ギクシャク
胸が苦しい。何かがこみ上げてくるような、何かに押されるような、そんな感じ。失恋したときもこんなにならなかったのになあ・・・。
あの市長の長い話の後、卒業式が何事もなく終わり教室で奥村と談笑していた。そのとき、見てしまったのだ、奥村のスマホに俺を振ったあの子からのメッセージが届くのを。その後はよく覚えてない。気が付いたら、高校三年間ほとんど毎日歩いていた、最寄りの駅に続く道にいた。この道を歩くことも今日で最後かも、なんて感傷に浸ることもできずにいた。
「いつもの場所で待ってるってさ・・・、ははは」
いつもって、いつから付き合ってたんだよ。昨日まで俺の告白の返事を保留にしてたのは何だったんだ。からかってたのか?
「奥村・・・」
あんなに真剣そうに聞いてたのに、腹の中では俺のこと笑ってたのか。こんなことなら奥村ともあの子とも最初から出会わなかったら良かった。また後悔が一つ増えた。市長は後悔するのは悪くないって言ってたけど、こんなの辛いだけだ。人は物?選択する前から決まってる?そんなわけあるか。人は人だし、結果が決まってるはずがないだろ。
「帰ろ」
空は嫌になるほど澄み渡っている。やっぱり神様なんていないじゃん。こういうときって心理を表すために雨になるんじゃないのか、せめて曇れよ。
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「ただいま」
やっと着いた。いつもよりも電車も道も長く感じた。もう寝よう。今日もいろいろ疲れた。
「ちょっとこっちに来なさい」
母がリビングから呼んでいる。無視して寝室に向かおうかとも思ったが、なにやらいつもとは雰囲気が違う。ここで無視したら後がめんどくさそうだ。
「なんだよ」
「座って」
「別にいいよ、疲れてるから早く…」
「いいから座りなさい」
言われた通りに椅子に腰掛ける。どうせこれからのことについて話すんだろう。テキトーに流して早く寝よう。どうせテキトーにアルバイト見つけてとしてテキトーに生きていくつもりだし、やりたいことも、逆にやりたくないことだって無い。
「これから…」
ほれきた。
「お母さんはいなくなります。」
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ん?
「この先、1年間分の生活費と大学にいくためのお金はこの通帳に入ってるから。この家のローンも払い終わってるし、その他の税金のことはそっちでなんとかやってください」
なんだ?
「そういうことだから、さようなら」
「え、ちょっと待てよ」
「…」
「待てよ…!!」
出ていこうとする母の腕を無理やり掴む。
「いなくなるってどういうこと?」
「…」
「黙ってたら分からないだろ…」
「…離しなさい」
無理だ。俺のただ一人の親なんだから。せめて理由を聞かないと納得なんてできやしない。
「何でだよ…母さんっ!」
「やめて!パチン!」
パチン!?この人自分で効果音を付けて殴った!?
「それも、グーで……!?」
ピーポーピーポー、パトカーのサイレンが近付いてきた。
どんどんどんどん
「奥さん!警察です!開けてください!」
バッ、母さんが俺を振り払って玄関に向かう。
「母さん!!」
ガチャ
「警察のものです、通報を受けて参りました。同行してもらえますね」
「はい」
カチャカチャ
「母さん!それは無いよ!!」
ピーポーピーポー、母さんをつれたパトカーが去っていく。
「パチン、は無いだろ…」
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