3 幽霊
「次は市長からお祝いの言葉です」
アナウンスの音が体育館に響く。
今日が卒業式だったことをすっかり忘れていた最後までどうしようもない俺は階段を登る市長の姿をぼんやり見ていた。市長は壇上で一礼し、封筒から手紙を取り出して話し始める。
「厳しい冬の寒さも和らぎ、生命の息吹が感じられる季節になりました。卒業生の皆様、本当におめでとうございます」
市長のありがたい話で右耳から左耳の通しを良くしながら、奥村との会話を思い出す。
奥村は高校1年のとき、華陵サナと同じクラスだったらしい。彼女は人当たりが良くて友人も多く、何よりもその美しい容姿でクラスの男子生徒からの評判も良かったという。そんな彼女が、一学期の終わりも終わり、夏休み直前になって失踪、その後、彼女の訃報が伝えられたそうだ。彼女の死因は伝えられず、不思議なことにニュースにもならなかったため、最後までクラスの誰にも分からなかったらしい。
「それにしても、彼女の名前。華陵サナってよく覚えてたな」
「ああ、特徴的な名前だったしな。それにそのとき、ちょっと気になってたんだよ」
「へぇ、珍しいな。普段はそんなこと興味無さそうなのに」
奥村は少し変な奴で、優しい性格で顔も悪くないからクラスでも結構モテるのにも関わらず、恋愛にあまり興味が無いようで、これまで彼女がいたことが無いらしい。腹立たしい。
そんな奥村でも、あの美しい容姿には心動かずにいられなかったのだろう。
「いやいや、そうじゃないんだ。彼女が美しいことは間違いないけど、そういう意味じゃない」
照れたような笑みをこぼしつつ、彼は続ける。
「彼女はクラスでは明るく振る舞っていたけど、特定の誰かと仲良くしてるところを見たことが無くてね、それが気になってたんだよ。亡くなったって知らせを聞いた後に、彼女とよく一緒にいた女子に聞いたみたら、彼女とは学校では話していたけど学校の外で遊んだりしたことは一度もなかったらしい」
「なるほど、学校だけの仲ってやつだ」
納得しながら、俺は一番に確認しなければいけなかったことを思い出す。
「じゃあ、俺が昨日会った彼女はいったい誰なんだよ。華陵サナなんて名前のやつが近隣に二人もいるとは思えないし・・・」
「それはあれだろ」
奥村は悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「昨日、お前が会ったのは彼女の幽霊だったってことだ」
それから、3年生が卒業式に向かう時間がきたことを知らせる校内放送が流れ、俺たちは教室を後にした。
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