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ジャポニカ米が理想です

「つまり、ニーナも契約者ということか」

「ディーノ様も、そういうことですよね」


「……とりあえず、座ろうか」

 ディーノに促され、ニーナは畑の横にあるベンチに腰かけた。



「転生者で契約者……だね?」

「はい。ディーノ様もそうなんですよね?」

「うん。神の使いの猫に脅されてね。仕方なく引き受けたよ」

「お、脅される、ですか?」

 神の使いの猫がエドかどうかはわからないが、それにしても脅すとは穏やかではない。


「そう。メイン攻略対象にならないと国王にするぞ、と言われたよ」

「……それ、脅しなんですか?」

 普通に考えれば、どちらかというとご褒美のような気がするのだが。

 しかし、ディーノは嫌そうに顔を顰める。


「酷い脅しだよ。俺は田舎の領地でのんびりと暮らしたいんだ。本当はざまぁなんてものに関わりたくもない。こうして畑仕事をしていたいし、いずれは米を作りたい」

「お米ですか」

「そう。それも、いわゆる日本の米が食べたい」

 ディーノは、まるで子供の様に瞳を輝かせている。


「なるほど。インディカ米でもジャバニカ米でもなくて、ジャポニカ米を作りたいんですね」

 うなずくニーナの手を、ディーノが勢いよく握りしめた。

「――そう! そうなんだよ。ニーナ、よく知っているね」

 麗しい顔の金茶の瞳に見つめられ、さすがにちょっとドキドキしてしまう。

 これがもしかすると、メインの補正なのかもしれない。


「……日本では、農家の娘だったと思います。たぶん」

「何てことだ。日本で出会いたかったよ、ニーナ!」

「ただの田舎の米農家ですよ?」

「最高じゃないか。理想の女性だよ」


 どうでも良いが、手を離してほしい。

 至近距離の美少年というのは、一種の爆弾だ。

 うかつに近付けば、こちらが火傷しそうである。


「……でも、この国の気候だと難しくないですか?」

「――そう、そうなんだよ! ニーナ、この件はもっとじっくりと話し合いたい」

「それは良いのですが、契約の話をお聞きしたいです」

「そうか、そうだな」

 ようやくニーナの手を離したディーノは、笑顔でうなずいている。



「俺は、クラリッサの婚約者としてヒロインに惹かれ、最終的にはヒロインの所業をばらす係だな」

「私は、周囲を虜にしつつ、クラリッサ様に嫌がらせをされたと言い、ざまぁされる係です」

 それぞれの今後を話すと、顔を見合わせて思わず笑う。

 こんなわけのわからないことを、話せる相手ができるとは思わなかった。


「でも、安心しました。ディーノ様も契約通りに動くのなら、難しい部分がクリアできます」

「難しい部分?」

「『ヒロインの魅力でメインと周囲を虜』だなんて、私にさせようというのだから狂気の沙汰ですよね。多少のヒロイン補正は確認できましたが、正直不安でしたから」

「そうなの?」


「だって、クラリッサ様を見てください。紫紺の髪に翡翠の瞳の、どこからどう見ても麗しのヒロイン……違う、悪役令嬢じゃないですか。ヒロイン補正があっても、私の見てくれは変わらないんですから、上手くいくか心配ですよ」

 ヒロイン補正で急に外見が変わったら、それはそれで嫌だが。


「確かにクラリッサは迫力美人だけど。こういうのは好みだろう? ニーナも可愛いよ」

 そう言って微笑むディーノが眩しい。

「メインの補正を確認しました。安心してください、恐ろしい攻撃力です」

「それは良かった」

 ニーナの報告に、麗しの王子は声を上げて笑った。




「こんばんは」

「エド! 久しぶりね」

 窓辺に現れた白猫は、今日も美しい毛並みだ。

 ニーナは思わず抱え上げて、ふと動きを止める。


「そうだ、事前報告よね。……エドのお腹に顔をうずめてモフモフした後、首の後ろの皮膚がどこまで伸びるのか、つまんでみたいわ」

 白猫は金と青のオッドアイでニーナを見つめると、猫らしからぬ仕草でため息をついた。


「……どうぞ。ご自由に」

「ありがとう」



 一通りエドの毛並みを堪能すると、机の上に戻す。

 本当は抱っこして撫でていたいのだが、それは拒否されたので仕方ない。

「……それで、ヒロインの調子はいかがですか?」

「うん。メインの王子と仲良くなったわ」

「ディーノとですか」


「彼も契約者だったのね。ディーノ様が言っていた神の使いの猫って、エドのこと?」

「……はい」

 では、エドが脅したのか。

 内容からして、ディーノの思考をよく理解している脅し文句だ。

 さすがは神の使い、そのあたりもちゃんとわかっているのだろう。


「お互い契約者だとわかって利害は一致しているし、共通の話題もあって。よくお話しているの」

 あれ以来、ディーノは米の話をするためにニーナを待っているほどだ。

 どれだけジャポニカ米が食べたいのだろう。

 悲願が達成された暁には、是非ともおこぼれにあずかりたい。


「……でも、ざまぁされたら、私はどうなるのかわからないか」

「何ですか?」

「ううん、何でもない。ディーノ様は美少年で目の保養だし、優しいし、良かったわ」

「そう、ですか」


「あ、次はもう一回お腹に顔をうずめた後、手根球をつんつんしたい」

「……どうぞ」

 許可をもらったニーナは意気揚々とお腹に顔をうずめる。



「……ちょっと、面白くないですね」

 白猫がぽつりとこぼした言葉は、モフモフに夢中のニーナには届かなかった。

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「余命わずかの引退聖女は冷酷公爵との厄介払い婚を謳歌したい!」

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英語版「雇われヒロイン」「The Hired Heroine Wants the Villainess to Gloat」紹介ページ

「The Hired Heroine Wants the Villainess to Gloat」

Cross Infinite World Hanami Nishine Rin Hagiwara

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