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短編(日常・恋愛)

好きな人に手紙を書いたんだけど、どうも書いた内容が変わっている気がする件について。

作者: 鞠目

 今、私は人生最大の難関にぶち当たっている。そう、初めてラブレターなるものを書こうとしているのだ。まさか私の人生においてこんな日が来るなんて思ってなかった。机の前に座って時間が過ぎることなんと2時間。まじか。

 書く気なんて全くなかったのに。どうしてこんなことになったんだろう。全てはあのおばあさんにもらったこのペンのせいだ。






 私の通う高校では体育祭のあった週の金曜日、何故かラブレターによる告白ラッシュが発生する。理由はよくわからないがそういう伝統らしい。同じ陸上部の由美先輩曰く『そこに体育祭があるから』だそうだ。全くもって意味不明だ。由美先輩のドヤ顔にちょっとイラッとしたことは秘密だ。

 隣の席の笹山(ささやま)くん。サッカー部。スタメンでインターハイ出場経験有り。学力は校内で中の上。顔面偏差値校内トップクラス。性格問題無し。学力がトップクラスでなくてもこんな優良物件なかなかいない。

 2年で初めて同じクラスになった。今まで存在は知っていたけどなんとも思ってなかった。だって雲の上、とまではいかなくても私とは住む世界が違うと思っていた。思っていたのに…………

 はあ…………先日の席替えで隣の席になった日に、私の理性は崩壊した。好きにならない女子がいるなら是非会ってみたい。隣にいるだけでお姫様気分を味合わせてくれるなんて、こいつはいったいどこの国の王子様だ。


笹山くんの素敵すぎる行動例

・毎朝言ってくれる爽やかな「おはよう」

・毎日チョコやお菓子のプレゼントをしてくれる

・ふと視線を感じて横を見ると甘い微笑み

・授業で忘れ物をしたらさりげなくフォロー

・やたらかわいいって言ってくれる

etc……


 きっと私じゃなくても隣になった人には同じ事をするんでしょう。するんだろうとわかっていてもこれは射抜かれるって。射抜かれよね?射抜かれるでしょ!?射抜かれるって言ってくれ!






 さて特に何事もなく終わった体育祭。体育祭なんて気がつけば終わっていた。そう体育祭後の金曜日、今年も発生するであろう告白ラッシュの事で頭がいっぱいだったのだ。

 告白するかどうか……悩む。いや、無理無理無理。失敗する未来しか見えない。そんな事を考えながら私は帰路についた。

 私なんて特に可愛いわけでもなく、スタイルも普通。学力だって運動神経だって普通。何か一つ、抜きん出たものがあればよかった、なんて今更考えてももう遅い。


 ん……?袖を誰かに引かれる

「ごめんなさいね、ちょっと道に迷ってしまって」

 振り返ると淡く優しい灰色の素敵な着物を着たおばあさんが立っていた。

「この近くに駅はないかしら?こっちに行けば辿り着けるって教えてもらったんだけど……」

 品のある顔、柔らかな物腰、素敵な大人の女って感じがする。

「はい、歩いて行けますよ。一緒に行きましょう」

「え、いいのかしら。それは助かるわあ」

 おばあさんの顔がパッと明るくなった。ふふふ、よかった。ここからだと駅まで歩いて10分ほどだ。家に帰っても特にやる事がない私はおばあさんを駅に連れて行ってあげることにした。


 駅に向かう途中、沈黙に耐えられなかった私は今置かれてる状況についておばあさんに打ち明けた。明日の金曜日に学校でラブレターによる告白ラッシュが起きる事。隣の席に好きな人がいる事。告白する勇気がない事。おばあさんは黙って頷きながら聞いてくれた。

 話終わると同時に駅に着いた。

「聞いてくださりありがとうございました。おかげでちょっとすっきりしました」

「いえいえこちらこそ駅まで連れてきてくださってありがとうございます。いいわねえ青春って。聞いているとこっちまでどきどきしちゃうわ」

「いやいやそんな。でも悩み出すとしんどいんです。今もどうしたらいいか答えがまだ見つけられていないし……」

「そうねえ、そうだ。もしよければこれ受け取ってくださる?」

 そう言いながらおばあさんから手渡されたのは黒くてシックな高級感のあるボールペンだった。

「これは頂き物のペンなんだけどとても使いやすいのよ。もしかしたらあなたの役に立つかもしれないわ。私はもう使わないから受け取って欲しいの」

「え、そんな受け取れませんよこんな高そうなもの」

「いいのよほんと遠慮しないで。じゃあね」

 おばあさんは私にボールペンを押し付けると颯爽と駅の中に消えていった。私は手元に残ったボールペンを見つめた。どうしよう……もらってしまった。






 そして今に至る。とても可愛くてお洒落なボールペン。もらってしまったのでこれはラブレターを書かなくちゃいけない、そんな気がして机の前に座った。座ったけど何を書けばいいのかわからない。そんなこんなで時間はどんどん過ぎていく。ふと気がつけば深夜1時。私はだんだん訳が分からなくなってきた。

 なんでこんなに悩んでるんだろう。もうこうなったらなるようになればいいさ!!何かが弾けた私は深夜のテンションで思いつく言葉を書き連ねた。そして読み返す事なく封筒に入れて鞄に突っ込んだ。







 翌日、朝練の時間よりも少し早い時間に学校に行き笹山くんの下駄箱に手紙を入れた。まだ下駄箱には手紙はなく一番乗りだった。

 それから後のことはよく覚えていない。一日中上の空だった。何をするにも身が入らず気がつけば家に帰ってきていた。私今日一日どうやって過ごしたんだっけ?まあいっか。そんな事より手紙出しちゃった。出しちゃったよ私。どうしよう何を書いたか覚えていない……やっちまった。やっちまったよ。勢いで動き過ぎちゃったよ。

 いつもより長くお風呂に入ったけど気分が晴れる気配はない。ずっとどきどきしている。何この緊張感。大会よりも緊張する。もう無理かも…………。

 そんな事を考えながら髪を乾かしベッドへダイブ。すると突然スマホが鳴った。ディスプレイに『笹山くん』と浮かび上がった。笹山くんから電話なんて初めてかかってきた。恐る恐る通話ボタンを押してみる。






「もしもし笹山くん……?」

「あ、瀬川さん?ごめんこんな時間に」

「いや全然大丈夫。でもどうしたの?びっくりしちゃった」

「実は今、下駄箱に入っていた手紙を全部読み終えたところなんだ」

 そういえば今日笹山は手紙の詰まった大きな紙袋を持って帰っていた気がする。曖昧な記憶が少し戻ってくる。てか、そんなに読むのに時間かかったの?いったいこの人は何通手紙をもらったんだ。もう22時を回っているぞ。


「瀬川さんも手紙くれてたんだね。今日ちょっと様子が変だったから心配してたんだけど、瀬川さんからの手紙を見つけた時になんかちょっとホッとしたよ」

 私は顔が真っ赤になり何も言えなくなった。なにこれどういう状況?


「手紙なんて誰からどんな内容をもらっても何も思わないと思ってた。でも、瀬川さんの手紙は他のと違って思わず電話しちゃった。電話しなきゃいけないって思ったんだ」

 待て待て私なにか変なこと書いたっけ?やばいいっぱい書いたけど内容が思い出せない。




「『Catch me if you can』たった一言の手紙だけどなんだろう、この手紙を読んでから、もう僕は君のことしか考えられない」






 ん………?なにそれ






「瀬川さんって静かな感じだけど、笑うとすごく可愛くて。素敵な人だなと思って実は気になってたんだ。だけど自分の気持ちがよく分からなくて動けずに悩んでた。でも、今日この手紙を読んで、今悩んで動かなかったら絶対に後悔する、そう思ったんだ」






 待って待って。なにそれ。それ本当に私の手紙?

 いやいや絶対に違うって!いっぱい書いたって。書き殴ったよ私?用紙いっぱいに何書いたかは覚えてないけど書いた書いた。黒歴史間違いなしの手紙だったと思うもん。

 え、英語?私が?ないないないない!しかも「捕まえてみな?」みたいな挑発的な事言わない言わない。絶対に言わない。

 笹山くんが如何に手紙が嬉しかったかを伝えてくれるのだが私の頭には全く入ってこなかった。机の上を見るとボールペンが鈍く光った気がした。






 そんなこんなで笹山くんと付き合うことになった私。それなりにうまくやってる。周りは驚いていたけど1ヶ月もすれば何も言われなくなった。慣れって怖い。

 そうだ、あれからあのボールペンは使っていない。だって私が書いた内容と違うものになっちゃうんだもの。使って試してみたいけど怖くて引き出しの奥に片付けた。でも、また手紙を書く機会ができたら使ってみようかな。なんて思ったりもしているのは秘密だ。

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[良い点] 拝読しながら自然と笑みが浮かんでいました。10代の瑞々しい恋模様はいいですね! 私を捕まえてごらん、なんて手紙に書かれたら確かに落ちそうです。これは10代らしい素直で元気な主人公へのおばあ…
[一言] いろいろ書けるボールペン。 欲しい気もする。
[一言] まさかの映画タイトル!! だけど結果的にハッピーエンドでよかったよかった。
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