#01 プロローグ
──いかりを上げろ 我らの船旅は終わろうとしている
潮の匂いのする、ダンディーの港を俺は父の”Goodbye, Fare Ye Well”を聴きながら歩いていた。
俺が生まれる数年前にあった大戦争に従軍していた父の右腕は無いが、父はその失くした右腕の付け根を振り、愉快な声色で俺に歌って聞かせる。
──いいかジョンー、アシュトンの家は代々勇敢な船乗りだ。
歌い終わると、父はいつもそうやってアシュトン家の歴史を語る。ピューリタン革命の時代から船乗りを続け、マールバラ公、つまりはウィンストン・チャーチル首相の家系を乗せたことや、王室の方を載せたこともあると、自慢げに語る。
俺はいつだったか、父に聞いたことがある。
”僕は将来空を飛びたい。父さんはそれを知ってるのにどうして船乗りの話をするの”って。
そしたら父さんが、ニヤリと笑って答えたのを俺は今でも覚えている。
──…お前が例え王立空軍に入隊するとしても、御先祖様の話は教訓としてお前の役に立つ時が来ると、俺が思ってるからだ。
そういつも笑っていた父さんは、バトル・オブ・ブリテンの空襲で腰を悪くしていた母さんを庇おうとして二人揃って死んだ。
俺がロンドンを、王室を、歴史あるイングランドの地を守ることに躍起になっていた10月のある日の事だった。
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