケーションツールだった。

 だからこそ、詐欺師も笑顔で近付いてくるのだ。



 少しして、ユートはプロソデアに頼んで作ってもらった物の中に入っていた。


 それは、極めて快適だった。

 地の精霊がドーム状に周囲を覆い、便器を作る。

 用を足す穴は深く掘られ、排泄された物は火の精霊が焼くために衛生的である。

 水の精霊が適温の水で綺麗に洗浄してくれるし、風の精霊は臭気を外に排気し、尻もドライヤーのように乾かしてくれるのだ。


 全自動ウォッシュレット以上の高性能なトイレである。


 精霊を人と同列に見てしまえば排泄行為を見られるのを警戒しなければならないが、森の動植物に類する存在と思えば、人の行為を特別視しない相手なのだから気にする必要はなかった。


 結果、ユートは気に入った。

 唯ひとつ抱いた疑問は、特に要求しなかったのに、光精石という照明を付けてくれたことだった。

 先ほどの土のドームに付いていなかったのが付け忘れなら、プロソデアは優秀だが、少し抜けているところもあるのだ。

 完全無欠にして完璧な人物でないと知り、むしろユートは親近感を覚えるのだった。


 そして、ユートがトイレは問題なく使えると伝えると、リシアが心なしかリシアがほっとしたような表情を見せたのだった。


 その間プロソデアは、風の騎士が持っていた荷物の仕分けをしていた。旅をする上で最も必要な、水とs食料を確保しているのだ。

 それと平行して、地の精霊が獣車を分解している。


 手伝う余地もなく、ユートは部品取りされて残骸のような獣車の荷台に上り、ぼんやりとリシアの姿を眺めていた。

 リシアは風の騎士が持っていた剣や槍を手にし、振ったり突いたりしている。

 戦うための備えだった。

 元の世界で武術に心得があるからこそ、リシアは戦う選択肢を持っていられる。

 対してユートは、戦う考えを捨てていた。


 戦う必要があるならそれはプロソデアに任せ、素人は邪魔にならないように離れているのが最善だと分かっているからである。


 役立たずの疎外感に浸りながら、ユートは寝転んだ。

 空を見上げ、それでもトーマとルリとリシアを連れて元の世界へと戻る方法を見つけ出す努力をしようと、ユートはぼんやりと考えていた。


 夜は、唐突に訪れた。

 夕暮れはなかった。

 明確な違いに優途は、改めて異世界に来たという現実を受け入れ、知らない現実の多さに身を引き締めるのだった。


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